第二章 戦隊、潜伏活動する!

第15話 戦隊、冒険者になる

 ヌビスの勧めに従い、旅路を歩むユウシャインの五人。

 「ここは大きな街だな、城はないけれど」

 輪人が呟く。

 「特に見張りなどは置いていないようですね?」

 桃花が疑問を感じる。

 「油断なのか、それとも何かあるのか?」

 純子も気になったようだ。

 「それより、ヌビスさんの地図の場所に行こうよ♪」

 ヒナミが笑って桃花達の背中を押す。

 「そうですわ、まずは街での寝床の確保です♪」

 ヴィクトリアも元気に進む。

 「確かに、行かなきゃ始まらないな♪」

 仲間達の言葉に頷いた輪人も、勢いよく進み出して全員が街に入った。

 一行が入った街は通りは石畳で舗装されて家や商店は木よりも土壁と西洋風

の街並みをしていた。

 「おいおい、何だか珍妙なパーティーだな?」

 「クラス構成がわからねえ、何処から来たんだ?」

 「あれって多分、冒険者よねえ?」

 相変わらず街の住人達からは珍奇な目で見られる一行であった。

 「すみません、このハニーシロップパンを八人分下さい♪」

 輪人はそう言って、通りのパン屋で茶色く焼けたパンを人数分購入してから店の者に尋ねてみた。

 「ところで、冒険者が依頼を受けに行く所へは何処にありますか?」

 と丁寧に尋ねる。

 「ああ、冒険者管理協会ぼうけんしゃかんりきょうかいなら先へ進んだ中央広場前だよ♪」

 パン屋の女将は快く教えてくれたので、輪人は礼を言い仲間の所へと戻った。

 「先輩、いきなり何をされてるんですか?」」

 「いや、皆にパンを買うついでに冒険者管理協会について場所を聞いて来た」

 「じゃあ、広場でパンを食べようか♪」

 「美味しそうなパンですわね♪」

 「賛成♪」

 「ところで、3個余っているのは誰の?」

 ヒナミが輪人に尋ねる。

 「ジーラとケトさんとエレトさんの分だよ、あまりじゃないって」

 笑いながら答える輪人。

 「そうだね、今は八人戦隊だしね帰ったら渡そう♪」

 純子が微笑む。

 「それでしたら、もう少し多めに買っておきましょう♪」

 ヴィクトリアが追加購入を提案する。

 「では、後で皆で買いに行きましょう♪」 

 桃花が話をまとめた。

 一行は中央の人工池が作られた広場のベンチで、語り合いながらパンを食べて一休みをした。

 

 そして、広場近くにある三階建ての赤い屋根の建物へと向かった。

 「いらっしゃいませ、冒険者管理協会へようこそ♪」

 入り口中央の受付で、黒いドレスを着た緑の髪の女性が一行を笑顔で出迎える。

 「すみません、冒険者の登録ってどうすれば良いんですか?」

 輪人が女性に尋ねる。

 「はい、登録ですね♪ それでは皆様、三階の支部長室へご案内いたします♪」

 女性が微笑む。

 女性の案内に従い三階の一つしかない部屋へ通される輪人達。

 一行が入ると、女性は恭しく一礼をしてこう口にした。

 「ようこそ、お待ちしておりました勇者様達♪ 私は、このルナの街の協会支部長にしてジーラ様の神官の一人であるメトと申します♪」

 女性、メトは自らの素性を語った。

 「うん、ヌビスさんのくれた地図にあった味方がいる所がここだったからね」

 純子が微笑む。

 「まさか、支部長さんが味方とは思わなかったよ」

 ヒナミが驚く。

 「見事な隠蔽ぶりですわね」

 ヴィクトリアも同じく驚いていた。

 「これで冒険者になれますね、先輩♪」

 桃花が微笑んだ。

 「ああ、武装してある程度自由に動けるのは冒険者位だからな」

 輪人も喜ぶ。

 「はい、皆さんの滞在先やお仕事のお世話はお任せ下さい♪」

 メトが微笑み協力を約束してくれる。

 こうしてユウシャイン一行は、メトの協力によりその日の内に冒険者の身分と仮の住まいを手に入れる事に成功した。

 

