第39話 戦隊、宇宙で邪神と決戦する 前編

 「敵、浸食率八十パーセント!」

 ピンクがコックピット内に浮かぶデジタルスクリーンを見て叫ぶ。

 『……お、お母様っ! 皆さん、あの人を止めて下さい!』

 本体はサイキョーダイユーシャの腕になっているのでホログラフ状態でコックピット内に顕現して驚愕して叫ぶシルバー。

 画面に映るのは、この世界の月面をドロドロとした邪悪な黒い泥が埋め尽くそうとしている光景だった。

 「何ですの、あれがあの女神だったムーナですの?」

 イエローが恐ろしさを感じながら呟く。

 「はい、あのように月を侵食して強大な存在になろうとしているのかと」

 ゴールドが答える。

 「神様の仕事ほっぽって何してるんだヨ~ッ!」

 ブルーが怒りの叫びを上げる。

 「同感だ、ただでさえ碌な仕事をしていないのに奴にこれ以上この世界を好きにさせない! サイキョ―ブラスターの発射許可を!」

 ブラックがレッドに許可を求める。

 「エネルギーには余裕があるわ、ぶちかましちゃって♪」

 グリーンがスクリーンで機体のチェックをしながらゴーサインを出す。

 「ドーンと行け~♪」

 ホワイトも行けると見ていた。

 「よし、サイキョ―ブラスター発射!」

 レッドが叫ぶと、サイキョーダイユーシャの全身から虹色に輝く光線が月へと発射される!


 泥に覆われつつある月へと放たれた虹色の光線、だがその光が届く前に、月を覆いかけていた黒い泥から巨大な女性の口が生えてサイキョ―ブラスターを吸い込んだ。

 「……はあ? なんだありゃ!」

 レッドはその光景を見て気持ち悪さと怒りを感じた。

 「何なんですか、気色悪い!」

 ピンクも嫌悪感を感じて怒る。

 「とんでもない化け物だね、でもやるしかないヨ~ッ!」

 己を鼓舞する意味を込めて歌うように叫ぶブルー。

 「すまない、私の判断ミスだ」

 ブラックが謝る。

 「あれは、変身中や合体中の攻撃が弾かれるようなものですわ!」

 イエローが気丈に振舞う。

 「そうです、ただのお約束なのでお気になさらず!」

 ゴールドもブラックを励ますように叫ぶ。

 「ブラックちゃん、マスクオープンして南瓜プリンをど~ぞ♪」

 ホワイトがどこからか皿に乗った南瓜プリンを取り出してブラックに差し出す。

 「ありがとう、ホワイトママ♪」

 ブラックがマスクをオープンして一気に南瓜プリンを食べ切る。

 「皆も、気持ちをリフレッシュよ♪」

 ホワイトが全員に南瓜プリンを差し出す。

 「お茶も飲んで、私達の勝利のカウントダウンまで長丁場よ♪」

 グリーンも全員に薬草茶を振舞う。

 「回復は適宜に、RPGのお約束ですね♪」

 ピンクがプリンとお茶を平らげて呟く。

 「よっし、改めてラスボス攻略に挑むぜ♪」

 レッドが気を取り直して叫んだ。


 戦隊達がサイキョーダイユーシャの中で心身を復調させたと同時に、月は黒きふぉろに覆われて巨大な漆黒のウェディングドレスを身に纏った花嫁の姿となった。

 「……我が勇者リントよ、良くぞ使命を果たし神へと至りました♪ 報酬として、女神たる我の伴侶となる事を認めます♪」

 宇宙でも、サイキョーダイユーシャに乗っていても聞こえて来るムーナの声。

 それは美しい声であった、男なら誰でも聞きほれて魅了される声であった。

 「断る、勝手な事を抜かすな! 人間の男なら引っかかるだろうが今の俺にはお前は泥の集合体にしか見えねえよ馬鹿野郎っ!」

 ムーナの言葉を拒絶するレッド、そもそも自分を地球から誘拐して来た相手に愛情とか抱けない。

 シルバーナの事だけは感謝するが、功があっても罪の方が大きい。

 「……そ、そんな! シルバーナ、貴方の主でありお父様をこっちに連れて来て頂戴!」

 拒絶の言葉に戸惑い、シルバーに命令するムーナ。

 「……お断りですお母様、いえ邪神ムーナ! レッドさんは、輪人さんのお嫁さんは私達です! レッドさんと出会わせてくれれた事には感謝しますが、それ以外は駄目駄目です! 貴方を倒して、私があなたの後を継ぎます!」

