第8話 ホワイトな魔王軍
「スカルマよ、良くぞ無事に戻った」
豪奢な玉座に座るのは、ミルクティーのような亜麻色の肌の上に黒い鎧を身に纏った金髪の美女であるハイオークの魔王アナトラ。
「お、恐れ多きお言葉いたみ入ります」
スカルマは魔王の前に跪いて感謝した。
「良い、あの古代神の地は我らには毒な上に更には勇者となると無理である」
アナトラがスカルマを許す。
「はは、次こそはあの勇者めを」
スカルマは魔王に感謝しユウシャインの打倒をと意気込む。
「いや、あれは止めておけ? そなたには、有給一週間と賞与を与えるから」
アナトラはスカルマを止めた。
「ええ? いや、宜しいのですか?」
スカルマはありがたいが主君の考えがわからなかった。
「そなたが持ち帰った情報から考えるに、勇者達とは話し合いを持った方が良いかもしれぬ重要案件となった!」
アナトラはスカルマにそう叫んだ。
「はは~! かしこまりました~っ!」
「うむ、そなたは休んで家族と過ごせ」
アナトラの言葉に、スカルマは涙を流して喜び退室した。
「ふ、無駄に部下を死なせずに済んだがこの少年がユウシャレッドか」
スカルマから渡された映像を見てアナトラは微笑んだ。
そんな彼女の前に煙が立ち込めると、白いローブを纏った青い肌の女が現れる。
「陛下、我が部下をお許しいただきありがとうございます」
「デプスよ、古代神の地には手を出すな」
アナトラに名を呼ばれた女はスカルマの上司、死霊将軍デプスであった。
「ですが、抑えられれば我らの有利になります」
「そうなのだが、古代神が本気を出せば我らが滅ぶぞ?」
「確かに、ではムーナの領土を狙います」
「ああ、そちらの方が楽だ」
アナトラはデプスの言葉に頷くと、デプスが再び煙の如く消え去る。
「我らの存亡の鍵は、この少年が握っているやもしれぬ」
アナトラはレッドの映像を見てため息をついた。
魔王城内の死霊部隊の詰所、アンデッドモンスター達が事務仕事をする中で
スカルマは上司であるデプスと向き合っていた。
「スカルマよ、陛下のお達しだゆっくり休め」
「は! これよりスカルマ、有給休暇をいただきます♪」
「土産は、お前の実家の温泉宿で売っているスカル饅頭でな」
「ははっ♪ 皆様の分を発送させていただきます♪」
笑顔で敬礼をして、スカルマは事務所を退室した。
「他の者達も定時になれば、切り上げなさい」
デプスの言葉にアンデッド達が喜んだ。
「スカルマが戻るまでは事務仕事に励むしかないわね」
デプスが溜息をつきながら書類に目を通し始めた。
一方、魔王軍領海では漁船に乗った半魚人達が投網漁に励んでいた。
「魔王様の為ならえ~んやこ~ら~♪」
半魚人達が歌いながら網を引き揚げると魚達が沢山かかっていた。
「エビ―隊長、大漁ですぜ~♪」
半魚人の一人が、真紅の外骨格に包まれた海老の怪人に報告する。
「よくやった、港に帰るぞ♪」
エビ―が叫ぶと半魚人達はお~♪ と叫ぶ、彼らは魔王軍海魔部隊。
その仕事は、海軍と漁師と敵側からすれば海賊を兼ねていた。
本日の業務は漁業、魔王領の漁業は彼らが担っていた。
エビ―達の港が港に帰ると、そこには黒い軍服を着た鮫怪人が待っていた。
「サメ―将軍! エビ―隊、本日の任務から戻りました!」
エビ―だけが船から降りて、サメ―に敬礼して対応する。
「うむ、ご苦労♪ 魚は市場へ持って行けば上がって良し!」
「了解しました!」
エビ―がサメ―に敬礼する。
「エビ―、お前には話があるから詰所に来い」
サメ―がエビ―に命令する。
「は! 伺わせていただきます!」
「何、そうかしこまるな軽い打ち合わせだ♪」
サメ―は本人としては優しく笑ったが、エビ―にはその笑みが怖かった。
海魔部隊の詰所は、事務仕事の場所と言う具合に机が並び軍服を着た水棲生物の怪人達が書類仕事をしていた。
そんな詰所の奥の将軍室に入ったエビ―は、冷蔵庫から黒い液体の入った酒瓶を出したサメ―を見て固まった。
「おう、別にお前をツマミにする気はねえ一緒に飲もう♪」
グラスを用意して黒いイカ墨酒を注ぐサメ―。
注ぎ終わると再び冷蔵庫から刺身の載った皿を取り出す。
「ツマミはこっちであるからな、お前も食え♪」
サメ―が命じるとエビ―は彼に近づきグラスを受け取り飲み干した。
「仕事後の一杯は美味いであります♪」
エビ―がそう言うとサメ―は微笑み、箸と醤油と小皿を二人分用意した。
「それは良かった、まあ飲み食いしながら話すが次の軍事行動についてだ」
サメ―も一杯目を飲み干しながら、話を始める。
「はい、私めに何をせよと?」
「おう、お前に戦艦一隻任せるから人間側の方に出て示威行為で暴れてくれ」
サメ―がエビ―に仕事の話をする。
「おお、了解であります♪」
その仕事内容に喜んで応じるエビ―。
「そうか、乗組員は死霊部隊から骸骨水兵を引っ張って来るから来週から頼む♪」
「は♪ 拝命いたしました♪」
「よし、じゃあ今日はつまみを食い終えたらこの後酒場へ行くぞ♪」
「喜んでお供させていただきます♪」
そしてサメ―とエビ―は出来上がると、詰所の部下達も連れて酒場へと向かった。
この後、エビ―が乗った戦艦が勇者達と遭遇するとはまだ知る由もなかった。
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