第24話 大鍋を手に入れろ! 前編

 かくして一行は、野を越えて険しい山道を狩りと野営で乗り越えてガータ国へと辿り着いた。

 「冒険者か? 大鍋祭りなら今年はないかも知れんぞ?」

 輪人達が国の入り口で冒険者の身分証を衛兵に見せれば、衛兵はため息交じりで答えて一行を通す。

 山間にある小国のガータ国唯一の街ザーワは、祭りの時期だと言うのに活気がなかった。

 「昼間だと言うのに、通りに活気がありませんね?」

 桃花が周囲を見回して呟く。

 「あれ、この街の感じが何かあの時の隠れ里に似てるな?」

 ザーワの街に入った輪人は、以前立ち寄った事のなるジーラ人の隠れ里と似た空気を感じた。

 「そう言えば、どことなくあの場所と似た空気のような?」

 桃花が輪人に同意する。

 「まずは宿を取ろうか? 拠点を確保してから本格的に動こう」

 純子の提案に皆が頷く。

 「……あの! 提案何ですが、皆であそこの串焼きを食べませんか♪」

 シルバーナがお腹を鳴らしながら提案する。

 「家のパーティー、食いしん坊率が高いけど乗るぜ」

 輪人がその提案に乗った。

 「お金を落とせば、何か聞けるかもしれないね♪」

 「経済を回す事は大事ですわね」

 ヒナミとヴィクトリアも賛成する。

 「じゃあ、まずは腹ごしらえだね♪ すみません、下さいな~♪」

 最年長の食いしん坊柱、純子が串焼き屋へと向かうのに皆が付いて行く。


 「はい、いらっしゃい! お客さん達、冒険者ですか?」

 串焼き屋の店主は純子に驚きつつも、冒険者かと尋ねてくる。

 「ええ、私達はルナの街から来た冒険者ですの♪ あら、サンド状のもございますのねソースも色取り取りとなると六種全種類下さいな♪」

 ヴィクトリアが注文し、串焼き屋で牛肉をパンにはさんだ料理を全員分購入した。

 「あ、ありがてえ♪ あんたらは、良い人だ♪」

 「ご店主、折角なのであるだけ肉を焼いていただこうか♪」

 降ってわいた大量注文に感謝した店主に、純子が買い占め宣言をした。

 「いただきます♪」

 「いや、皆食い気に走り過ぎじゃね!」

 輪人も食いつつツッコムが追いつかない。

 「この辺で、良いお宿はない?」

 ヒナミが店主に尋ねる。

 「それなら、この先にある宿が最高ですよ♪」

 店主が答える。

 「じゃあ、そこに泊まります♪」

 桃花が笑顔で答えた。


 「完売、ありがとうございました~♪」

 大儲けをした店主にお礼を言われながら、串焼き屋を去る一行。

 教わった、宿は白壁の大きな三階建ての建物だった。

 「立派な宿だけど、静かだな?」

 中に入り手続きをして部屋を取る一行、赤青黄、桃黒銀と色分けで部屋割りをして三人部屋を二つ取り腰を落ち着けた。

 「さて、試しにジーラに連絡してみるか」

 輪人がブレスレットを操作するとホログラフのディスプレイが浮かび、ジーラと繋がった。

 「り、輪人様? 街を解放されたのですか!」

 応答したジーラも驚いていた。

 「いや、まだだけどもしかしてこの街ってジーラと関係あるのか?」

 互いに驚きつつ話をする二人。

 「どうしたの、ジーラと連絡が付いたの?」

 「という事は、この街はジーラさんと関係が?」

 ヒナミとヴィクトリアもディスプレイに近寄る。

 「お待ちください、皆さまのいる場所はもしや?」

 ジーラが離席して司令室で検索を行いすぐに戻る。

 「……失礼いたしました、皆様のいる街は私の神器を隠していた場所です!」