 ホログラフの状態でシルバーが叫ぶ。

 「……おのれ、この親不孝者の裏切り者がっ!」

 ムーナがキレて周囲の隕石を投げつけて来る。


 「良く言ったシルバーちゃん♪ サイキョ―ドリルキック!」

 ブラックがシルバーを褒めつつ叫ぶ。

 サイキョーダイユーシャの足のドリルが、高速回転する。

 その状態でサイキョーダイユーシャ廻し蹴りを放ち、迫りくる隕石を粉砕した。

 「ええ、ちゃんとと言えて偉いですわ♪ こちらもお返しでごめんあそばせ♪ サイキョ―クレーンスイングですわ♪」

 イエローが今度は足のクレーンを伸ばすとクレーンの先に虹色に光る鉄球が生成される。

 そして、サイキョーダイユーシャがクレーンの付いた方の足を振り回せばのび太鉄球がヌンチャクの如くムーナを殴打する。

 「おのれ、我から夫を奪う大罪人共め! だが、我は屈せぬぞ!」

 攻撃に耐えつつミニブラックホールを発射してくるムーナ。

 

 「そっちの方が私達から奪おうとする花婿泥棒だよ! 世界を制する左の拳、サイキョ―ライナーラッシュだヨ~ウッ♪」

 ブルーが陽気に叫べば、サイキョーダイユーシャの左の拳が超高速のピストン運動を行い次元を割って逆にミニブラックホールを次元の割れ目に吸い込んだ。

 「ブルーさん、何気に格闘もできますよね」

 ピンクが呟く。

 「ああ、私リントのじっちゃの道場に通ってたよ♪」

 ブルーがあっけらかんと言う。

 「そういや子供の頃、組手に付き合わされたな」

 レッドが昔を思い出す。

 「レッドさんの田舎、みんなで遊びに行きましょう♪」

 シルバーがはしゃぐ。

 「その為にも、ムーナは絶対に倒さねばなりませんね♪」

 ゴールドがまとめる。

 「皆、いつものノリになって来たわね~♪ あら、敵から熱源反応よ!」

 グリーンが仮面の下で微笑みつつも焦る。

 「大丈夫、皆も世界も守って見せるわ♪ サイキョ―スフィア~♪」

 ホワイトが技の名を叫ぶと、サイキョーダイユーシャの股間の河馬の頭の口が開き自分達のみならずレッド達が飛び立った世である星ごと包み込んで摩耗巨大な球体状の金色の光りのバリヤーが展開された。

