第10話 戦隊、異世界で年を越す

 「そう言えば、地球からこっちに来たからクリスマスとかしてないな」

 基地のブリーフィングルームで輪人が呟く。

 「そうですよ! クリスマスにカウントダウンにお正月!」

 桃花も想い出して叫ぶ。

 「あ~、私達勢いで来ちゃったからね」

 ヒナミも想い出した。

 「うん、まさか帰れなくなるとは想定外だったしね」

 純子も遠い目になる。

 「そうですわね、地球では私達が次元を越えて未帰還になっているはずですわ」

 ヴィクトリアも現状を再認識する。

 「……皆様、申し訳ございません!」

 ジーラが全員に頭を下げる。

 

 「まあ、ジーラが原因じゃないから」

 輪人がジーラをなだめる。

 「悪いのはムーナですよ、どうにか地球と行き来できるようにしないと」

 桃花もジーラを慰める。

 「そうだな、この世界の問題も地球もどちらの平和も守らないと」

 純子が微笑む。

 「そうそう、今度はこっちがホームで地球が出稼ぎ先よ♪」 

 ヒナミもジーラに微笑む。

 「ええ、地球では私達全員が輪人様と婚姻できませんし」

 ヴィクトリアも同意する。

 「皆様、ありがとうございます♪」

 ジーラが皆に礼を言う。


 そこへドアが開き、ケトが入って来た。

 「ケロケロ、新年のお祝いならこっちでもできるわ♪」

 ケトが笑う。

 「そうですね、ではこちらで皆様とお正月をお祝いしましょう♪」

 ジーラが皆に提案する。

 「では、またこの世界の海へ出ますわよ♪」

 ヴィクトリアが言い出す。

 「よし、俺達で正月料理の材料を取りに行くか♪」

 ヴィクトリアの狙いがわかった輪人。

 「お~♪ ヴィクトリア、海釣りする気ね♪」 

 ヒナミも狙いを理解した。

 「なるほど、ヴィクトリアさんなら大物が釣れますね♪」

 桃花も納得した。

 「じゃあ、あの空飛ぶ船で海へと出ようか♪」

 純子も乗る気だ。

 「はい、あの船は海の上も航行できますので漁船の代わりになるかと♪」

 ジーラもヴィクトリアの提案に賛成した。


 「ケロケロ♪ みんな元気になったわね、じゃあ私はお留守番してるわ♪」

 ケトは居残りを宣言した。

 「あれ、ケトさんも行かないの?」

 輪人が尋ねる。

 「ええ、医務室の仕事もあるしエレトちゃんは基地でお料理してもらわないと♪」

 ケトが答える。

 「そうだよな、誰もいないとまずいからな」

 輪人も納得した。

 「決まりですわね、では今回は安全の為に我々の陣営の領海へ参りましょう♪」

 かくして、ユウシャインは再び海へと向かう事となった。

 だが、新年の祭りを行うのは勇者達だけではなかった。


 「さて、魔王軍の新年会の準備が必要だなお前達?」

 勇者達が正月を祝おうと相談していた頃、魔王城内でも同様の事態が起きていた。        

 自分の前に並んだ三人の将軍達にアナトラは尋ねた。

 「へい、海の幸は家の海魔部隊にお任せ下せえ♪」

 サメ―が膝をついてアナトラに礼をする。

 「死霊部隊は、会場の設営などを執り行います」

 デプスも同じく礼をする。

 「獣魔部隊は野菜と山の幸の担当ですな、お任せを♪」

 黒い熊の獣人の男がサメ―達と並んだ状態で礼をしてアナトラに答える。

 新たな幹部、獣魔部隊の将軍グマーだ。

 「グマ―も任せたぞ、行事は大事だ」

 アナトラがグマ―に微笑む。

 かくして、魔王軍も新年に向けて動き出した。


 「さあ皆さま、海釣りの時間ですわ♪」

 ヴィクトリアが活き活きとした表情で釣り竿を振るう。

 「おう、上手い魚を釣って食べるぜ♪」

 輪人も用意された釣り竿を使い釣りを始める。

 「なら私達は投網漁と行こうか、桃花ちゃんにヒナミちゃん♪」

 「はい、純子さん♪」

 「いっぱい取るよ~♪」

 純子、桃花、ヒナミは貝や甲殻類を狙い投網漁だ。

 「皆様によき釣果があらん事を♪」

