黒い鳥

白井 くらげ

第1話


昼下がりのマンション

誰も居ない部屋は夕暮れの日が落ちかけオレンジ色が少しづつ部屋に明暗を分けてゆく




子供が1人テレビを眺めていた

おそらくその音声など意味として聞こえない年齢




光と音にただ反応しボヤっと眺め

四足歩行で歩いてはぼてんとおしりが落ちその場所で手を叩いたり泣いたりしてみる

がその声に焦って来る人間もおらず

しばらくし泣き止んだ




夕暮れの部屋はテレビとおもちゃがカラカラと言うだけで人の気配はない




窓が開いていて薄紫のカーテンが揺れた




ふとベランダにばさりと烏が降りた

大きな羽と黒いめがしばらく子供を見た




「お前なんだ随分暇そうだなぁ」




烏が大きな嘴を開閉し嘯いた

「おっと、子供かそれなら烏がいくら喋ろうと驚かねぇなぁ」




羽の脇に頭を入れ掻くような動作をする




「人間ってのは自分らだけが喋れると勘違いしてるだから俺らは人前じゃ喋らん」




子供は烏がガラガラ声で話すたびケラケラ笑った




「全くこんな時間に子供1人とは哀れだな」




「何の変哲もない烏の独り言に付き合わせてやろう」




「俺は大層偉い烏でな、ここいらを纏めてるんだゴミの捨て日まで把握してる」




「人間なんてのは食べれる物を毎日捨てている馬鹿ばかり」




「まぁ俺達は生きて行けさえすればいいこれは自慢であり自虐だ」




「毎日食うて苦労して飛んで仲間を纏めて一向につまらんだがそうしていないと生きて行けない」




「お前を見て退屈だと言ったが俺が退屈してるのさ何も分からないだろうがな」




子供はボヤと烏を見ている




「時たま思うんだ俺でなくても他の烏をまとめてゴミの日を把握するのかってな俺は何の為に生まれてきた?」




「そうさな、番でももうけて子供でも生まれて来たら変わるのかだがそういう気にもならん」




「何故だろうな…」




長く喋り疲れたような烏が後ろを見た夕日が落ちかけようしてオレンジから紅く燃えてゆく




ふと烏が揺れるカーテンと洗濯物に目を止めた

緑のシャツが風に揺れていた




「これはなんだろうな、見覚えがある」






紅く燃えている夕日が落ちかけ黒い山に吸い込まれていく

烏はそのまま何を喋らずじっとシャツを見つめていた








ガチャリ




「ただいま」




女の声で烏の意識が其方に向く

眺めた後「カァ」と鳴いた




「まぁ、何。烏じゃないシッシッ」

女が棒を持ちベランダに出る

振り回され驚いた烏が飛び立つ




夕日に向かい並んだ黒い仲間に入りどれがどのカラスか分からない




幼子がぎぁぎぁと今更泣き始めた

「怖かったねぇー」と言いながら幼子を抱く

トントンとあやす様に叩きしばらく歩き回る




足をふと止めて写真立てを眺めた




緑のシャツに白いスラックスの男性とこの部屋に居る2人が映っていた


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黒い鳥 白井 くらげ @shikome

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