 「おのれ、世界も勇者も我の物だと言うのに! 邪魔者どもめ、消えろっ!」

 そして、憤怒の形相のムーナが口から吐き出した巨大な闇を光のバリヤーが防ぐ。

 「だから、先輩は私達がもう購入済みですってば!」

 ピンクが吠える。

 「そうだ、レッド君は渡さない!」

 ブラックも叫ぶ。

 「レッド様の妻の座は、私達八人でもう定員が埋まっておりますの♪」

 イエローが煽るように告げる。

 「乗車拒否だヨ~♪」

 ブルーも悪乗りする。

 「ムーナ、私達の間にはあなたが入り込む余地などありません!」

 ゴールドも断言する。

 「いや、お前ら言い方!」

 レッドがツッコむが無視された。


 「……そうか、ならば我が貴様らも世界も勇者の故郷である地球も全て取り込んでから新たに我が夫として勇者を産み出せば良いではないか♪」

 ムーナが狂気の発想に至り思った事を口にする。

 「ちょ、お前地球まで狙うつもりか? そんな事は絶対に差せねえ!」

 ムーナの発言にレッドが反応する、異世界にいても神となってもユウシャインは地球を守るヒーローである事を忘れてはいなかった。

 「先輩、あの発言は地球への侵略の意志ありと見ます!」

 ピンクが言質を取ったぞとばかりに叫ぶ。

 「うん、地球を狙う悪の怪物は倒さないといけないね♪」

 ブラックも大義名分を得たと頷く。

 「レッドちゃん、ムーナがどんどん浸食しようと泥を出して来たわ!」

 ホワイトが焦る、外の空間ではムーナが再び己の体を泥に変えて世界を侵食しようと蠢き出したのだ。

 「レッドちゃん、今がオーブの凄いブーストの使い時よ♪」

 グリーンが絆のオーブの力を使えと言い出す。

 「わかった、絆のオーブよ俺達に力を貸してくれ!」

 レッドが叫ぶと、彼のブレスレットから九つの光り輝くオーブが飛び出して回転しながら消える。

 すると、今度はサイキョーダイユーシャの背後に巨大な九曜紋の如くオーブが出現した。

 「よし、オーブの力でサイキョオ―ダイユーシャと世界を繋げるぜ合体だ!」

 レッドが叫ぶとオーブが回転し次元の門が開き世界を星ごと吸い込んだ。

 そして回転を止めたオーブを後光のように背負うサイキョーダイユーシャ。


 ムーナが泥を広げて巨大化するのに対抗するように、世界を吸い込んだサイキョーダイユーシャも巨大化して行く。

 「何、そちらも巨大化して行くだと?」

 ムーナが相手の行動を見て驚きの声を上げる。

 「お前にできる事が、神になった俺達にできないと思ったのか?」

 レッドが告げる。

 「こちらはあなたのように取り込んだのではなく別次元に保護した上で、住民の皆様から力をお借りしています!」

 ピンクが叫ぶ。

 「聞こえるぞレッド君、人々が私達ユウシャインを応援してくれる声が♪」

 ブラックが喜ぶ。

 「世界の住民の皆、色々あって俺達が新しい世界の神になった! 邪神となったかつての神を倒して平和を取り戻すまで力を貸してくれ!」

 サイキョーダイユーシャの中から、世界の住民達へメッセージを送るレッド。

 世界に住む住民達から、レッドに承諾する旨の声が聞こえた。

 

 「改めて名乗るぜ、炎の主神ユウシャレッド!」

 レッドから名乗りを上げ始める。

 「技芸の風神、ユウシャブルーだヨ~ウ♪」

 ギターをかき鳴らして名乗るブルー。

 「海と漁業の神、ユウシャイエローですわ♪」

  イエローが喜びの声で名乗る。

 「悪にお仕置きスパッと判決! 冥界と司法の神、ユウシャブラック!」

 ブラックがガベルを叩いて名乗る。

 「山林と狩猟の女神、ユウシャピンクです!」

 ピンクも弓矢を出して名乗る。

 「照らして導く太陽の光明神、ユウシャゴールド♪」

 ゴールドが神々しく名乗った。

 「古き神を継し銀月の女神、ユウシャシルバーです♪」

 自分を生み出したムーナを睨みつつ、笑顔で名乗るシルバー。

 「学問と蛙の女神、ユウシャグリーン♪」

 ケロケロと笑いながら名乗るグリーンであった。

 「家庭も守る河馬の女神、ユウシャホワイトよ~♪」

 最後に名乗るのはホワイト。

 「神のパワーで、未來を拓く! 勇輝戦隊ユウシャイン!」

 最後に戦隊名を名乗ったのはレッドだ。

 「おのれ勇者よ、我から全てを奪うつもりか!」

 ムーナが怨嗟の叫びを上げる。

 「奪っていたのはお前だろうが? 世界も平和も取り返す、ここからが勝負だ!」

 レッドが叫ぶ、決戦は第二ラウンドになだれ込んだのであった。

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