 「ここが、俺達の仮の住まいか」

 輪人が異なる家を半分にして繋げたような、赤い屋根と黄色い屋根を持つ二階建ての一軒家を見て呟いた。

 「何だか、可愛くて牧歌的だね♪」

 実は可愛い物好きな純子は喜ぶ。

 「街の外れで周囲には山が見えますわね、ペンションとしては良い所ですが」

 ヴィクトリアは立地条件が不満だった。

 「私のお祖母ちゃんの家に似てるね♪ こういう所は買い物に行くのがちょっと手間だけど、近隣住民がいないとかなら便利だよ♪」

 ヒナミが笑って受け入れた。

 「確かに、潜伏活動をする身である私達にとってはご近所づきあいなどに煩わされないし敵に攻められたら野山に逃れられるのは潜伏場所としては良いと思います」

 桃花が周囲を見て納得した。

 「じゃあ、中に入って祠を設置してベースと繋げようぜ♪」

 そう言って輪人は鍵を使い、家の扉を開けた。


 家の中はそれなりの広さで、家具は大きな食卓と椅子がある程度だった。

 「先輩、照明は魔力灯まりょくとうと言って手を天井にかざして付けるそうですよ♪」

 桃花が天井についた水晶玉へ手をかざすと、彼女の体からピンク色の光りが放たれて水晶玉に吸われて行き部屋中の照明が灯された。

 「大丈夫か、桃花?」

 ふらついた桃花に輪人が駆け寄り受け止め食卓の椅子へと座らせる。

 「……ありがとうございます、恥ずかしいのですがお腹が空いてしまいました」

 桃花が照れながら呟く。

 「桃花さん、先ほど買い足したこのパンを召し上がって下さいな!」

 ヴィクトリアがハニーシロップパンを一つ桃花へと渡す。

 それを桃花が食べると彼女は立ち直った。

 「では、私は二階を見て来るね♪」

 純子は一人、居間の傍にある階段から二階へと向かった。

 「では、私はキッチンを調べますわ♪」

 ヴィクトリアは近くにあるキッチンへと向かった。

 

 「俺は、トイレを探して見て来るか」

 輪人も居間を出てトイレを探しに行くと、トイレはすぐに見つかった。

 「一階はトイレが二つあるのか、便利だな」

 片方のドアを開けてみると、背もたれとひじ掛けがついた洋式の器に金属のパイプで繋がれボディに水晶が付いたトイレタンクと現代日本に似た形のトイレであった。

 「このトイレは水洗かな? ひじ掛けにも赤と青の水晶があるな」

 輪人が試しにタンクの水晶に手をかざすと赤い光が彼の体から出てタンクに吸われて便器に水が流れた。

 「もしかして、トイレでも魔力を使うのかよ!」

 空腹感に襲われつつも輪人が、ひじ掛けの水晶も手をかざせば魔力が吸われて行きウォシュレットと乾燥機能がある事が判明した。

 再び居間に集まった五人、食卓に座り休んでいた。

 「皆、一通り見たと思うけれど照明も水道も空調も個人の魔力で動くみたいだね」

 純子が切り出した。

 「ええ、キッチンの火を出すのも魔力を消費しました」

 ヴィクトリアが同意する。

 「うん、ジーラベースが便利過ぎだとわかったよ」

 ヒナミがテーブルに伏せながら呟く。

 「地下の倉庫への入り口を見つけましたのでそちらに祠を設置しましょう」

 桃花の言葉に、全員が同意した。

 居間の暖炉脇にあった入り口から地下へを降りた一行。

 地下の照明をつけると、そこは石の壁の部屋となっていた。

 「空だな、じゃあ設置しよう」

 輪人が祠の石を倉庫の床に置くと石の壁に扉が生まれ、ジーラベースの司令室と繋がる出入り口が出来た。

 

