第6話不死身編その6

不死身編その6

  俺は富士見の部屋にいた。突然の展開に驚くかもしれないがこれは仕方がなかったのだ。

 どのみちあの時の時間は23時。あのまま話し込んでいたら俺の家に泊めることになってしまう。そうなると父親が帰ってきた時の説明が面倒だと判断したのだ。

 そこで富士見の提案もあり、彼女の家に行くことに。その際に「手は出すな」と念を押された。もちろん初対面でそんな勇気はあるわけないのだがな。


「なにか飲む? アイスココアかホットココア。どちらがいいかしら?」


 そんな流れで富士見の家へとやってきていた。俺の家からそれほど遠くはなかった。大体……30分ぐらいだろうか? さすがに高校よりは遠かったな。


「選択肢はそれしかないのか。普通そこは紅茶とかコーヒーじゃないのか?」


「私は甘いものしか飲まないのよ」


 俺はアイスココアを頼み、用意し始めた富士見を観察する。髪は大体首元あたりまでの長さ。身体の方はどちらかというと細身だろう。の割には胸はかなり主張しているな。


「アンタ。目がヤラシイぞ」


「バ、バカ言うんじゃねぇよ! そんなんじゃなくて取り憑かれてるか確認してんだよ!」


「おや? アンタにそんな観察眼あったっけ〜?」


 ぐぬぬ……実際そんな力はない。ただ確認しないことには始まらないと思ったからだ。


「なに? 私のボディに見とれてたの?」


 否定は出来ないがプライドが許さない。


「ゴホン。さて、話を進めよう」


 俺はココアを飲みつつ話を進める。そもそも俺はどうやってゴーストドレインを使って、幽霊を吸収するのか説明しなければならない。

 対象に触れることが出来れば、あとは俺の気合いで吸収することが出来るのだ。ただし、それは取り憑いている幽霊が。だからまずはそれを確かめる必要がある。


「富士見。手を出せ」


「手? なんのために?」


「今の富士見が本物か確認するんだよ」


 富士見は怪訝そうな顔をする。


「えぇ……私は私よ? なにをわけのわからないことを。それともどうしても触りたいの?」


「いーから手を出せよ」


 富士見は不満そうに手を差し出す。俺はゆっくりと、ただし集中し手を握る……しかしなにも起こらない。

 俺は彼女の手を離した。なにも起こらないということは、今目の前にいる富士見は本人ということになる。


「どう? 私は本物? それとも偽りの女なのかしらね?」


「本物だ。だがそうなると……」


 やはりあの発言は自分の意思ということになる。取り憑いた幽霊のせいではないということに。しかしなにか引っかかる。発言はともかく、彼女におかしいところは他になにもないのだ。


「私に取り憑いている幽霊が私を乗っ取らないことには吸収が出来ないの?」


「ん? ああ、そうだ。幽霊が活動するのは基本夜だからな。今乗っ取られていてもおかしくはなかったんだけどな」


 そもそもつねに不死身の体であるというのもおかしいことなのだ。不死身が幽霊の効果だというなら、取り憑いている幽霊が表に出ていなければならないはずなのだ。

 基本的に幽霊に取り憑かれた人間は体調を崩したり、幻覚を見たりなどの状態にはなるが、取り憑かれて不死身になるなんてそんなとんでもない力などあるはずもない。


「根本的なところが間違っているんじゃないか? 常識の考えから外れるんだよ」


 ヘッドホンがアドバイスになるようなならないようなことを言う。俺もそこそこの知識はあるが、さすがに今回ばかりは例外すぎて想像がつかない。


「不死身の力が発動してる時だけ乗っ取られてるとかは?」


 富士見も考えたのか、提案をする。


「もう一度私がナイフで刺すから、回復している間に確かめるのよ」


「そんなこと……」


 確かにその可能性もある。だがまた彼女が傷つく姿は見たくない。


「心配してくれる気持ちはわかるわ。ありがとう。でも確かめないと先に進めないでしょ?」


 それも事実である。先に進めるためには情報が必要だ。俺はやむを得ず、それを了承した。


「私がナイフで手首を切る。そのあと回復するはずだから、その時に確かめて」


 俺は頷くと、富士見はナイフを取り出し、自らの手首を切る。血は出ない。だがその歪な光景に俺は気分が悪くなる。


「ほら」


 富士見は徐々に回復する手を差し出した。俺はすかさず彼女の手を握った。その時、俺は感じ取ることができた。彼女に取り憑いているものが。


「っ! こいつ、やっぱり幽霊だ!」


 俺は瞬間的に彼女の手を離す。


「それは、このタイミングだけ私は幽霊ってこと?」


「いや、違う。幽霊が取り憑いているってことがわかっただけだ。間違いない。この感じ、幽霊だ」


 これで富士見に取り憑いているのが幽霊であることはわかった。となれば次の問題だ。

 この幽霊は何者なのか、である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る