 ジーラが叫ぶ。


 「もしかして、その神器って大きい鍋だったりしない?」

 「はい、勿論鍋としての機能も備えておりますが現在開発しようとしている新型メカのエンジンになる物です! 是非とも確保して下さいませ!」

 輪人の言葉にジーラが頷き、ものすごい勢いで頼んで来る。

 「お、おう! わかった、もしかしてその大鍋って俺なら居場所がわかって何とかできるのか?」

 勢いに気圧されつつも尋ねる輪人。

 「はい、私の物は伴侶である輪人様の物ですから当然です♪」

 答えつつ微笑を染めるジーラ。

 「つまり、この街の大鍋は我々ユウシャインの共有財産であるという事ですのね」

 「輪人の感じた事は間違ってなかったって事だね」

 「ええ、私達八人は全員が輪人様の妻姉妹ですからその未来の為にも何卒よろしくお願いいたします♪」

 ヴィクトリアとヒナミに笑顔で応じるジーラ。

 「さらりととんでもない事言ってるよな、俺も全員に責任取るって言ったけど!」

 輪人がツッコむが部屋にいる仲間やジーラは動じなかった。

 「桃花さん達にも、情報共有いたしますね」

 ジーラが別室の桃花達にも連絡を取り情報を共有した。

 ジーラからの連絡で同じ部屋に集まった全員が話し合う。


 「つまり、この街はジーラさんの文明のデポと言う所でしょうか?」

 話を受けた桃花が呟く。

 「そのようだね、どうも宿の人の話からすると大鍋祭りと言うのもジーラ人の祭りを受け継いだとか?」

 純子が複雑そうな顔で語る、受け継いだと言えば聞こえが良いが先住民であったはずのジーラの民の末路は良い物ではなかったのだろう。

 「助けられなかった人達がいたのは残念だけど、今の街の住人が悪いかと言えば違うんだよな」

 輪人が溜息をつく。

 「今の街の人達も、いずれは新たなジーラの民になるんだから助けるよ♪」

 ヒナミが笑顔で答える。

 「ええ、私達は勇者なのですから」

 ヴィクトリアも微笑む。

 「じゃあ、私達の大鍋を遺跡を取り戻しに行きましょう♪」

 シルバーナの言葉に皆が応と頷いた。

 「よし、ユウシャイン出動だぜ♪」

 輪人達は部屋を出て、黄色い着物を着た宿の女将に話を聞いてみた。


 その結果、祭りの大鍋は遺跡に描かれていた壁画を参考に街で作った物で遺跡には壁画以外何もないという話を聞かされた。

 「という事は、お祭りができないかもというのは?」

 純子が女将に尋ねる。

 「魔王軍が攻めて来て、牛泥棒をしたり大鍋を壊されまして大鍋はまだ朱然が終わらないんですお客様方のようにお祭りを楽しみに来られた方には申しえ分けございませんが」

 女将が申し訳なさそうに答える。

 「なるほど、ギルドで修繕の素材集めや手伝い募集の依頼はあるんですか?」

 今度は桃花が尋ねると女将が頷く。

 「じゃあ、俺達も依頼を受けて鍋の修繕とか手伝いますよ」

 輪人が言うと、女将は頭を下げて彼らを見送った。


 「さて、じゃあ輪人君は遺跡担当として後はどう割り振りするかな?」

 純子が思案する。

 「部屋の割り振りで良いと思うよ♪」

 「私も同意です」

 ヴィクトリアとヒナミが答える。

 「むむ、何かずるいですよ?」

 桃花が睨む。

 「はい、頑張ってお鍋の修繕のお手伝いをします♪」

 シルバーナが笑顔で手を挙げた。

 「そうだね、ここは私と桃花ちゃんでシルバーナちゃんを援護しよう」

 純子が納得したので桃花も渋々従った。

 

