第4話不死身編その4
不死身編その4
富士見は不思議なモノを見るかのような表情をして言った。
「そんなこといきなりドヤ顔で言われても困るんだけど」
せっかく真面目に話そうと思った矢先これだ。いきなり罵倒されるというのはどうなのだろうか?
「おま……富士見。その言いようはなんだ。やっぱり俺に恨みがあるのか?」
お前、といいかけてすごく睨まれた気がしたのですぐに訂正した。
「恨み? あるわけないでしょ。あったらわざわざこんなこと頼むわけないじゃない。プライドが傷つくんだけど」
「わかった。とりあえず俺が話すことにいちいちケチをつけるな。話が進まん」
「わかった。あなたの言うことにはこれからいちいちケチはつけないことにする」
「えっと、なんだっけな。とりあえず俺は幽霊を吸収できる能力、ゴーストドレイン。とかいう名前らしいんだけど、そういう力を持ってるんだ」
「え! なにそれ! すごいカッコいいんだけど! うわぁー! 憧れちゃう!」
「そうだな。ケチだけじゃなく褒めるのも禁止にしよう」
など言いつつも俺はもう一度自身の力を説明する。
ゴーストドレイン。これが俺の持つ特殊能力だ。幽霊を吸収できる能力。俺がこの力を使えるようになったのは今年の4月。新学期を迎えて間もない頃だった。その時に俺は運命的な出会いをしたのだ。
「それがそのヘッドホンさん? でいいのかしら?」
その通りだ。俺の首に掛かっているヘッドホン。正確には出会った時はヘッドホンではなかったのだが。
「そういや富士見。富士見はヘッドホンが普通に喋ってることに何も違和感を覚えなかったのか?」
「それは感じたわよ。最初はあなたの頭がいかれてしまってるのかとも思ったけど、普通に声が私にも聞こえたから。信じるしかないと思っただけよ」
「俺がヘッドホンと喋ってなくてもいかれてるって思ってそうだけどな」
「ああそうだった。しまった」
なにがしまっただ。
「そういやヘッドホン。お前もなんで普通に富士見の前で声を出した? 基本的に他人の前では声を出すなって言ってるだろ?」
俺はヘッドホンにも確認をする。
「ん? ああ、この女はこの程度なら驚きはしないと思ってね。不死身の女とか言われているぐらいなんだ。ヘッドホンが喋ったぐらいじゃ驚かないだろ? それにアンタのこと調べてたみたいだし、もしかするともう知ってたのかも、とか考えたね」
まあ実際にはそこまでの衝撃は受けてはいないようだった。やはりそれなりのイレギュラーというものに慣れているのだろう。
「それで、あなたの名前はヘッドホン、で構わないの? それとも別に名前があるの?」
「ん? いや、実際のところ名前は覚えてないんだ。だからそのまんまのヘッドホンってこいつが名付けたんだ」
その通りだ。名前が無いというのも呼びづらいからな。
「じゃあヘッドホンさん。あなたは幽霊なの?」
「まあそこんところどうなんだろうな。一応アタシは付喪神ってことになっている」
付喪神。本来は
もちろんだが俺のヘッドホンが九十九年間も使われているわけではない。俺の所有するコレクションの中で1番長く使われているものが彼女が取り憑いたヘッドホンだったということだ。
「へぇ。付喪神ね。付喪神も幽霊の部類なの?」
「ああ。神なんて付いてるけど実際は幽霊の部類なんだ。アタシは神以上の存在だと思ってるけどね!」
「そこ、誇るところなのか?」
「あ? なんか文句あるのか??」
首元で暴れだすヘッドホン。ある程度なら動くことも出来るのだ。
「ヘッドホンさんは記憶喪失ってことなのかしら? 自分の名前も覚えてないなんて……それに付喪神ってことになっているってことは本来は違うってことになるのかしら?」
「その辺はほんとに曖昧なんだよ〜。そうだよな?」
ヘッドホンは俺に同意を求めるように声をかける。
「ああそうだ。お前はなにも覚えてないんだ」
俺はまるで
「ふぅん。それで怪奇谷君。あなたとヘッドホンさんはどういう事情があって出会ったの?」
「怪奇谷君⁉︎ 富士見! 今怪奇谷君って言ったのか⁉︎」
「な、なに? 言ったけど……嫌だった? なら変えるわよ。カッキー」
「や、やめないで! てかなんだよカッキーってよ! さすがにそれは恥ずかしがるって!」
