ドラゴンクエストの貴種流離譚
貴種流離譚と呼ばれる物語の類型があります。
高貴な血筋の持ち主が
ドラクエシリーズの物語は1~4、5~8で大きく分かれています。
1~4は高貴な(勇者の)血統を持つ主人公が巨悪を倒す物語、5~8は平凡な主人公が実は高貴な血統を持つと知り、やがては王(王位継承者)になるという物語です。
とはいえ、1~3に物語といえるほどのドラマ性はありませんでした。ドラマを盛り込んだ初のドラクエは4です。ですが、終盤に向けては敵方の悲劇が語られており、同情の余地があるラスボスを倒すという、ゲームとしてはカタルシスにやや欠ける展開になってしまいました。
ドラクエの特徴は主人公がしゃべらないことです。それにより主人公=プレイヤーというイメージが持ちやすくなります。
主人公にキャラクターを持たせず、ドラマ性を持たせるにはどうすればいいのでしょうか。
5以降のドラクエ、特に5、6においては、主人公が自分の出生を知っていくストーリーがドラマの中心に置かれています。
ドラクエ5。物語は主人公に物心がついた時から始まります。わかっているのは頼りになる父親と旅をしていることだけ。
幼い主人公は旅の中で父を亡くし、奴隷として売られ、奴隷のまま大人になりました。青年となった主人公は奴隷生活から逃亡し、故郷にて亡き父の意志を知り、再び旅立ちます。
やがて、旅の中で生涯の伴侶を得て、子供を授かり、自分が王族の出身であることを知りました。そして、幾多の困難の果てに王位を受け継ぎ、幸せに暮らすのです。
ドラクエ5の主人公の人生は不幸と苦労の連続でしたが、その先に待っていたのはハッピーエンド。実にカタルシスに満ちた展開です。
対してドラクエ6。主人公は山奥の村で暮らす平凡な青年で、妹との二人暮らしです。魔王を倒しに向かい敗れた夢を見た翌朝から物語は始まります。
主人公は精霊の予言によって旅立ち、自分の暮らす世界の下にあるもう一つの世界に迷い込みます。その世界こそが現実の世界であり、主人公の暮らしていたのは現実の人々が見る夢の世界だったのです。
現実の主人公は王子であり、魔王の呪いによって現実の自分と夢の自分とに分離されていたのです。
ちなみに、夢の主人公が生まれた時点が、プレイヤー視点でのゲームの始まりだと考えられます。
主人公は本当の自分に会いにいきますが、魔王に敗れたショックから戦いを恐れ、周囲の人々から弱虫と蔑まれていました。また、夢の世界での妹であるターニアは、現実の世界では行き倒れたところを助けてもらった間柄に過ぎません。
2人の主人公は融合し現実の記憶を取り戻しますが、意識は夢の世界のままでした。
やがて、主人公は魔王を倒して世界に平和を取り戻し、王位を継ぐことになります。 しかし、父王、母后も健在ですが、どうしても他人にしか思えません。唯一の肉親と思っていた妹は赤の他人です。
展開としてはドラクエ5と同じ貴種流離譚にも関わらず、もの悲しさの残るラストでした。
特筆すべきは、これらの物語がプレイヤーの主観として感じられること、そして同様の展開でありながら真逆の印象をうけるドラマでしょう。
ストーリーテリングから見るドラクエも奥が深いものです。
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