第29話 経験値を求めての旅

 「取り敢えず、エネルギーがいる理由は分かったぜ」

 輪人はユウキスフィンクスから聞いた理由を仲間達に語った。

 「つまり、いっぱい食べてガンガン戦えって事だね♪」

 ヒナミは納得した。

 「そう聞くと、いつもの事と言う感じですわね」

 ヴィクトリアも、普段と同じかと理解した。

 「いや、違うな? これからはこちらから攻める必要もあるか」

 純子が違うと言い出した。

 「でも、我々の方から敵を求めて行くと言うのは何か違いますよね」

 桃花が疑問を口にする。

 「そうだよな、俺達は基本的に守る為や助ける為に戦うわけだし」

 輪人も悩む、成長の必要はわかってはいるが自分達から敵を攻めに行くのは違うのである。

 「依頼をくまなく探して、強い敵に困っている人達を探して助けに行きましょう」

 シルバーナの提案に輪人は頷いた。

 「それしかないな、表稼業の冒険者の身分を活用するか」

 かくして、戦隊は依頼を探してルナの街にあるギルドハウスを出ようとした。


 そんな時、ギルドアハウスのドアがノックされる。

 「どなたですか~?」

 シルバーナが尋ねると、メトです~と返事が来たので彼女がドアを開けた。

 「お邪魔いたします、勇者様方」

 メトが挨拶をして入って来た。

 「あら、いらっしゃいませ」

 ヴィクトリアが、来客用のお茶を淹れて出迎える。

 「お久しぶりですメトさん」

 桃花が挨拶をしつつ、茶請けのケーキを用意する。

 「もしかして、裏依頼?」

 ヒナミがメトに用件を尋ねる。

 「何か事件でもあったんですか?」

 純子がお茶とケーキをメトに差し出して聞いてみる。

 「ああ、いただきます」

 メトがお茶とケーキを素早く平らげると、ごちそうさまでしたと言って話を切り出した。

 「いえ、これは表の依頼ですがもしかしたら裏に繋がるかもしれません」

 と言ってメトが一枚のポスターを取り出してみせた。

 「え~っと、魔導巨人まどうきょじん博覧会?」

 輪人が、彼らからすればどう見ても巨大ロボットが描かれたポスターを見て読み上げる。

 「ああ、魔導巨人なら私知ってます♪」

 シルバーナが元気に答える。

 「え~っと、どういう事?」

 わけがわからない輪人にシルバーナが答える。

 「はい、女神が生んだ勇者の為の巨人シルバーナにあやかり各国が魔導エンジンで動く巨人を作り出したんです」

 自分を他人事のように語るシルバーナ。

 「バーナさんの言う通りです、皆さまも巨人に乗られてるからお分かりかと思ってましたがムーナ教団が信徒達の国に巨人を作る技術を売って作らせたのです」

 メトが答えた。


 「……え、何してるのムーナの教団って?」

 魔法の力で動く巨大ロボットの技術を国家に流して作らせたと言うのを理解して唖然とする輪人。

 「それって、国同士が巨大ロボットで戦争できる世界になってしまったって事じゃないですか!」

