いるかのはなし
私はSF作品に登場するイルカが好きでした。理知的で友好的な佇まいが、人間以上の知性を感じさせてくれるからです。
この立ち位置が何に近いかと思い起こすと、トールキン作品に登場するエルフではないでしょうか。
エルフは神々が最初に創造した種族であり、人間を導く存在として定義づけられました。その姿は美しく、感受性に優れ、高い知性を持ちます。また、華奢な外見からは想像できない強靭な肉体を誇ります。
ですが、トールキン世界(中つ国)は年代が重なるにつれ、力が衰えていくという設定です。それを逃れられるのは死すべき
それが影響しているのか、エルフは零落の一途を辿ります。
トールキン作品を元にRPGが生まれるわけですが、ゲームのバランスをとるためというお題目により、エルフの完璧な能力は偏った能力へと歪められました。その後もエルフの
それはトールキンの名を関する「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」にまで及んでいます。その辺のおっさんの耳を尖がらせただけの奴をエルフと言い張る有様です。
エルフについては本稿の主題でないので、ここまでで留めますが、イルカもまた似たような変遷を辿っているように感じます。
イルカが脚光を浴びたのは二十世紀後半になってからです。イルカは人類の誕生以前から社会を築き、平和的なコミューンを実現している。それは人間以上の知性を持っているからだ。そんな風に主張されていました。
私もその風潮に染まっていて、イルカ(クジラ)というのは頭がよくて平和的な動物なんだと信じていました。私が単純クソバカということもありますが、それだけメディアが喧伝していたということでもあります。
その後、驚くべきニュースがありました。イルカは特別賢いわけではないというニュースです。
そのニュースで最も衝撃を受けたのは、なぜイルカやクジラの知性を高く評価していたかという点でした。なんと、脳の大きさが人間よりも大きいという理由で、その頭の良さを高く見積もっていたというのです。
小学生のころ、ティラノサウルスは脳が大きいから頭がいいはずという記事を読んだことがあります。私の感想はそんな馬鹿なというものでした。脳の大きさと体の大きさの比率が重要なん、じゃないか。子供の時点でそんな認識でした。
イルカは頭がいい、平和的な生物だ。その根拠が脳の大きさでしかなかった。そのことは大きな衝撃でした。
ですが、それは相応の科学知識を持っていたからの反応に過ぎないのかもしれません。
脳科学の最初期は脳の大きさを測定していました。有力な脳科学者はいくつもの頭蓋骨を有し、その頭蓋骨の大きさを測定して、脳の大きさを測っていたのです。そして、その脳の大きさこそが知能の高さだと信じられていました。
中には、白人種と有色人種の脳の大きさに差異を見出し、有色人種は人類に到らない劣等種だと論じる者も出てきます。ですが、それは恣意的に例外を省いており、結論ありきの論理に過ぎません。
同じ手法でクジラの脳の大きさから知性の優れた動物だと判断されました。大きな体を制御するために大きな脳が必要となるなんて考えは、現代人の後知恵なのでしょう。
そうして登場した論説がつい最近まで残り、クジラが知的な生命だと考えられるようになったのです。
では、平和的なイメージはどこから来たのでしょうか。これは当時のヒッピーやニューエイジ的な思想と結びついたものです。ラブ&ピースというやつですね。
イルカ研究者は「人類という孤独な種の寂しさを埋めるのはイルカだろう」などと臆面もなく言っていました。有色人種を人類未満の存在と見なして、奴隷として扱ってきたのはどこの人たちなんでしょうか。
しかし、彼らは彼らで憐れまれるべき存在かもしれません。長年抱いてきた序列だった世界観が科学によって剥がれ、その崩れた価値観を立て直す理屈を探すのに必死だったのでしょう。
イルカの知的で平和的なイメージはもはや古いものになっているのかもしれません。
反捕鯨活動や反反捕鯨活動ももはや旬を過ぎた感があり、隆盛を誇っていたシーシェパードも息をしているのかどうかさえ怪しい。
イルカは集団によるイジメや強姦をするという話も有名になりました。最近では海水浴場に現れたイルカが人を襲うなんてニュースも出ています。イルカが遭難した人を助けたり、サメから守ったなんて話もあるので、人間にとって有益な面も有害な面もあるというだけの話ですけど。
ですが、天使やエルフに近しいイメージだったイルカはもういないのでしょう。
人間が勝手に持ち上げて、勝手にガッカリするなんて、迷惑な話ですが、イルカのイメージはこうして乱高下したのでした。彼らもまた野生を必死で生きる生物の一種というだけの話なんですけどね。
以上、「デスゲームで本当にあった怖い話」にて、勝手に悪役として描いた作者として、イルカに対しての思いを書かせていただきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます