第5話不死身編その5

不死身編その5

 不死身の女こと富士見姫蓮は、真剣にそう言った。俺は彼女が死に執着することに疑問を覚えた。何故そこまでして死ぬことを選ぶ? それとも彼女の言う死ぬとは不死身で無くなるということを指すのだろうか?


「それは違う。私はこの不死身の体から解放されたら自殺するつもりよ」


 あっさりと。富士見は淡々と語る。


「前に俺を犯罪者にするつもりかって聞いたわよね? あなたにお願いするのは不死身の体を元に戻してもらうだけよ。その後は私が勝手に1人で死ぬだけだから心配しないで。あなたに責任は負わせないわ。あの時の発言はちょっと段階を飛ばしすぎたのよ」


 ここだけは全くふざけずに。ただそれが決まっている事実かのように語る。またなぜか知らないが少し腹が立った。だから俺は単刀直入に質問する。


「どうしてそこまでして死を望むんだ?」


「私は死なないといけないのよ」


「だからどうしてだって言ってんだよ!」


「なにを怒ってるの? あなたが死ぬわけじゃないのよ? それともなに? まだ会ったばかりの私に同情でもしてるつもり? そんなのだったらいらないから」


 訂正しよう。少し怒っているのではなく、かなり怒っている。


「結果としてそうだとしてもだ。俺が不死身を治してしまったら富士見は自殺するんだろ? それじゃ俺が殺したも同然じゃないか!」


「わからないわね。ちっとも」


「わからないだろうな。いかれてるよ」


「……」


 再び沈黙が続く。納得できるか。そんなこと言われて俺が手を貸すわけないではないか。


「はぁ……あんまり正直に話すもんじゃないわね。わかった。あなたの力は借りない。でもそのかわり私の体のことを教えてほしい。それならいいでしょ?」


 俺は、富士見を帰した。


 気づけば時刻は深夜23時を回っていた。富士見は無事に帰れただろうか。なにを心配してるのか。あんなやつのこと。


「どうするの?」


 ヘッドホンが俺に声をかける。結局あの後俺は無理矢理富士見を家から追い出した。納得が出来なかったのだ。どうしても。


「どうもしないだろ」


 今までそれなりの相談は受けてきた。しかしここまでぶっ飛んだ相談は初めてだった。

 富士見はおかしい。大体どうしても死にたいんだったら最初から嘘をつけばよかったのだ。俺に不死身の体はただ嫌だから治してほしいって。


「ねえ、1ついい?」


 ヘッドホンがいつもの調子で声をかける。


「あの女さ。ほんとに死にたいのかな?」


「どういうことだ?」


 だが俺もこのヘッドホンの発言を内心待っていたのかもしれない。なにか引っかかることがあった。


「死にたい、自殺したいって人間はいないとは言えない。だけどこういう言い方もどうかとは思うけど、そう思う人ってのは精神的に不安定な状態だと思うんだ。なおかつそんな精神状態で他人に、これから死ぬから手伝ってくれなんて言えるはずが無いと思う。アタシはここが引っかかる。あの女、そもそもそんな精神状態には見えなかった。むしろ最初。今日最初に会った時だ。あの時あの女は殺してくれって言ってその後かなりあたふたしてたよな? むしろあそこが1番おかしかったとも言えるな。まるで、……そんな風に感じたけどね」


 あの時のことを鮮明に思い出す。まだ数時間前のことだからよく覚えている。富士見が俺に体当たりしてきてその後「私を殺してくれませんか?」と言ったのだ。

 その後かなりあたふたして何を言ってるのかもよくわからなかった。まるで、この後なにを言えばいいのか考えてないようでもあった。

 だとするとそれは一体どういう状況なのか? なにが彼女をそうさせる?


「まさかそれが取り憑いてる霊の正体か?」


 俺は1つの可能性を挙げた。そもそも不死身の幽霊なんて俺は知らないしヘッドホンも知らない。だからそう思わせてるだけなのかもしれない。基本的に幽霊に取り憑かれた人間は人格も乗っ取られる。

 富士見姫蓮とは本来あのような性格ではないのかもしれない。


「アンタにしちゃ頭が働くな。そんなにあの女が忘れられないか?」


「そういう言い方するなよ。めんどくさい彼女みたいだぞ」


「ぶっ……! な、舐めたこと言ってんじゃねーぞ!」


 首元が騒がしい。ともあれ、その線があり得るとするともう一度富士見から話を聞く必要があるかもしれない。


「さすがに、もう家帰ってるよな」


「どうだか。電話してみろよ」


 なんだかんだで携帯の電話番号は入手していた。俺は出ないだろうと思い電話を掛けてみることに。


『はい。超絶美少女、富士見姫蓮と申します。あなたは私を無理矢理追い出した鬼畜君でお間違いないでしょうか?』


「ワンコールで出るって早すぎたろ! 実は待ってたのかってぐらいだな!」


 かけた瞬間、速攻で声が聞こえた。ほんとに待っていたのか?


『バカ言わないで。待つわけないでしょ? 大体あなた、私のこと助けてくれないんでしょ?』


「いや、やらせろ」


『え?』


「だから、俺に協力させろって言ってるんだ。富士見の不死身を治してやれるかもしれないからな」


 富士見はしばし黙った後、こう続けた。


『……いいの? 私、不死身じゃなくなったら……死ぬ、のよ?』


「そうだな。それについても考えがある。だから今からまた会えるか?」


 俺はここであえて、と言った。殺すことに賛成したとも言わず、あくまで別の道があるかのように伝えたかったのだ。


『わかったわ。なら迎えにきてくれる? 外で待ってるから』


 俺はわかったと言うと電話を切り、外へと出る。意外にも、目の前に富士見がいた。

 俺は一瞬考えた。彼女を帰したのは約1時間前のことだ。なのにもうここにいる。いくらなんでも早すぎる。つまりだ。富士見は帰らなかったのだ。ずっと、ここで待っていたのだ。


「富士見。助けてやるよ。いいか? 俺は富士見を助けるんだからな?」


「ふふ……期待してるわ」


 この時の富士見は本当に普通の少女のようだった。

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