 桃花が驚いて叫んだ。

 「……えっと、何だかとても面倒臭い事になって来たよ?」

 ヒナミがあららと苦笑い。

 「どうせどこもお題目は、巨大な魔物や魔王軍に対抗する為とかでしょうねえ?」

 ヴィクトリアもため息を吐く、彼女達のいた地球でもヒーローや悪の組織だけでなく国家が巨大ロボットを軍事利用していたのだ。

 「アクドーイも、ロボットで商売をしていたな」

 純子が嫌な事を思い出す、もしかすると魔王軍も巨大ロボットを出して来るかもしれないのだ。

 「何と言うか、一気に文明のレベルが上がって来たな」

 輪人の額から冷や汗が流れる。

 「はい、ついこの間まで魔導軍艦が最新技術の産物でしたが」

 メトも何かを思い浮かべながら呟く。


 「しかし、急速過ぎますねそんなに早く作れる物なのでしょうか?」

 桃花が疑問を口にする。

 「確かに、これまで世に出なかったのが不思議ですわね?」

 ヴィクトリアも気になる。

 「ロボットが作れるなら、魔王軍が脅威になってないよ」

 ヒナミもツッコむように語る。

 「それに関しては、魔導エンジンの効率の悪さの所為ですね」

 メトが語り出す。

 「そんなに効率が悪い物なのかな?」

 純子がメトに聞き返した。

 「はい、魔導エンジンは魔力を溜めておけず常に術者が魔力を注がねばならないのです」

 メトが語った。

 「それだと、乗り物に積んだら何人も魔力を注ぐ人が必要になるな」

 輪人が呟けば、メトが頷く。

 「はい、なので魔導軍艦は魔導士官と呼ばれる魔力の高い人材を何十人も乗せねばならないのですが魔導巨人も似たような物かと?」

 メトの答えに、輪人達は茫然となった。

 「それを聞くと、俺達のロボって物凄すぎるスーパーロボットなんだな」

 輪人がジーラに感謝する。

 「そうだね、ジーラがいなければダイユーシャも魔導巨人と同じかそれ以下のスペックに泣ていたかもしれない」

 純子も冷や汗を垂らしながら呟いた。

 「ですね、それでこの博覧会で何か仕事があるんですか?」

 桃花がメトに仕事内容を尋ねた。

 「はい、皆さまもこの博覧会の警備のお仕事に参加されてはと思いましてお声がけに参らせていただきました」

 メトが笑顔で語る。

 「ああ、何か起こるかおもしれないからな? その依頼、引き受けるぜ♪」

 輪人がメトの話に乗った、輪人が引き受けたならば仲間達も頷く。


 「それでは皆様、博覧会の場所はガータ国からさらに北へ進んだスウェーランドにて行われますので宜しくお願いいたします♪」

 一行が依頼を受けて書類にサインすると、メトはギルドハウスから出て行った。

 「さて、それじゃあ皆準備をしたら行こうか♪」

 輪人が仲間達に告げると仲間達は頷いた。

 旅の準備でルナの街の通りへ買い物に出かけた輪人達、買い物ついでに話を聞けばスウェーランドへはリョウマの街から船で行く方が早いとの事で彼らは久ぶりにリョウマの街へとまずは馬車で旅だった。

