私の出会った詐欺師たち

 意外なことにと言うべきか、嘆かわしいことにと言うべきなのか、詐欺師というのは身近にいるもので、私も何度か遭遇したことがあります。今回はその体験のうち、いくつかを書いてきましょう。


 仕事があり、名古屋に行っていた時のことです。本来は二人で行動するところなのですが、もう一人が体調を悪くして帰ってしまい、一人で行動することになりました。朝食を食べ終えると、仕事を始めるのにも間があるので、なんとなく名古屋駅の周辺をぶらぶらと散歩していました。


 すると、突然、見ず知らずの男に呼び止められます。「急いでいるから来てくれ」という主旨のことを言われ、よくわからないままついていきました。

 男は何かを探しているようで、「もう行ってしまったか」というようなことをぼやきます。改めて見ると、その男は「ベルセルク」に登場する拷問官(グリフィスを虐待した人)にそっくりでした。


 その男は妙にフレンドリーで、ただ居合わせただけの私にベラベラと事のあらましを喋ります。私は、この人、「ベルセルク」にいたよなあと思ってました。

 なんでも、男はトラックの運転手で、待ち合わせに間に合わず、今日乗るはずのトラックがもう発車してしまったとのこと。会社の方針で携帯電話を持てず、ポケベルで連絡しているためにそういうことが起きるのだと説明します。

 男は延々と話を続けますが、私はなぜそんなことを聞かされているのか、わけがわかりませんでした。


 そして、九州だったか広島だったかに帰らなければいけないので、新幹線代を貸してほしいと言われます。

 知人にだって金を貸したくはないのに、見ず知らずの人間に金なんて貸すわけがありません。ただ、彼の状況について半信半疑ではあったので、「一万だったら捨てたと思って渡してもよい」と伝えました。すると、「そんな金で新幹線に乗れるわけがない」と怒り始めました。


 その後、給料はいくらだとか貯金はいくらあるとか尋ねられました。答える気はないので答えを濁していると、「ハッキリしねぇなぁ。やっぱり俺たち運転手とは違う」とたしなめられます。

 はっきり言わせてもらうなら、お前みたいな気持ち悪いおっさんに金なんか貸すわけないだろ。そう思いましたが、口には出しませんでした。

 結局、「金は貸せない」と言うと、悲しそうな顔をして立ち止まり、「じゃあ、いいです」と急に敬語になって去っていきました。あたかも私の狭量を責めるようであり、被害者ででもあるかのようでしたが、私には金を貸す義理なんざ何もありゃしねーのでした。


 ただ、この件が詐欺だったかは断言できません。

 立証するためには、実際に金を貸し、返ってこないという事態になる必要があります。その上で金を騙し取る意図があったと証明しければなりません。そんなことを旅先でしたくはないし、できるはずもありません。そもそも、あまり関わり合いになりたくない人でした。


 これは比較的多額の金銭要求ですが、もっと少ない金額を要求されることもあります。いわゆる寸借詐欺ですね。

 近所のスーパーの前で老人に声をかけられたことがあります。道を尋ねたいのかなと思い、話を聞くと、「お金を落としてしまったので、○●まで行く電車賃を貸してほしい」ということでした。

 これは寸借詐欺かもなあ、と思ったので、「そういう話なら警察に行ったほうがいいんじゃないですか」と返しました。場合によっては警察でお金が借りられることもあるのです。

 老人は「そういうことじゃないんだ」と言ってきましたが、話を聞く気になれず、そのまま別れます。


 それから、しばらくたったある日、同じ老人に出会いました。

 相変わらず、「お金を落としたので電車賃を貸してほしい」ということを言ってきます。これは寸借詐欺で確定のようです。

 腹が立ったので、「前も同じことしてましたよね?」と詰め寄ると、老人は「いやあ」と照れたような仕草で去っていきました。


 また別の日、この老人は三度現れます。性懲りもなく、話しかけてきました。

 私の町でまだこんなことをやっているのか。私の心に怒りが燃え上がります。

「なんなんだ!?」

 思わず、声を荒げていました。老人は私の剣幕に驚いたのか、すぐにどこかに行きました。

 それ以来、この老人を見ることはありませんでした。とはいえ、身なりもちゃんとしている、しっかりした老人なのに、こんなしょうもない詐欺行為に走るのかと考えると、悲しい気持ちになります。


 やはり少額の詐欺ですが、一時期、募金を求める東南アジア系の女性をよく見ました。私も数度声をかけられましたが、胡散臭いものを感じて寄付は断っています。

 その後、ネットで調べたところ、案の定、募金詐欺のようでした。彼女たちにお金を渡すと、そのまま着服し、自分自身のために使うようです。


 同じ時期、イギリス人を名乗る青年に声をかけられました。深夜に近い時間帯で、付近の店のほとんどが閉まっており、人の通りもほとんどない場所です。

「自分はイギリスから来た留学生だが、お金が無くなってきており、民芸品を売っているので買ってほしい」

 というようなことを言ったように記憶しています。そして、カバンの中から何かを取り出そうとしました。


 正直、怪しさしかありません。民芸品という言葉には惹かれるものがありますが、関わるのは得策ではないだろうと感じました。

「今お金ないから買えないですよ」

 そう言って青年を制止し、その場を立ち去りました。


 しかし、その青年がどんな民芸品を取り出そうとしていたのか、今でも気になります。

 ひょっとしたら、「笑ゥせぇるすまん」や「ブラック商会変奇郎」に登場するような、素晴らしい道具を手に入れる機会をふいにしたのかもしれませんね。

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