第37話 魔王軍との巨大決戦 前編

 「聞けい、勇者よ! これまで散々敗れて来たが今度こそ勝つ!」

 黒い騎士型ロボット、魔族巨人デスナイトの通信機能でスカルマが叫ぶ。

 「上等だ、こっちこそお前との因縁をここで終わらせるぞ前座野郎!」

 対するは黄金の獅子頭を胴に持つファラオの如き巨人ユウキスフィンクスに乗ったユウシャレッド、機体の中で叫び応じる。

 「ユウキスフィンクス、月が少しづつ黒くなって来てるのはムーナの仕業か?」

 『うん、パパ達の世界で言う所のローディングが始まってる!』

 「マジか、なら魔王軍五時間をかけてられないな? 皆、全力で行くぜ!」

 レッドが別の場所の防衛に向かった仲間達に通信を入れると、了解との応答が来る。

 「喰らえ我が怨み、デスミサイル!」

 スカルマが操るデスナイトが両腕を突き出して、十の指から黒く巨大なエネルギー弾を発射する。

 「我が勇気で打ち砕く、ファラオシャウト!」

 ユウキスフィンクスが吠え、黄金のエネルギー波が黒き凶弾を消滅させる!

 「まだだ! 唸れ我が憎悪の刃、デスブレード!」

 デスナイトが腰に帯びた劍を抜いて脇に構えれば、銀の刀身が漆黒の闇に染まる。

 「アクドーイの技術課、洒落臭えっ! こっちはファラオロッドだ!」

 レッドの叫びと共にユウキスフィンクスの手に金色の王笏が握られる。

 「ちぇりゃ~~~っ!」

 「ふん!」

 闇の刃と金色の王笏がぶつかり合う。

 「貴様らを倒して、この世界を我ら魔族の物とする!」

 鍔迫り合いから押し切ろうとするデスナイト。

 「そんな事させるか、この世界は俺達が世直しする!」

 押し返すユウキスフィンクス。


 レッドがデスナイトと苦戦している時、リョウマの街とルナの街でも戦いが行なわれていた。

 ルナの街では、シルバーナをコアとしたロボットのムーンユーシャが巨大な熊の怪人グマーとその配下から街を守るべく戦っていた。

 「ぐおおっ、くたばれ銀人形!」

 「私達もこの街もやられません!」

 グマーは巨大化薬を使用し、捨て身の巨大戦をムーンユーシャに挑む中その足元では街に火を放って火各所で災を起こしているグマーの配下の魔族達と冒険者が戦っていた。

 「勇者達だけじゃねえ、この街には俺達冒険者もいるんだ!」

 上半身裸にモヒカン頭の戦士風の冒険者が剣を振るい魔王軍御兵を切り倒す。

 「魔法を使える方は水魔法での消火や障壁魔法で建物の守りを! 前衛蜀の方は地上の敵を!」

 冒険者達の指揮を執るのはメト、彼女の指揮に冒険者だけでなくムーナ教団も従って街の防衛に励んでいた。

 「神の使徒として、信徒が暮らす街は守る! 行くぞ皆!」

 「神の名の下に、慈愛を持って!」

 新しく赴任していた真っ当なムーナ教団の司祭の号令に、配下の神官戦士達が応えて出撃。

神官戦士達がメイスを振るって敵兵と戦い、司祭が逃げ遅れた市民を探しては神殿への避難を誘導していた。

 「ムーナ教団にも人格者はいたんですね」

 ピンクがムーンユーシャの中で呟く。

 「そうだね、彼らに任せて私達は熊退治だ♪」

 ブラックが元気よく叫ぶ。

 「海の神になったのに、リョウマの街に行けなかった鬱憤を晴らさせていただきますわ!」

 『イエローさん、駄目な事言わないで下さい!』

 コアロボットになっているシルバーがイエローを叱る。

 「ごめんあそばせ♪ イエローアンカーをお使いになって!」

 イエローが叫ぶとムーンユーシャの手に巨大な黄色の錨が握られる。

 「んあ? 何だその武器はって、ぐは~~~っ!」

 驚くグマーに対する答えは怒りによる殴打であった。

 「はい♪ 悪い熊さんは、熊鍋にして食べちゃいます!」