「なんでアンタは少し嬉しそうなのよ」
怪奇谷君という呼び方が新鮮だったのか少し興奮してしまった。我ながら気持ち悪いと思う。
「それでガッキー。どういう事情があって出会ったの?」
「ガッキーはガキみたいで嫌だな」
「それでコッキー。どういう事情があって出会ったの?」
「もはや誰だよ」
「いいから話進めなさいよ」
俺とヘッドホンの出会い。それを説明するには若干の
「そうだな。俺から説明するよりもお前が説明した方がいいんじゃないか?」
「そう? まあいいけど。アタシの記憶ではアンタが敵に襲われているところをアタシが助けたってところが最初の出会い、だったかな? 合ってるよね?」
「そうだな。あいつはまあ厄介なやつだったからな。お前が来てくれてほんとに助かったよ」
これはほとんど嘘である。合っているといえば合っているのだが、彼女は大きな勘違いをしているのだ。
でもこれは彼女の前では話すことが出来ない。だから富士見にもそれは説明はしない。話す時がくれば話すとしよう。
「で、そんなこんなで俺は要は幽霊退治みたいなことが出来るようになってしまったわけで、いい意味でも悪い意味でもちょっとした有名人になっちまったんだよ。それからたびたび幽霊に関する問題について相談されるようになったんだよな」
迷惑そうに話すが俺は実際そこまで迷惑には感じていなかった。人助けが出来るというのはとてもいい気分がするからだ。少なくとも俺はそう感じていた。
「それで怪奇谷君は幽霊相談所を開いたのね」
「いや、それに関しては周りの奴らが勝手に言ってるだけで俺はそんな相談所なんて開いたつもりはないんだけどな」
これは若干迷惑している。相談所なんていうとたまにどうでもいいような内容で相談されたりもするのだ。先日も謎めいた相談を受けた。
(心臓がバクバクすることが増えた。何かに取り憑かれているのでしょうか?)
という相談を受けた。俺は「最近なにか変わったことはあったか?」と聞いてみると
*遅刻しそうになってダッシュすることが増えた
*部活の大会で発表する機会があった
*心霊スポットに行った
*○○くんに告白した
こう返ってきた。まあ、これは幽霊に取り憑かれているのではないとわかった。なぜなら答えが全部原因だからだ。
「とまあ、こんな感じであんまり相談所ってのには納得はしてないな」
「そうなの? 私はその噂を聞いたから恥を忍んであなたにお願いをしに来たのよ」
「一体なんの恥かは知らんがな」
とはいえ、実際にその噂を聞きつけて富士見は俺を頼ったのだ。そこはまあ、正直嬉しい。
「俺たちのことは大体わかったか? まあざっくりまとめると、俺はゴーストドレインという能力を持っていて、幽霊関係の問題解決のための相談をたびたび受けているってとこかな」
「やるわねー。あなたまとめる天才なんじゃない?」
「さあ次は富士見の番だな」
「人が褒めてるのにスルー? 傷つくじゃない」
「俺はそれ以上に傷ついてるんだがな」
「いいから続けろよ」
再びヘッドホンに怒られる。なんかこの流れ安定してきた気がする。
「あっ」
「なに? どうかした? 推しのアイドルが出る番組がそろそろ始まるから帰ってくれって? ひどいもんね」
「なんもいってねぇだろ! いや時間だよ。もう10時だぞ。さすがに時間遅いんじゃないか?」
「明日は土曜だし学校もないでしょ? まだ大丈夫よ」
「つってもな。親御さんとか心配してるんじゃないか?」
「両親いないのよ」
地雷を踏んだか。俺よりも家庭事情に何かありそうだった。
「あー……すまん」
「謝ることではないでしょ? むしろ謝られることに嫌な気分になるわね」
俺の家もそうだが、家庭事情とは他人が深入りしていいものではないと思う。だからここで話をそらす。
「とにかくだ。ここに泊まるわけにはいかないだろ? だから今日はもう帰った方がいいって。話なら明日聞くからさ」
「ダメなの。すぐに解決して欲しいの。もう私はこんな体嫌なの……」
ここまで話していて、初めて。富士見が本当に辛そうな顔をして、本当に助けを求めるようにして、言った。
「私は死ななくちゃならないの」
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