・第4話:「魔王軍包囲殲滅戦:1」
早朝。
まだ太陽は昇らないが、少し先まで見通せるほどの明るさとなった天明に、人類軍は魔王城に対し、総攻撃を開始した。
勇壮な雄叫びをあげ、竜騎士を背に乗せた何頭もの竜(ドラゴン)が、天高く舞い上がっていく。
総攻撃にあたって、人類軍はまず、魔王城上空をその掌中に収めようとしていた。
まず飛び立ったのは、[飛竜]と呼ばれる、比較的小型(と言っても、易々と大人数名は乗せられる大きさ)で高い飛行能力を持った竜(ドラゴン)だった。
その目的は魔王城の上空を飛翔し、無差別に口から吐き出す炎、ブレスによる攻撃を加え、魔王軍が保有する対空射撃が可能なバリスタ(槍サイズの矢を打ち出す、設置型の巨大なボウガンのような兵器)や、飛行能力のある魔物の反撃を誘発し、その居場所を暴き出すことだ。
人類軍の攻撃により、魔王城からは、これまで続けられてきた投石機の攻撃を生き残ったバリスタの反撃が散発的に加えられ、飛行能力を持つ魔物たちが迎撃にあがって来る。
すると、飛竜たちはバリスタからの射撃を回避するために高度を取り、魔王城の上空で飛び上がって来た魔物たちを迎えうった。
魔王城の上空で、激しい空中戦がくり広げられる。
魔物たちがくり出す魔術や、竜騎士が放つ矢、飛竜が吐き出すブレスが飛び交い、攻撃を受けた魔物や飛竜が、次々と墜ちていく。
空中戦の一方で、魔王城に配置された対空兵器群を破壊するためには、飛竜にやや遅れて飛び立った別の竜(ドラゴン)たちが向かっていた。
炎竜(ファイアドラゴン)と呼ばれる、飛竜よりも大型の種類の竜で、飛行能力では飛竜にやや劣りはするものの、より強力なブレス攻撃を行うことができる種類だった。
飛竜たちに遅れて魔王城の上空へと突入した炎竜たちは、空中戦に参加せずに対地目標の観測任務に就いていた飛竜に乗った竜騎士たちから目標の指示を受けつつ、その強力なブレスで次々と魔王軍の兵器を焼き払って行った。
魔王軍の兵器は、人類軍からの投石によって瓦礫の廃墟と化した魔王城の中に、巧妙に隠されて配置されていた。
しかし、飛竜への反撃のためにその位置を露呈(ろてい)してしまった魔王軍の対空兵器は、次々と炎竜によって撃破されていく。
地上は、炎竜の炎に焼かれ、逃げまどう魔物や亜人種たちによって、阿鼻叫喚の地獄と化していった。
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「飛竜第64戦隊より報告! 我、魔王城上空を確保せり! 至急、地上部隊による攻撃開始を要請す! 」
魔王城の上空で空中戦をくり広げていた飛竜の部隊に同行していた魔術師から、魔法による遠距離通信でもたらされたその報告に、人類軍の司令部は沸き立つような歓声に包まれた。
「いよいよ、ですな」
人類軍を率いる高級指揮官たちと共に司令部に集まっていた勇者・エリックとその仲間たちの中で、静かに聖母に祈りを捧げていた神父が、周囲にいる仲間にだけ聞こえる声でそう言った。
自然と、エリックの手に力がこもる。
魔王城の上空での戦いに勝利したということは、地上でも人類軍による総攻撃が始まるということ。
そして、エリックが、魔王と戦い、勇者としての使命を果たすその時が来たということだった。
人類軍の最高司令官は、予定通り、直ちに地上の人類軍にも総攻撃の開始を命じた。
各部隊の指揮官に魔術師が魔法でその指示を伝達するのと同時に、近距離にいる部隊には伝令が走り、攻撃準備を整えていた第一梯団が動き出す。
人類軍の地上部隊は、3つの梯団に分けられていた。
まず動き出した第一梯団は、魔王城の外縁部の城壁と防御を強襲して正面から破砕するための部隊で、多数の攻城兵器が配備されているもっとも重装備の部隊だった。
魔王城にとりつき、その外郭の防御にくさびを打ち込んだ後は、第一梯団はそのまま魔王城の防御に生まれた突破口を拡大するために用いられる。
次に動く手はずとなっている第二梯団は、第一梯団が魔王城にこじ開けた突破口から内部へと突入し、魔王城の内部へと浸透して、その中枢である魔王の城館までの進撃路を作り出すための部隊だった。
第二梯団はその任務の性質上、魔物や亜人種たちの都市でもある魔王城で市街戦を戦うことになるために、閉所での白兵戦に特化した装備と兵士たちが多く配置されている。
そして、最後に動く第三梯団は、第一梯団、第二梯団が切り開いた突破口から、魔王の住む城館へと、勇者と共に突入することになっている部隊だった。
このため、第三梯団は第一梯団と第二梯団よりも少数の兵員ではあったが、教会騎士団を中心として特に精鋭が選ばれており、魔王・サウラを滅す力を持った聖剣を使うことができる2人、勇者・エリックと聖女・リディアを、確実に魔王の前にまでたどり着かせ、2人が魔王を倒すまでの間、他の魔物や亜人種たちを魔王との戦いに介入させないという、重要な役割を与えられている。
エリックは、一瞬だけ双眸(そうぼう)を閉じ、覚悟を固め直すと、それから双眸(そうぼう)を開いて仲間たちを見た。
バーナードも、リディアも、クラリッサも、ヘルマンも、リーチも、エリックの視線に答えるようにうなずいてみせる。
この時が来ることは、エリックが聖母によって勇者に選ばれ、仲間たちと共に旅に出た瞬間から、決まっていたことだった。
世界を、人々を救うためには今さら嫌だなどと言えるわけがないし、エリックの心の中にはもう、そんな怖れや迷いは残ってはいない。
「行こう。みんな」
勇者・エリックは仲間たちにそう告げると、人類軍の総指揮を執るために司令部に残らなければならない最高指揮官に別れの挨拶をすまし、自らと共に魔王城の中心部まで突入する第三梯団の兵士たちと合流するために、司令部の幕舎(ばくしゃ)を後にした。
外は、すでに明るい。
司令部からでも、戦いの様子がよく見える。
人類軍の攻撃によって数えきれないほどの損傷を負い、それでも、その威容を保ち続けていた魔王城。
しかし、今や魔王城のあちこちから火の手が上がり、幾筋もの黒煙が立ち上り、その上空には人類軍の竜騎士たちを乗せた竜(ドラゴン)が我が物顔で飛び交っている。
そして、地上では、すでにすべての準備を終えていた第一梯団の兵士たちによる、総攻撃が開始されていた。
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