 ムーンユーシャがイエローアンカーを大上段に構えるとムーンユーシャとグマーのみが闇に包まれて現実世界から消えた。

 「ぶはっ! う、海だとっ!」

 グマーが突然、大海原の上に落とされて驚く。

 ムーンユーシャは海の上に立ち、溺れてもがくグマーをイエローアンカーの鎖で絡め取った。

 「さあ、世にも珍しい熊の一本釣りですわ♪」

 イエローが叫び、ムーンユーシャが溺れるグマーを釣り上げて異空間の空の上に放り投げた。

 「止めだね、ブラックジャッジメント!」

 ブラックが叫ぶと、ムーンユーシャは錨から巨大な裁判で使用されるハンマーの形をした武器であるブラックガベルへと持ち換える。

 そして、空から落ちて来たグマーをフルスイングでぶっ叩いた!

 この一撃でグマーは爆散し、ムーンユーシャだけが現実空間へと帰還した。

 「おい、でかい熊の化け物が消えて勇者の巨人が帰って来たぞ!」

 冒険者の一人がムーンユーシャを見て叫ぶ。

 「よっしゃ、でかい奴がいなけりゃ俺らでも勝てる!」

 「人間を舐めるな魔族共!」

 ムーンユーシャの帰還に勇気づけられた冒険者や人間達が奮起して、残る魔王軍を倒して行く。

 「さて、レッドと合流の前に消火作業と行くか」

 ブラックが呟く。

 「お任せあれ、恵みの雨ですわ~♪」

 イエローが歌うようにブラックに応じる。

 すると、ムーンユーシャが空に舞い上がってイエローアンカーを空中で振り回せばルナの街の全体を雨雲が覆い急速に大雨が降り出して街の火災を消し止めた。

 「すげえ、勇者の巨人が雨を降らせたぞ♪」

 「火が消えて行く、助かったんだ♪」

 「ありがとうございます、勇者様♪」

 戦いが終わり雨も止むと、人々は勇者に感謝した。

 「皆さん、レッド先輩の所へ急ぎましょう!」

 ムーンユーシャの中でピンクが叫ぶ。

 「そうだね、月がどんどん黒くなってる」

 ブラックも機内で月の変化を見て呟く。

 「できれば、月が完全に黒く染まる前に決着を付けたいですわね?」

 イエローがこの後の戦いを憂う中、ムーンユーシャはレッドの所へと飛び立った。


 時は遡りリョウマの街、こちらも巨大化した鮫の怪人サメ―とその配下の半魚人軍団に港が種撃されていた。

 「ゲハハ♪ 野郎負共、荒らしまくれ~っ♪」

 サメ―が笑いながら港の倉庫などを踏み荒らして暴れる。

 「ふざけんな、俺らの港を守るぞ!」

 「魚に漁師が負けるかよ!」

 「ギョギョ~~ッ、人間を刺身にしてやるギョ~ッ!」

 「人と魚の命の獲り合いじゃ~~っ!」

 血気盛んで勇猛な海の戦士である漁師達や、魚屋達が銛や鉤や包丁を手に武装して敵兵達に立ち向かい港町は戦場となっていた。

 そんな戦場の空に大音声で響き渡るは巨大な黄金の隼の鳴き声。

 「と、鳥だ!」

 「いや、河馬もいるぞ!」

 「何かデカい槍と蛙も飛んでる!」

 鳴き声を聞き、空を見上げた者達は見た。

 金の隼の頭を持つ巨大な白い河馬の巨人の姿を。

 「そ、空からでかい河馬だと~~~っ!」

 サメ―が自分の目の前に降り立った巨人、コダイユーシャを見て愕然とした。

 巨人、コダイユーシャから美しい女性の声が響き渡る。

 「リョウマの街の皆様、勇輝戦隊ユウシャインがただいまお助けに参りました!」

 女性の声はゴールドの物、それを聞いた漁師達が叫びを上げる。

 「よっしゃ~! 勇者様が来てくれたならこっちの勝ちだ、でかいのは任せた!」

 叫んだのは勇者達の協力者であるジョージ、ジョージの言葉に漁師達が応と叫んで

奮起して戦う。

 戦いの流れは、コダイユーシャの登場で一気に人類側に向いた。

 「上等だ河馬野郎、覚悟しろ!」

 サメ―が鋸状の刃を持つ巨大な刀を取り出して振るう!