 そして、宿の部屋割りで遺跡と依頼へと一行は別れた。


 「どうやら、俺達の大鍋は遺跡の中にあるみたいだ」

 何かに導かれるように山道を進む輪人。

 「おそらく、セキュリティが機能しているのでしょうね」

 ヴィクトリアが推察する。

 「そうだね、街の人達と揉めないで大鍋を手に入れられるのが何よりだよ♪」

 ヒナミが笑う。

 そして一行は山の中の洞窟前に辿り着く。

 「間違いない、この奥だ」

 輪人が洞窟に入ろうとした時、崖の上から声が響いた。


 「やって来たな勇者共、やはりこちらのジーラの遺跡が正解か!」

 「そう言うお前らは魔王軍、って今度は猿の怪人か!」

 輪人が崖の上の白毛に赤面の猿の怪人と戦闘員達をみやる。

 「街の人達に迷惑をかけた罪、その命で償いなさい!」

 魔王軍には情け無用とヴィクトリアが断罪を宣告

 「食べ物の怨みは恐ろしいんだよ♪」

 ヒナミも容赦しないとユウキブレスのスイッチを入れる。

 輪人達が瞬時にユウシャインへ変身すると、敵も崖から滑り降りて来て戦闘開始となった。

 「ウキ~~ッ! 先に怒られに帰ったスカルマのせいでとんだ手間だぜ!」

 白猿の怪人が長いロッドを振るいレッドに襲い掛かる。

 「ざまあみやがれ、レッドブルラッシュ!」

 怪人の操る突きの連打を、ガントレットを嵌めた拳の連打で迎え撃つレッド。

 「戦闘員の皆様は、釣られて踊っていただきますわ♪ イエローロッドロンド!」

 イエローが釣り竿で戦闘員を釣り上げて振り回す。

 「残りはブルースマッシャーでお陀仏してもらうよ、アディオス!」

 ブルーが二丁拳銃から水弾を放ち戦闘員の体に穴を開けて沈めて行く。

 「げげ、俺様の手下どもがやられちまった!」

 「尻尾を巻いて逃げるなら、見逃してやるぜ?」

 「ふざけるな、このハクエーン様は死んでも逃げねえ!」

 白猿怪人ハクエーンはレッドと距離を取ると、耳をほじってアンプルを取り出し自らの首へと突き刺した。

 「踏みつぶしてやる~~~!」

 「しまった、巨大化か面倒くさい!」

 「ダイユーシャを呼びましょう!」

 「駄目ね、召喚不可能って表示されたよ!」

 「しまった、パーティー分断したからか?」

 巨大化したハクエーンに対抗するべく、ダイユーシャを召喚しようとしたユウシャインの三人であったが召喚が出来ずハクエーンから逃げ回る事となった。

 

 だが、彼らにはこういう時に頼れる味方がいたのだ。

 「ごめんなさい、遺跡に行った輪人さん達がピンチみたいです!」

 桃花や純子達と三人で別の山で採掘の仕事をしていたシルバーナが、輪人のピンチに気が付く。

 「バーナちゃん、先輩達をお願いします!」

 「うん、頼むよバーナちゃん♪」

 「良いんですか、桃花さん?」

 「私達も行きたいですが、適材適所ですからお願いします!」

 「わかりました、チョワ~~~ッチ!」

 シルバーナが可愛らしく叫びを上げると、ぐんぐんカットである意味本来の巨大な白い騎士の姿へと変身して飛び立った。


 「げひゃっひゃ、くたばれ~っ!」

 ハクエーンが巨大化したロッドを大地に突き立てて、レッド達をいたぶる。

 「させません! とりゃ~~っ!」

 シルバーナが空からハクエーンへと跳び蹴りをかまして、エントリーした。

 「すまないシルバーナ、自力で変形したのか?」

 「ありがとうございますわ、それにしても巨大ヒーローも兼ねてるって美味しい子ですわね」

 「ありがとうね、シルバー♪」

 助けに来てくれたシルバーナに礼を言う三人。

 「お待たせいたしました皆さん、私に乗って下さい♪」

 シルバーナが礼を言ったレッド達へ額から牽引ビームを放って彼らを取り込んだ。

 大鍋を巡る戦いは第二ラウンドに移行した。

 

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