第38話 魔王軍との巨大決戦 後編

 『パパ! 新手が来るよ!』

 「マジか、キツイけどやるしかねえ!」

 初めて神の力を使いデスナイトを倒したレッド。

 ユウキスフィンクスの声に疲労に耐えつつ闘志を燃やす。

 そんな彼が乗るユウキスフィンクスの前に空から降り立ったのは、黒い女騎士。

 「あっれ~♪ 一体だけしかいませんね~会長~?」

 女騎士型のロボ、クイーンダイマオーからランゾーンの声が響き渡る。

 「は♪ なら丁度良いわ、邪魔が来ない内に叩きましょう♪」

 オシウーリの声も響き渡る。

 「ほう、あれが新型の巨人か? 我が名は魔王アナトラ、そしてこれが我らが決戦兵器である魔王巨人クイーンダイマオーだ!」

 アナトラが最後に名乗る。

 「マジか、ここで魔王のお出ましか? ユウキスフィンクス、月はどうなってる?」

 レッドが敵の名乗りを聞きつつ、突きを侵食しようとしているムーナについて尋ねる。

 『ムーナは、月の浸食率45パーセント! ママ達を呼んだから、頑張って!』

 ユウキスフィンクスが状況を語りつつレッドを案じる。

 「んじゃあ、ちゃっちゃと行きますか? 魔王ミサ~~イル♪」

 ランゾーンがロボットアニメのノリで叫び、クイーンダイマオーの胸からミサイルを発射する。

 「ら、ランゾーン殿? 勇者の名乗りを聞いてから!」

 アナトラが焦って叫ぶ。

 「陛下、まずは勇者を捕える事が先よ!」

 オシウーリが通信でアナトラに意見する。

 「ぐぬぬ、そうだな! 気乗りはせんが、仕方あるまい」

 武人気質のアナトラ、だが客将にして友人のオシウーリの言葉もわかるので頷く。

 「手負いの獅子を舐めるな馬鹿野郎!」

 ユウキスフィンクスを人型からライオンモードへ変形させてミサイルを避けて体当たりをかますレッド。

 その体当たりはヒットし、クイーンダイマオーを突き飛ばす。

 「……く、やるな勇者よ♪ さあ、ここからが勝負の開始だ♪」

 アナトラは攻撃されたが、嬉しそうだった。

 不意打ちなどよりも正面からのぶつかり合いを好む彼女は、相手による一撃を受けた事で気分が晴れた。

 「……くそ、あの魔王だけは見所はありそうだが面倒くせえ!」

 体当たりから高速バックで、相手と距離を取るユウキスフィンクス。

 

 「ちょっと陛下、喜ばないでよ!」

 「そうですぜ、これはスポーツじゃないんですから」

 オシウーリとランゾーンが同時に通信機で叫ぶ。

 「わかっている、だが私は真っ向勝負が好きなんだ♪」

 アナトラはテンションが高まっていた。

 「勇者よ、この勝負で我が勝ったら我らの配下となれ♪ ダイマオーソード♪」

 アナトラが勝って兄要求を叫ぶと同時に、空間に穴を開けて巨大な劍を穴から取り出して上段に構える。

 「何好き勝手な事抜かしてるんだあいつは?」

 レッドの操作で再び人型モードに変形なり、拳を構えるユウキスフィンクス。

 そんな時、空から二つの巨大な影が舞い降りた。

 「お待たせしました、旦那様っ!」

 隼の頭に河馬の胴体の巨人、コダイユーシャの中からゴールドが叫ぶ。

 「貴方達なんかに、私達のダーリンは渡しません!」

 乗っているパイロットを代表して、ムーンユーシャが叫ぶ。

 どちらもクイーンダイマオーに聞こえるように通信をオープンで叫んでいる。

 

