放送禁止歌
放送禁止歌として知られる「自衛隊に入ろう」という曲を知っているでしょうか。
これはフォークシンガーの高田渡氏の楽曲であり、自衛隊に対する強烈なアイロニーが込められた反戦歌です。その曲名通りに、「自衛隊に入ろう」と繰り返し歌いながらも、最後は「花と散る」で締めることで、戦争の悲惨さが表現されています。
にも関わらず、自衛隊の上層部はPRソングとして採用しようとする事態がありました。当時の人々は愚かなことだと笑っていました。
アイロニーとは、表現者が自身の主張とは異なることを口に出すことで、批判対象の矛盾や滑稽さ、欺瞞をあぶり出すという表現手法です。褒め殺し、と言えば、よりわかりやすいでしょうか。
この曲は自衛隊に対する痛烈な批判にほかならなかったのです。
私は自衛隊に批判的な感情は持っていなかったですが、この曲を聞いた時は、過剰な自衛隊賛美や敵国への過激な攻撃的表現が面白いなあと思っていました。「悪いソ連」や「悪い中国」なんて、一面的に語れるものではないと考えていたからです。
ところが、時勢は変わります。
ソ連ではなくなりましたが、現在、悪いロシアという表現に抵抗のある人は少ないのではないでしょうか。言い切ってもいいくらいです。
悪い中国というのも共感を持って語られるようになったように感じます。日本の立場からいえば、尖閣諸島への侵攻は悪だと断じたいものですし、周辺国家へのちょっかいのかけ方も悪質です。チベット、ウイグル、内モンゴルといった諸民族への暴政も目に余るものでしかありません。
こうなってくると、「自衛隊に入ろう」という繰り返しが、自衛隊に対する応援歌に聞こえてきます。「花と散る」は可笑しいままですが、そんな局面、今のところないじゃん、としか思いませんし。
何より、「悪いソ連と中国」は冷戦下と比べても悪辣で邪悪な存在として際立っているのです。こうなると、有事の際には期待しているぞ自衛隊、としか思えません。
高田渡氏は自衛隊への批判としてこの曲を作りました。それがどこまで普遍的な価値として伝えようとしたかわかりません。
ですが、数十年の時を経て、皮肉ではなく、正当な応援として成り立つようになってしまったのです。メッセージを込めた当人としてどう思うのでしょうか。
私は物語を書くものではありますが、メッセージというほどのものを込めてはいません。
それでも、時間を経ることで受け取る意味が変わっていく。それを思うと、ある種のロマンと無常さを感じてしまいますね。
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