第8話不死身編その8
不死身編その8
俺は富士見の家のリビングで死んだように寝そべっていた。時刻は0時半。どうしたものか。どうにも頭がうまく働かない。
俺は何の為に富士見を助けようとしたのか。いや、そもそも助ける気なんてなかったのかもしれない。俺はただ、不死身の幽霊という非常識な存在に惹かれただけなのだろう。きっとそうだ。俺は言い聞かせるように思った。
「なにをボケっとしてるんだよ。そんなにあのキスが忘れられなかったか?」
そういえばそうだったな。あのキスには何の意味があったんだ。
「初めてしたってのによ。全然嬉しくないよな」
俺は天井を眺める。ここにはどんな家族が暮らしていたというのだろう。両親はどんな気持ちだったのだろうか。自分の娘に殺されるなんて。
「アンタは、あの女が両親を殺したと思ってるのか?」
ヘッドホンが一応確認するかのように尋ねる。
「それしかないだろ。それなら辻褄があうんだよ。富士見はどういう経緯か知らんが両親を殺した。その後自分も後を追おうとしたけど死ねなかった。だから俺に助けを求めたんだろ。死ぬために」
そう思うと不気味で仕方ない。あの時、俺にどんな感情を抱いて殺してくれって頼んだのか。
「でもそんなことあるかな〜。親を殺してなんで自分も死ぬんだよ?」
「だからいかれてんだよ、富士見は。殺人犯ってのは大体頭がいかれちまってんだ。正常な思考が出来ないんだ。それこそ常識に囚われてないんだよ」
今までの会話。なんだったんだろう。俺は人殺しとあんなに和気あいあいと話していたのか。
「そんなもんなんかね〜。アタシにはわからんな」
そりゃそうだ。お前は人間じゃないからな、と言いかけてなんとか抑える。落ち着かない。なにか忘れている気がする。
「アタシはアンタがあの女をどうしようがなにも思わないよ。で、どうすんのさ? 不死身の幽霊をどうにかするんだろ?」
それだ。俺は不死身の幽霊を吸収する。そのあとは……
「さ〜どうするのかね〜。今のアンタにそこまで考える思考があるとは思えないね」
それも図星だ。頭を冷やすために勝手に飲み物でも飲もうかと思ったが、やめた。
「ホットココアとアイスココアか。他にもあるじゃねえか」
紅茶もコーヒーもある。当たり前だ。富士見の両親も飲み物を飲むのだから。
「アタシはさ、あの女。なにか隠してると思うんだよね」
ヘッドホンが唐突に言った。
「隠してる? なにをだよ。はっきりと口にしなかっただけで両親を殺したことか?」
「う〜ん。そうじゃないんだよな〜。なんつ〜か、女の勘ってやつ?」
ヘッドホンが女の勘とか言っても全然説得力がないな。
「なんていうかさ、行動と言動が一致してない気がするんだよ。やっぱり本当に死にたいんだったら、最初に殺してくれなんて言わないだろ?」
最初はそれが取り憑いている幽霊のせいではないかと疑ったがそれが違うということは先程判明した。
「アタシにはさ、あの女。
俺は富士見の発言を思い出す。
「私を、殺してくれませんか?」
「私に、両親はいないの」
そうだ。嘘だ。両親はいないんじゃない。殺したんだ。しかし何故だ。ここでなぜ俺は殺してくれませんか? という発言も思い浮かべた。これは本当のことじゃないのか?
「本当は言いたくなかった、とか。あるいは
そんなはずは……だとすればなぜ? 言えない理由があるのか? なにかに縛られているならともかく。
「縛られている?」
なんだ。なにか引っかかる。目的もはっきりしたはずなのにまた頭がモヤモヤする。なにか、なにかおかしい。彼女の行動と言動。思い浮かべる。
「俺に、なにかに気づいてもらいたかった……?」
すると、俺の携帯電話が鳴っていることに気づいた。携帯を取り出そうとズボンのポケットに手を突っ込み、電話に出ようとするがポケットからなにか紙が落ちたのに気づいた。なにか入れていただろうか? とりあえず電話に出てみることに。
『よ! 魁斗!』
金髪チャラ男の土津具剛だ。こんな遅くになんだ。
「剛。今何時だと思ってんだよ」
『悪りぃな! ちょっと聞きたいことがあってよ』
なんだよ、といいつつ俺は落ちた紙を拾い上げる。
『動物の幽霊っているのか⁉︎ なんか俺見たかもしれないんだよ!』
紙になにか書いてある。
「え? ああ、そうだな。いるっちゃいるけど、動物霊は見るっていうより……!」
答えきる前に口が止まる。なんだ、これは?
『私の部屋を見て』
紙にはそう書かれていた。つまりこれは富士見が俺に渡した紙なのだ。
「でも、いつ……? まさか、さっきのキスの時か?」
あの時電気をわざわざ消して迫ってきたのに意味があったのか? それとも自分のことを知ってくれという嫌がらせなのか?
『は? キス? お前なに言ってんの??』
「え? あ、ああーあれだ。動物の幽霊はいるけど、動物霊ってのは人に取り憑くから気をつけろよ! じゃあな」
『え、ちょ、まっ』
俺は電話を切り、もう一度紙の文字を読み上げた。
『私の部屋を見て』
「どう思う?」
「これで部屋に大量のナイフとかあったら恐怖だな〜」
「へ、変なことを言うな。と、とりあえずあのキスには意味があったんだ。それだけで十分だろ」
「ふ〜ん。内心がっかりしてんじゃないの〜」
「そんなわけないだろ。まあ、わざわざキスして渡す必要あったのか、とは思うな」
それに、なぜ直接手渡ししなかったのかもだ。
「とりあえず、見るぞ」
「そもそもどこがあの女の部屋なんだ?」
「ここだろ」
俺は1つの扉を指差す。そこにはこう書かれていた。
『超絶美少女の部屋』
「……あの女。やっぱいかれてるかもね」
「触れない方がいいな」
俺は超絶美少女の部屋を開けた。感想としては、普通。普通の部屋、というのが正直なところだった。
「ちぇっ。ナイフとかないのか」
「なんでがっかりしてんだよ」
俺は部屋を観察する。クローゼット、鏡、テーブル、ベッドがあるだけだった。あとクマのぬいぐるみがベッドの上にいた。女の子らしいところがあるんじゃないかと、少し複雑になった。
「ん?」
俺はテーブルの上にノートが1冊置いてあることに気づいた。不自然だった。見てくれと言わんばかりのそれを俺は手に取った。
見ていいのか? ここに書いてあるモノを見てしまっていいのか?
俺は迷った。だが、これで決意しよう。これを見れば全てがわかるかもしれない。だから俺はノートの端に手をつける。内容次第では……富士見のことを、俺はーー
ノートを開いた。そこに、真実が全てあった。
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