 「ただいま~♪」

 輪人がジーラベースの温かな空気に触れて叫ぶ。

 「久しぶりに帰って来たよ~♪」

 ヒナミもジーラベースの空気に癒されたのか元気に叫ぶ。

 「ただいま、ここは気分が良いね♪」

 純子も穏やかに呟く。

 「空気が違うと言うのを実感しますわ♪」

 ヴィクトリアも嬉しそうに呟く。

 「ただいまもどりました♪」

 桃花も帰還の挨拶をする。

 「皆様、お帰りなさいませ♪」

 帰って来た一行をジーラが出迎える。

 「取り敢えず、活動拠点は一つ手に入れられたよ」

 輪人が土産のパンをジーラにさし出しつつ成果を報告する。

 「お土産ありがとうございます、こちらは魔王軍の散発的な攻撃がありましたが

取り敢えず迎撃はできております」

 ジーラの方も自分達の状況を語る。

 「勇者ちゃん達、お帰りなさ~い♪」

 「お帰りケロケロ~♪」

 司令室のドアが開き、エレトとケトが入って来た。

 「あら? 皆何かお腹が空いている感じね? じゃあ、ご飯にしましょう♪」

 エレトが輪人達の様子を見て感じ取り食事を提案する。


 「やった~♪ 久しぶりにエレトさんのご飯だよ~♪」

 ヒナミが食事ときて大喜びをした。

 「美味しい食事は何よりの力ですわ♪」

 ヴィクトリアも喜ぶ。

 「エレトさんのご飯が食べられる、幸せです♪」

 純子も喜んだ。

 「あちらだと、動力に個人の魔力を使うのでお腹が空いてしまうんです♪」

 桃花も笑顔になった。

 「魔力を使うと腹が減るんだよな、使うまで知らなかったけど」

 輪人が気付いた事を呟く。

 「じゃあ、お鍋を作りに行くわね~♪」

 エレトは一足先に食堂へと向かった、それを追うように全員が司令室を出て食堂へと向かう。

 そして全員揃った戦隊は鍋を囲んで食事を始めた。


 「うん、この鍋美味いぜ♪」

 輪人が自分の椀の金色のスープを飲んで呟く。

 「ありがと~♪ 蟹の出汁のカレースープよ~♪」

 エレトが微笑んだ。

 「羊ですわねこの味は」

 ヴィクトリアは鍋の肉を羊だと見抜く。

 「そう言えば、こちらは敵の新たな幹部が出てきました」

 ジーラが告げる。

 「どんな奴?」

 輪人が尋ねる。

 「ああ、あの熊の魔族ね♪ エレトにぶっ飛ばされてたわケロケロ~♪」

 ケトは酒を飲みながらジーラの代わりに答える。

 「熊か、我々もあった時は気を付けねば」

 食べつつも真面目に答える純子。

 「こちらは、以前戦った相手は巨大化しましたね」

 桃子が呟く。

 「最初にあった奴は、モンスター召喚してたけどね?」

 ヒナミも過去を思い出しながら疑問を呟く。

 「詳しくはわかりませんが、敵も何か技術を手に入れたのでしょうね?」

 ヴィクトリアが推測を口にする。

 「ムーナの領地に拠点作ったばかりだけど、他も調べつつあちこち行かないとな」

 輪人が箸を止めて言う。

 「そうですね、輪人様達は冒険者の身分も得られたようですしお願いいたします」

 ジーラが輪人に軽く頭を下げた。

 「ああ、頑張るぜ♪」

 輪人がジーラに答える。

 「皆~♪ お仕事の話も良いけれど、鍋の締めも色々用意したからしっかり食べて英気を養ってね~♪」

 エレトが鍋の締め用の米料理や麺を用意して来た、それに全員が喜び英気を養ったのであった。

 

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