 「皆ありがとう、愛してるぜ♪」

 レッドだけは、仲間達にだけに通信で礼を言う。

 すると、コダイユーシャとムーンユーシャの機体から金色の炎が燃え上がった。

 「旦那様の愛の言葉、力が沸き上がります♪」

 「私達も、元気が溢れて来ました♪」

 コダイユーシャとムーンユーシャがユウキスフィンクスに触れると、ユウキスフィンクスにも黄金の炎が燃え移る。

 「うおっ? 何か力が戻って来た!」

 『凄い、パパの言葉がママ達のエネルギーを増幅させてそのエネルギーがこっちに流れて来てる♪』

 ユウキスフィンクスも元気になってはしゃぐ。

 「これが愛の力ですよ♪」

 ユウキスフィンクスの内部にピンクから通信が入る。

 

 そんあ戦隊側のやり取りを知らぬクイーンダイマオーサイドは、突然の敵の増援と敵機からのエネルギーの噴出を警戒して動けあなかった。

 「ちいっ! 何かアイツらムカつく!」

 オシウーリが自身のクイーンダイマオーの操縦席で唸る。

 「うっわ~、ヤバいですよあのエネルギー? 敵が元気になって来てる!」

 ランゾーンが敵方の様子もわかる計器類を見て警告する。

 「ほう、つまりここからが全力の勇者達と戦えるのか♪」

 アナトラが嬉しそうに呟く。

 「いや、陛下? 負けたら終わりなんだからね、しっかりしてよ!」

 オシウーリがアナトラにツッコむ。

 「会長、これはもしや覚悟した方が良いんじゃ?」

 ランゾーンは嫌な予感に襲われていた。


 「よし、全員揃ったなら合体だ♪ 行くぜ、最強合体だ!」

 『うん、合体フィールド展開するよ♪』

 レッドが叫ぶと同時に、三機の周囲に金色のエネルギーのドームが形成される。

 「ちょ、奴ら合体始めたてっていうの?」

 オシウーリが慌てる、地球出身の彼女からすればヒーローのロボが全部合体した場合に負けるのは悪側だと知っているからだ。

 「げげ、敵機エネルギー観測計が壊れた! 会長、陛下、あれはガチでこっちじゃどうにもならないですって!」

 ランゾーンも焦る、自分と魔王軍の技術を全部つぎ込んだクイーンダイマオーでも突破できないエネルギーが形成されているとわかったからだ。

 「おお! 敵ながら何と美い輝きか♪ 勇者の全力、受けた上で勝ちたい♪」

 アナトラは初めて見る戦隊のロボットの合体シークエンスに見惚れていた。

 「ちょっと陛下、しっかりしなさいよ!」

 「駄目です会長、魔王陛下がくっころ女騎士みたいになてます!」

 頼みの綱の魔王がヤバい精神状態になったと焦るアクドーイの二人。

 

 ユウシャインのロボット達は変形と合体を行っていた。

 

 ムーンユーシャとコダイユーシャは全機分離、レッドバイソンが口の開いた牛の頭を被った人間というヘッドパーツに変形。

ライオン形態に変形し、四肢を収納し胴体部分となったユウキスフィンクスと合体して首と胴が繋がる。


 それと変形したホワイトタマスが合体、牛とライオンと河馬の頭が縦一列に並ぶ。

 ブラックのドリル戦車が左足、イエローのクレーンが右足に合体。

 シルバーナが左右に別れて両腕の上腕に変形、右肩はピンクウルフで右前腕と拳ははグリーンフロッグが担当し合体。

 左肩はゴールドファルコンの頭部、左前腕はブルーライナーと合体。

 残ったゴールドファルコンは背部に合体し翼となる。

 分離に変形、合体に合体を繰り返した戦隊のメカ達。

 彼らの全てのメカが一つになった時、多頭の異形にして最強の巨人。

 その名も、サイキョーダイユーシャが誕生したのであった。

 「「完成、サイキョーダイユーシャ!」」

 操縦席に全員揃った戦隊メンバーが、声を揃えて叫びを上げる。

 バックには、戦隊達全員の色で象られた九曜紋を背負ってのお披露目だ。

 「天下御免の全合体、サイキョーダイユーシャいざ参る!」

 機体の中でレッドが代表として口上を上げる。

 すると、機体の方もレッドの意を組んだのか?