 船の操縦者であるジーラが祈るこの海は彼女の領域、ムーナや魔王軍とは縁のない日が過ごせるだろうと彼女は思っていた。


 「来ましたわ、とりゃっ♪」

 ヴィクトリアが竿を引くと大きなマグロのような魚が釣れた。

 「マグロか? やるなあヴィクトリア、流石は釣り名人♪」

 ヴィクトリアを褒める輪人。

 「お~っほっほ♪ 恵比寿のヴィクトリアとお呼びくださいませ♪」

 ヴィクトリアが高笑いをする。

 「お、俺も来たぜ♪ とりゃっ!」

 輪人も、鯛のような赤い魚を釣り上げた。


 「輪人君達もやるな♪ そして、こちらも行けそうだ♪」

 純子が輪人達を見てから網へと目を戻す。

 「網を引き揚げましょう、お二人共♪」

 桃花も引き上げの体勢に入る。

 「行くよ~~♪」

 ヒナミも二人に合わせて三人で網を引き揚げる。

 参院が引き揚げた網には大量の魚介類がかかっていた。

 「やりました、大漁です♪」

 「やったね、二人共♪」

 「やったよ~♪」

 純子達三人は、ハイタッチを交わした。

 

 「皆様、素晴らしい釣果ですね♪」

 釣りや漁の成果にジーラも笑顔になる、だが船室でセンサーを見ていたジーラは驚愕した。

 「皆様、北方に魔王軍の反応が!」

 ジーラが仲間達に叫ぶ。

 「マジか? 皆行くぜ、ユウキチェンジだ!」

 輪人の叫びに全員が応じて変身する。


 ユウシャイン達の船は、全速力で魔王軍達のいる方向へと向かった。

 

 「よ~し、お前ら網を引き揚げろ~!」

 巨大な魚の骨で出来た船の上では、赤いカニの怪人が手下の半魚人達に命令を下していた。

 「魔王様の為ならえ~んやこ~ら~♪」

 半魚人達は魔王を讃える歌を言う歌いながら漁業に励んでいた。

 赤いカニ怪人はエビ―の後任の隊長であるガニ―、彼ら魔王軍海魔部隊は新圓の宴の為の海の幸を奪いに来ていた。

 「ぎゃっはっは♪ 大漁大漁、これなら新年会のMVPは海魔部隊の物よ♪」

 ガニ―が引き揚げられた網を見て喜ぶ、そこには新鮮な魚介類がみっしりと詰まっていた。

 「隊長、そろそろ引き上げやしょう!」

 副官の半魚人がガニ―に進言する、この海はジーラの領域で彼らには敵地だ。

 「何を言う、次は陸で横流しする分を取るんだよ♪」

 ガニ―がいやらしい笑いを浮かべた。

 「ええ? それは不味いですよ、ばれたら将軍に殺されます!」

 ガニ―を止めようとする副官であったが、ガニ―は無視した。

 「馬鹿を言うな、将軍だって小遣い稼ぎしてるんだお前らにもボーナス出すからもっと魚を獲って帰ろうぜ~♪」

 真面目な副官を誘惑するガニ―、儲けを独り占めしようとしないのはマシだが規律違反であった。

 「お、俺達にもボーナスですか? ならやります!」

 副官はボーナスの餌に食いついた。

 「ああ、ボーナスで楽しい年越だ♪」

 副官の肩を掴むガニ―、だがそんな彼らの夢を打ち砕く者が近づいてきた。


 「そこまでだ、魔王軍の悪党ども!」

 ユウシャレッドが叫びを上げる。

 「な、何~っ! 勇者だと~~っ!」

 ユウシャインの面々が迫って来るのを見て驚くガニ―。

 「オ~~ラ~~♪ ユウシャブルーの攻撃だよ~♪」

 ユウシャブルーが、ブルースマッシャーで放水攻撃を行なえば半魚人達が海へと落ちる。

 「ユウシャイエローのイエローロッドを御覧なさい♪」

 イエローがロッドを伸ばしてガニ―達が撮った魚介類に針を掛ける。

 「キャッチ&リリースですわ♪」

 そう言って竿を引き、魔王軍が獲った魚達を海へと落とす。

 「お、俺達の魚が~~~っ!」

 仕事の成果を台無しにされて落ち込むガニ―達。

 「おのれ勇者ども、こうなれば奴らの魚を奪ってやるガニ―ッ!」

 勇者達の船にある大漁の魚を見て、それを奪おうと企むガニ―。

 ガニ―の叫びと同時に半魚人達が海へ飛び込み、ユシャインの船へと迫る。

 

