・第291話:「聖都包囲殲滅戦:2」
エリックが総攻撃の開始を命じると、反乱軍の兵士たちは一斉に動き出した。
総攻撃を前にいったん攻撃を停止していた投石機が、次々と投石を再開する。
しかし、浴びせるのはこれまでのような石弾だけではなく、藁(わら)や枝などを集めて固め、油などをたっぷりと含ませて火をつけた、火炎弾が加わっていた。
石弾の狙いはもう、城壁ではない。
その城壁の背後にある、聖都の街並みが投石機の新たな攻撃目標だった。
聖都の街並みの多くは、石や煉瓦でつくられた壁を持ち、屋根は瓦でできている。
大都市でもある聖都だから、市街地の火災の対策のために、その材料には不燃性のものが多く使われている。
しかし、建物の外側は燃えにくくとも、その内側には木材が多く使われている。
投石機による攻撃は、そういった建物の外壁に石弾で穴をあけ、火炎弾によって火災を生じさせるためのものだった。
火炎弾は、なにかに命中すると砕け散って、周囲に火種をまき散らす。
投石がピンポイントで建物にあいた穴に命中することはまず起こらないが、砕けた火炎弾がまき散らした火種が建物の内部へと飛び込み、火災を生じさせていった。
聖都のあちこちで火の手が上がり、炎と、黒煙が立ち上り始める。
延焼を食い止めるために聖都では多くの信徒たちが駆けまわり、混乱し、城壁の守りだけに集中できなくなっていく。
投石機によるかく乱攻撃が行われる一方で、反乱軍の陣営からは次々と竜たちが飛び立っていった。
反乱軍にはあれから、飛竜第64戦隊だけではなく、いくつかの竜騎士たちの部隊が参加してきている。
合計で200頭を超えるほどの竜たちが反乱軍の陣営にはおり、竜たちは聖都の上空を抑え、地上からの攻撃を支援するべく飛び立った。
すぐに、聖都の上空では激しい空中戦が開始された。
聖母の残虐な行いを見て人心は離れ、多くの竜騎士たちも聖母を見限って反乱軍に参加していたが、それでもまだ100頭近くの竜たちが聖都の守りについていた。
聖都の上空の戦いは、数の差に加え、竜騎士の中でも最精鋭として知られている飛竜第64戦隊の戦いにより、反乱軍の側に有利に進んでいるようだった。
空を竜たちが高速で飛行しながら交錯し、竜騎士が矢や魔法で攻撃し、竜たちが吐き出したブレスが飛び交い、時には竜同士で噛みつき合うような、激しい空中戦がくり広げられる。
上空での戦いが反乱軍の優勢で進む一方で、地上での戦いも、反乱軍が有利に進めて行った。
反乱軍の攻撃は、城門を目指す一方で、これまでの投石によって崩した聖都の城壁にも向けられていた。
聖都の城門のいくつかは、戦時には跳ね上げることのできる跳ね橋となっていたが、中には石造りの頑丈な橋でそのままつながっている城門もあり、そこから反乱軍は破城槌を前進させ、城門を突破しようと試みていた。
また、投石によって崩した城壁には、反乱軍は船で向かって行った。
総攻撃の開始時期をくりあげたために城壁の破壊は完全ではなかったが、大型船の上に簡単な櫓を組んで崩れた城壁の上に侵入することができるように工夫をし、反乱軍は次々と城壁に突入していった。
信徒たちの抵抗は、激しいものだった。
信徒たちはついしばらく前まで戦い方など知らなかった者たちで、その反撃の精度は低く、弓を放ってもその多くは反乱軍の兵士に届かず運河に落ち、白兵戦をしてもほぼ一方的に斬られるという有様だった。
しかし、信徒たちは熱狂的に反撃を続け、倒されても、倒されても、前に出続けた。
このために、城門を突破するよりもずいぶん早く城壁の上にのぼることができた反乱軍の兵士たちだったが、容易には城壁を制圧することができなかった。
倒しても、倒しても、信徒たちが反乱軍の兵士たちの前に出てくるため、なかなか防衛線を突破できないのだ。
反乱軍の兵士たちは有利に戦い続けていたが、同時に、信徒たちの戦いぶりに、戦慄(せんりつ)を覚えてもいた。
ロクな武器も防具もないにも関わらず、信徒たちは躊躇(ちゅうちょ)することなく反乱軍の兵士の前に出てくるからだ。
それに、反乱軍の大部分を構成する人間の兵士たちは、人間同士で戦うことに慣れていなかった。
これまで人間は、聖母を神に代わる存在として信仰し、聖母の支配の下で暮らして来た。
そして外には聖母が作り出した[敵]である魔王軍がおり、人間はその脅威に対処しなければならなかったから、人間同士で争うようなことはなかったのだ。
同胞同士で、殺し合う。
そんな未体験の戦いに、多くの反乱軍の兵士たちは戸惑い、動揺していた。
しかし、エリック自身が前へと出ると、状況は大きく変化した。
反乱軍に対して総攻撃を開始するように号令したエリックは、聖都の防衛線が容易には敗れないことを見て取ると、仲間たちと共に自ら前線に立っていた。
人間同士での戦いという不慣れな状況に動揺する兵士たちを鼓舞するという目的もあったし、1秒でも早く聖母の下にたどり着き、聖母を滅ぼして、この戦いに終止符を打ちたいという願いもあったからだ。
すぐにその効果はあらわれた。
反乱軍は聖都の防衛線を破り、その城内への突入を成功させることができたのだ。
聖都の防衛線を突破し、城壁の内部へと突入すると、信徒たちの抵抗はかなり弱体化した。
どうやら城壁の守りには特に聖母への信仰の強い、狂信的な信徒たちが当てられていたらしく、城壁の内側にはそれほど戦意の高くない信徒や、そもそも若年や老齢などの理由で戦う力の弱い信徒が多く配置されていたからだ。
防衛線の一画が破れると、他の防衛線も、次々と反乱軍によって突破された。
そうして反乱軍は、聖母がいる聖堂に向かって、徐々にその包囲網を狭めていった。
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