 歌舞伎役者の如く、主役は自分だと言わんばかりに唯一の観客にして敵役とも言えるクイーンダイマオーに対して力強い見得を切るサイキョーダイユーシャ。


 ここからが、荒事の開幕なのであった。

 「……おおおっ、敵ながら何と素晴らしい名乗り口上だっ♪ 素晴らしすぎるぞ、サイキョーダイユーシャよ♪」

 クイーンダイマオーの中で、アナトラが初めて歌舞伎を見た外国人観光客のように感動する。

 「いや、感動してないでよ! 私達や魔族の命と国の未来がかかってるんだからね!」

 魅了されているアナトラに呆れて叫ぶオシウーリ。

 だが、アナトラには友の言葉は届いていなかった。

 「ちょっと会長、逃げる用意しないと! あれっ、脱出装置が動かない!」

 ランゾーンは脱出装置のレバーを入れても作動しない事に焦っていた。

 『どこに逃げると言うの? 魔王軍に敵前逃亡は許さなれいわ!』

 ランゾーンの目の前に、彼がクイーンダイマオーのエンジンに組み込んだデプスの顔が浮かび上がる。

 「いや~? 僕は、生きてこそじゃないのかな~っと思うんですけど?」

 デプスに答えるランゾーン、だが彼女は恐ろしい形相でランゾーンを睨むと彼の全身い電撃を流して気絶させた。

 『痴れ者は黙らせました、陛下のお望みのままに』

 そう言うとデプスは消えた。

 「ちょ、ランゾーン? もうこうなったら勝つしかない、ネガティブチャージ!」

 オシウーリは覚悟を決めて、自分の負の感情を機体へと注いだ。

 「これこそ夢にまで見た一騎討ち、命を賭けた晴れ舞台! さあ、武器を抜けサイキョーダイユーシャ♪」

 自分が物語の登場人物になったかのような精神状態のアナトラ、彼女のテンションにクイーンダイマオーも答えるかの如くダイマオーソードを大上段に構えて全身から漆黒のエネルギーを放出する。


 「敵ながら高潔な人物のようだな、魔王は」

 サイキョーダイユーシャの中でブラックが呟く。

 「何でアクドーイと組んだんだろ?」

 ブルーは理解できなかった。

 「良い根性ですね、ならばこちらも全力で行きましょう先輩!」

 ピンクは気合いを入れて叫ぶ。

 「ええ、敵が望むならこちらも全力の一撃でもって答えるべきです」

 ゴールドも同意の声を上げる。

 「相手が剣ならこっちも武器で行きましょう♪」

 シルバーがマスクの下で微笑む。

 「よっし、ならこいつだ! 来い、サイキョーダイカタナ―!」

 レッドがデジタルスクリーンを操作して武器を選ぶ。


 サイキョーダイユーシャからほら貝の大音声が鳴り響き、頭上に異空間への穴が開くと穴の中から降りて来るのは山の如き巨大な真紅の刃を持つ大太刀の柄がサイキョーダイユーシャの両手に握られ大上段に構えられる。

 「行くぜ天下の一刀、最強天晴断さいきょうてんせいだんっ!」

 己に向かって突っ込んで来るクイーンダイマオーに怯む事無く、真っ向勝負で金色の炎に包まれた大太刀を振り下ろすサイキョーダイユーシャ。

 その一刀は、クイーンダイマオーを文字通り両断すると共に中の操縦者諸共光の粒子に変えて消し去った。

 「魔王アナトラ、顔は知らないが格好良い人物だったんだろうな」

 レッドは初めて倒した敵に対して合掌し、その命を弔った。

 かくして、戦隊達は魔王軍との戦いに勝利した。

 「皆様、月がそろそろ真っ黒に染まてしまいますわ!」

 イエローの叫びに、空気が変わる。

 魔王軍だけが敵ではない、最後の敵はあの月にいるムーナだ。

 「よっしゃ、サイキョーダイユーシャ宇宙へ向かうぜ!」

 レッドが叫び、サイキョーダイユーシャは両足と背中の翼からロケットの如く黄金の炎を噴き出して飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る