 「そうはさせません、浮上しますっ!」

 ゴールドが船を空へと浮かび上がらせた。

 「ふ、船が空を飛ぶなんてズルいガニ―ッ!」

 ユウシャイン達の船が空を飛んだのを見て悔しがるガニ―。

 「海に飛び込んだ半魚人達を打ち上げます、ピンクウルフキックッ!」

 ピンクが海に向けて飛び降り、蹴りを放つと海面にピンク色の狼の頭の形をした

エネルギーが放たれて爆発し半魚人達が空へと打ち上がった。

 「魚を捌くのは任せてくれ♪ ブラックサーベルℤ字斬りぜっとじぎりっ!」

 ブラックが疾風となって駆け出しジャンプ、サーベルでZの字を描くように半魚人達を切り吸って海の藻屑へと変えた。

 「残るはお前だけだぜカニ野郎、とうっ!」

 レッドが跳躍して魔王軍の船に飛び移る。

 「ならお前を倒して、ボーナスをいただくガニ―!」

 カニの鋏でレッドを襲うガニ―。

 「やられるかよ、レッドガントレット!」

 レッドは、手甲部分が牛の頭になった籠手のレッドガントレットで鋏を受ける。

 「鋏は二本あるガニ―ッ!」

 「こっちも籠手は一対なんだよ!」

 ガニ―の攻撃を受け止めたレッド、互いに手四つの状態になる。

 「モーレツ、レッドブルファイヤー!」

 レッドの両手のガントレットの牛の頭の鼻から強烈な火炎が放射される。

 「アバ~~~~ッ!」

 炎に包まれて、レッドから離れたガニ―。

 「こいつで止めだ、レッドブルラッシュッ!」

 籠手の牛頭が炎を纏った状態で放たれるのは、一発が猛牛の突進並みの威力の連続パンチ。

 止めは炎が燃え盛るアッパーカットで、ガニ―は空高く打ち上げられて空中で爆散した。

 「決まったぜ♪」

 レッドが拳を突き上げて勝利のポーズを取ると、魔王軍の船が爆発した。

 船の爆発で飛ばされたレッドの体に、イエローロッドの釣り糸が巻き付きレッドは自分達の船に救助された。

 「フィ~~~~ッシュ♪ レッド様ゲットですわ、お~っほっほ♪」

 見事レッドを救助したイエローが高笑いを上げる。

 「ふ~、助かったぜイエロ~♪」

 レッドがイエローに礼を言う。

 「先輩、無茶しないで下さい!」

 ピンクが近づいてきてレッドを叱る。

 「そうだよレッド、一人で突っ込んじゃダメ!」

 ブリ―も近づきレッドを叱る。

 「レッド君、チャンスだからって油断しちゃ駄目だよ」

 ブラックも怒っていた。

 「皆さんの言う通りですよ、レッド?」

 ゴールドもご機嫌斜めだった。

 「え~~っ! 怪人倒したのに怒られるのかよ?」

 レッドは頑張ったのに怒られて不満だった。


 「先輩、先輩はもう自分一人の命じゃないんですからね♪」

 ピンクがレッドを抱きしめる。

 「そうだよ、レッド君は私達全員の旦那様なんだから」

 ブラックはレッドの手を取る。

 「そうだよレッド、レッドは私達のお婿さんなんだからね!」

 ブルーはレッドのこめかみをぐりぐりする。

 「レッド様に拒否権は有りませんわ♪」

 イエローは微笑む。

 「では、私達のお家に帰りましょうケトもエレトも待ってます♪」

 ゴールドが船を操縦してジーラベースへと帰還の進路を取った。

 「お、俺の意思はどこへ~~~っ!」

 レッドの叫びが空に木霊するが、彼と彼女達の力関係は年が明けても変わりそうにはなかったのであった。

 

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