 「負けないわ、どっか~~ん♪」

 サメ―の刃が届くよりも早く、コダイユーシャが河馬形態に変形して体当たりをぶちかませばサメ―は大海原へとぶっ飛ばされる。

 「ホワイトちゃん、そのまま突進よ~♪」

 機体の中でグリーンがホワイトに叫ぶ。

 「おっけ~♪ これ以上街に被害は出させないわ~♪」

 ホワイトが機体を突進させ、サメ―との水中戦に移行する。

 

 「舐めるなよ、海の中ならこっちのもんだ!」

 サメ―が巨大なツインヘッドシャークへと変化し、コダイユーシャへ襲い掛かる。

 だが、コダイユーシャは巨大な青いギターを抱きかき鳴らした。

 海中でも響き渡るギターの音色と衝撃波にサメ―の動きが止まる。

 「これが技芸の神の力だヨ~ッ♪」

 機体の中で妖気に叫ぶブルー。

 「カエルの神様の力も見せちゃうわよ~♪」

 今度はグリーンがコダイユーシャを操ると、腕に付いている蛙の頭から強烈な泡が噴出しサメ―の鰓や鼻などに纏わり付く。

 「止めは私が、コダイユーシャ・ファルコンバースト!」

 最後はゴールドが叫ぶとコダイユーシャの全身が発光し、金色の光の鳥となって突進してサメ―を貫き爆散させた。

 「イェ~~イ♪ 大勝利ね~♪」

 サメ―を撃破してホワイトが喜ぶ。

 「ええ、後はこのままレッド様の我らが夫の所へ戻りますよ!」

 ゴールドの叫びに皆が頷き、コダイユーシャはそのまま海中を進みレッドの所へと向かったのであった。


 そして、仲間達が撃破する中レッドのユウキスフィンクスとスカルマのデスナイトの勝負が続いていた。

 「ふははっは♪ 勇者よ、我を滅ぼせるものなら滅ぼして見せろ♪」

 レッドを煽りつつ、攻撃で破壊された箇所を再生させるデスナイト。

 「ち、殺しても甦るとか面倒だな? 待てよ、ならばあの手があるか?」

 戦いながら攻略法を思いつくレッドは距離を取る。

 「どうした勇者よ、逃げるのか?」

 距離を取ったユウキスフィンクスに何かを感じて叫ぶスカルマ。

 「誰が逃げるか、主神の力を試してやるぜ!」

 王笏であるファラオロッドを振り回して、巨大な金色の光の玉を作るユウキスフィンクス。

 「殺せないなら転生させてやる! 人間になれ、リンカーネーション!」

 巨大な光の玉をデスナイトへと放り投げたユウキスフィンクス。

 「……ふ♪ 何をほざく、か~~~~~っ!」

 殺されても痛くもかゆくもない、と己の不死性を過信したデスナイトはッ光の玉の直撃を敢えて受ける。

 それが彼の最後の過ちであったと気付いた時には、スカルマは全裸でどことも知れない空間にいた。

 「こ、ここはどこだ? 勇者との戦いはどうなった?」

 スカルマは驚くも全身を圧せられて、急速に何処かへと流されて行った。

 「……がはっ! この力、一気にエネルギーが持っていかれる!」

 主を失い、崩れ落ちたデスナイトを見てレッドは呟きへたりこんだ。

 『パパ、しっかりして! 魔王軍の新手が迫ってる!』

 ユウキスフィンクスがレッドに警告する。

 「マジか、エネルギーが足りねえってのに!」

 神になったとは言え、大して信仰のエネルギーもない状態でまだ生きている命を転生させるという大技を行なったレッドは疲労によりピンチに陥ってしまった。

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