 「は~~~♪ 海は良いですわ~~♪」

 釣り好きのヴィクトリアがリョウマの街でうっとりする。

 「ヴィクトリア、釣りはスウェーランドでもできるみたいだから我慢してくれ!」

 船の港ではなく、海岸へ行こうとするヴィクトリア輪人が止める。

 「相変わらずこの街は魚が美味しいよ♪」

 屋台で焼き魚を買って食うヒナミと純子。

 「もう、皆さんこの街じゃなくスウェーランドを観光しましょう!」

 桃花が仲間達にツッコむ。

 「スウェーランドは蟹が美味しいらしいですよ皆さん♪」

 シルバーナが港町で聞いた事を語る。

 「蟹かあ、じゃあ早く皆でスウェーランドへ行って食べようぜ♪」

 輪人の蟹を食おうという一言で戦隊の心は一つとなり、彼らはリョウマの街の港から出ている快速船に乗ってスウェーランドへと旅立った。


 そして、船を降りた一行。

 「ここがスウェーランドか、ここも活気があるな」

 輪人達が降りたスウェーランドの港は、漁船や客船に仰々しい砲門が見える帆船である魔導軍艦など様々な船が停泊していて賑わっていた。

 輪人達は港に停泊している船の中に、かつて自分達が助けた魔導軍艦があったのも築かず歩いてゆく。

 「人も多いですねえ、ただリョウマの街より少し冷えるかもです」

 桃花がどさくさに紛れて輪人にくっつくと、純子やヴィクトリア達も輪人に四方からくっついて来た。

 「ちょ、待て! これは押し競饅頭状態だからやめて!」

 四方からの熱に当てられた輪人が叫ぶ。

 「皆さん、楽しそうですけれど遊ぶなら他で遊びましょう♪」

 シルバーナが見当違いな事を言う。

 相も変わらずぐだぐだな旅をする輪人達であった。


 港を出た一行は、博覧会が開かれる街へと順調に辿り着く事が出来た。

 「この辺り、魔王軍が攻めて来たりしないのか?」

 野生のモンスターは出たので、狩って食料にした程度の戦闘しかせずに辿り着けた事に驚く輪人。

 「うん、もしかしてこの国は港以外は魔王軍に旨味がないのかも?」

 純子も感想を述べる。

 「……ああ、海から離れてしまいましたわ~!」

 輪人の次に海と釣りを愛するヴィクトリアが残念がる、彼女にはこの世界の海を釣り尽くすという野望があった。

 「ヴィクトリアさん、帰りに釣りをして行きましょうね♪」

 桃花がヴィクトリアをなだめる。

 「……うう、ならばせめて滞在中は食べる者は魚介類縛りでお願いいたしますわ」

 元気はないが欲求はあるヴィクトリアであった。

 「ヴィクトリアの妄言は却下するとして、メトさんから聞いた宿に向かおうよ♪」

 ヒナミが早く宿に行こうとせかす。

 「はい、熊のお肉のお鍋が美味しい宿だそうで楽しみです♪」

 シルバーナが聞いた情報に期待で胸をふくらませる。

 「いや、食い気全開も良いが仕事も大事だからな皆?」

 輪人がツッコミを入れる。

 「輪人、ロボの事になると真面目な気がするよ?」

 ヒナミが笑顔で輪人をからかう。

 「先輩、巨大ロボット好きですからね」

 桃花が溜息をつく。

 「うん、輪人君はロボよりも私達の方を構って欲しいな?」

 純子もやれやれと肩をすくめる。

 「いや、そう言うわけじゃないからな!」

 正直、魔導巨人に興味がないわけではないが否定する輪人。

 

 ぐだぐだなやり取りをしながらその日は宿を取り、仲間達と熊鍋を囲んで英気を養うのであった。

 そして、博覧会の会場である広大な広場に着いた輪人達。

 目玉である魔導巨人達はどれも白いシートで覆われて寝かされていた。

 「これから祭りが始まると言う感じだな」

 当日は、どんな巨大ロボが展示されるのか気になる輪人。

 そんな彼と仲間達の前に一人の人物が近づいてきた。

 「失礼、君達が警備の依頼に参加する冒険者かな?」

 黒髪に褐色の肌で、水色の軍服を着た精悍な中年男性が輪人達に声をかける。

 「はい、そうですルナの街から来ました」

 軍人に返事をする輪人。

 「そうか、私が今回君達の依頼人にあたるスウェーランド海軍広報士官のトトだ宜しく頼むよ」

 そう自己紹介をするトトが輪人に手を差し出してきた。

 「はい、宜しくお願いしますトトさん」

 トトの手を握り返す輪人。

 「ほう、良い目と魔力をしているね? この仕事の後は、海軍士官学校に入らないか? 年齢性別出自は不問で、受け付けているよ♪」

 輪人を勧誘してくるトト。

 「あ~、興味深いお話ですが暫くは冒険者を続ける予定です」

 と柔らかく断る輪人であった。

 「そうか、パンフレットは後であげるので今後の人生の選択肢に加えて見て欲しい

私のようにジーラ人でも出世ができるぞ♪」

 輪人がジーラ人に魔法で擬装しているからか、同じジーラ人だと思ったトトが笑顔で語り去って行った。

 「トトさん、ジーラ人なのですね」

 ヴィクトリアが呟く。

 「彼を見るに、ジーラ人が社会の上層部に着くのは難しいのだろうな」

 純子も何かを想った、そんな出会いもありつつ輪人達は博覧会の警備の仕事に挑む事となった。

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