第11話 戦隊、正月を祝う

 「異世界で新年を迎えるとは思わなかったぜ」

 お正月、基地の食堂でお節料理を食べながら輪人が呟く。

 「先輩、数の子をどうぞ♪」

 ピンクの晴れ着姿の桃花が箸で掴んだ数の子を差し出して来る。

 「お、おう! あ、ありがとうな」

 照れながら食べる輪人。

 「新年おめでとう♪ 私からも黒豆を貰ってくれないかな♪」

 入れ替わりで黒の晴れ着の純子が食べさせに来た。

 「うん、ありがとう純子姉ちゃん♪」

 「そう呼ばれるのは久しぶりだね♪」

 純子が明るく微笑む。

 「そう言えば、純子さんとヒナミさんが幼馴染枠でしたわね」

 黄色の晴れ着姿のヴィクトリアが呟く。

 「そそ、家のお祖母ちゃんと輪人の宮崎のばっちゃが友達よ♪」

 ヒナミが笑いながら語る。

 「私は祖父同士が付き合いがあって、ヒナミちゃんとも帰省した時は遊んだね♪」

 純子が思い出を語る。

 「私、輪人様のお祖父さまのお宅のお庭に植えられていた時に輪人様と遊んでおられるお二人を見て羨んでおりました」

 ジーラも過去を思い出す。

 「その言い方は猟奇的だぞ? ジーラはその頃はヒマワリの花だったからな、一緒に遊んだりできなかったのは勘弁してくれ」

 そう聞かされた輪人が申しわけなさそうな顔になる。

 「幼い頃のお話は微笑ましいですわね♪ 次は私が釣った鯛をお召し上がれ♪」

 ヴィクトリアがいつの間にか輪人の傍に移動して、彼に鯛を食べさせていた。

 「ケロケロ~♪ 新年のお祭り、最高ね~♪」

 ケトは酒を飲んでいた。

 「そうね~♪ 勇者ちゃん達が来てくれて、楽しいわ~♪」

 エレトがお雑煮を作りながら喜ぶ。


 「えっと、じゃあ今度は俺がお返しに皆に食べさせて回るぜ♪」

 輪人が告げると仲間達が一斉に手を上げ出した。

 「先輩、私は昆布巻きで喜ばせて欲しいです♪」

 桃花がリクエストをする。

 「私、伊達巻きをヒナミちゃんテ・アモ♪ って、言って食べさせて欲しいね♪」

 ヒナミがオプションを付けてリクエストする。

 「ヒナミさん、ずるいですわ! 私はハマグリを口移しで!」

 ヴィクトリアも欲望を剥き出す。

 「輪人君! お姉ちゃんは、かまぼこを所望するよ♪」

 純子はケトの所へ行き屠蘇を軽く飲んでからリクエストする。

 「輪人様、女神は膝の上で数の子の奉納を要求いたします♪」

 ジーラも要求が微妙だった。

 「勇者ちゃ~ん♪ お姉さんにお酒注いでほしいケロ~♪」

 ケトも乗って来る。

 「勇者ちゃん、一緒にお雑煮を食べましょうね♪」

 エレトはマイペースだった。

 「はいはい、順番にサービスして行くから今年も皆宜しくな!」

 律儀に仲間達の要求に答えていく輪人であった、本人は意識していないが何だかんだで相手を受け入れて相手に付き合う。

 そう言った彼の性分が、彼女達に愛される一因であった。

 

 一方、魔王軍の新年会はサメ―以外は楽しんでいた。

 「サメ―、作戦失敗は仕方ない今年は励め」

 魔王アナトラが、城内の宴会場でサメ―の盃に酒を注いで慰める。

 「かたじけねえ、今年は大手柄を立てて見せやしょう!」

 注がれた酒を一気に飲むサメ―。

 「サメ―の奴は仕方ねえなあ、しかし異世界の勇者か?」

 グマ―が肉を食いながら呟く。

 「勇者の連中、決して侮れないわよ?」

 グマ―の傍にいたデプスが答える。

 「そうか、どうにかしねえとな? 陛下は、勇者と手を組むことも考えているらしいじゃねえか?」

 グマ―がデプスに尋ねる。

 「ええ、陛下は私達の為にそういう道も考えてくれているわ」

 デプスが呟く。

 「まあ、手を組むにしろどうするにしろやれる事をやるさ」

 そう言ってグマ―は再び肉を食った。

 そんな中、魔王アナトラが声を上げる。

 「皆の者、去年は良くやってくれた今年も頼むぞ♪」

 そう言って杯を突き上げるアナトラ、皆も盃を突き上げる。

 「悪のムーナを倒し、この地を我らに!」

 アナトラが叫ぶと他の者達も「我らに!」とレスポンスした。

 そして全員が盃の酒を飲み干して、宴会を再開した。


 「あ~、酒のつまみで甘い物食うのは良いなあ」

 サメ―が饅頭を食いながら酒を飲む。

 その近くではデプスとスカルマが話し込んでいた。

 「スカルマ、休暇はどうだった?」

 「ははっ! 実家の温泉宿の手伝いと子供の世話に追われとりました!」

 「そう、まあまだ冬期休暇はあるからしっかり休みなさい」

 「デプス様も、是非またうちの宿にお越しください♪」

 「そうね、あなたの子供達にも会っておきたいし」

 デプスとスカルマは仲良く語り合っていた。

 「死霊部隊は仲が良いなあ、家は二人も部下が逝っちまった」

 デプス達の会話を聞いたサメ―は、エビ―とガニ―を偲んで酒を飲みながら一人悲しくさめざめと泣いた。

 

 この世界のアットホームな悪の組織、魔王軍はこのような正月を迎えていた。


 そして、女神ムーナは新年だと言うのに一人さみしく神殿の中で黄金の浴槽に湯を張り巡らせて風呂に浸かっていた。

 「……ふう、寂しいのう? 愛しいあの方は、敵の手に」

 手を頬に当てて輪人を想うムーナ。

 「やはり、女神として出会うのではなく仲間として出会い関係を深めて行き女神としての正体を現せば彼も私を受け入れてくれたのではなかろうか?」

 女神の仕事をサボり、ムーナは輪人の事だけを想って過ごしていた。

 「我が領海に侵攻してきた魔族を彼が倒したと聞く、男の子のツンデレは尊い♪」

 ムーナはだらしなく鼻血を垂らしていた。

 「次は彼に合わせて、少女の姿になってアプローチをするとしよう♪」

 ムーナは信者達の祈りを聞き流して色ボケていた。

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