丹沢行
中学校では丹沢山岳部という奇っ怪な部活に入っていた。活動するのは年に数回で、一年の時なぞ一回しか活動しなかった。
部員は当初は多くなかったが、剣道道場の後輩に部活の話をしたところ、新一年生の間での口コミがすごかったらしくドカンと増えた。もっとも実際に登山をしたのはその中の何人かというくらいだ。
顧問の先生が
駒止茶屋に泊まることも何度かあった。中学生だった我々は、ラジオを持ち込んでときめきメモリアルのラジオを聞いたり、無線テレビを持ち込んでギルガメッシュナイトを見たりしていた。
肝試しとして、夜中に堀山の家まで歩いたこともあった。堀山の家のおっちゃんはこっちは中学生だというのに酒を飲ませようとしてくる。この頃は酒を飲ませた側への罰則はゆるかったのだ。
塔ノ岳の先には一度だけ行ったが、
そんなわけで元丹沢山岳部員だというのに、その名を冠する丹沢山も最高峰の
登山道に入ると容赦のない急勾配が続く。
同じ方向を目指す登山者と、途中で追い抜いたり追い抜かされたりを繰り返す。抜かされるのも足の遅さを自覚して嫌だが、抜くのもその人より速く歩かなければならないプレッシャーを感じてキツい。
八丁の頭まで行くと桜が咲いていた。もう5月だが、標高も1,300を超えるとまだまだ桜の季節なのだろうか。それにしてはだいぶ暑かったけど。
丹沢に登るといつも思うのだが、山頂までの道のりは目もくらむような階段を上らなくてはいけない。
最高峰である蛭ヶ岳はそれが一際キツいのだろう。この足の重さこそが強靭な筋力を作るのだ、そう自分を鼓舞しながらなんとか足を進める。
振り返ると富士山は後方に、山に隠れて見えていた。隠してるのは先ほどの姫次だろうかと思うが方向が少し違う。
蛭ヶ岳山頂に着くと、食事にすることにした。
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、キャベツ、にんにく、ソーセージをラード多めで炒めたものを持って来ていた。自己流のペミカンもどきだ。これに水を入れてブイヨンを溶かせばコンソメスープが簡単に出来上がるという寸法だ。
いつものようにガスバーナーを組み立て点火する。が、点かない。どうやら着火装置が故障してしまっているようだった。
どうしたものか思案していると、隣に座っていたおじいさんがガスバーナーを貸してくれると言ってくれた。おじいさんに礼を言い、ありがたく使わせてもらう。
コンビニで買ってきたパンが2つあったが、一食分の計算がおかしく、スープだけで十分な分量だった。焼きそばパンはなんとか食べたが、それだけでお腹いっぱいになる。
蛭ヶ岳からは丹沢山、塔ノ岳を目指す。最高峰まで来ているのだから、それ以上に大変な場面もなかろうと思っていたが、そうは甘くなかった。
尾根を進む道は見晴らしが良く、それは結構なのだが、遮蔽物がないので滑落の危険を想像させる。風が強いのもその懸念を強くした。高所恐怖症が発動して身がすくむ。
険しい道もまだまだあった。鬼ヶ岩では鎖や岩を伝って登らねばならず、丹沢山では果てしなく続く階段はいまだ健在。ほうほうの体になりつつ、なんとか登り切る。
竜ヶ馬場まで来る。中学生の頃からつい最近まで、ここが丹沢山の山頂だと思い込んでいた。丹沢山にはベンチがあるだけで、山小屋はないと思っていたのだ。
ここからは一度通った道だ。と考えていたのだが、二十数年前の記憶なんて当てにならない。パッと行ってパッと帰ってきた印象だったのだが、道は遠い。塔ノ岳への階段も長かった。
覚えているのは竜ヶ馬場の景観と森の道を降ったことくらい。森の道では同級生が、降りは後になって登る分を増やしていると、滔々と語っていたことも覚えている。(しょうもないことしか覚えていない)
塔ノ岳を抜けると勝手知ったるいつもの道だ。ここは去年も来ているから、さすがに記憶に新しい。
塔ノ岳までは階段ばかりという印象だったが、去年改めて登ってみてそこまで階段ばかりではないなと感じていた。そしてまた降ってみて、やはり階段ばかりじゃないかと思う。
人の記憶というものは曖昧なものだ。
GWだからか大倉までの道はやたら混んでいた。何度も渋滞に巻き込まれる。登山中に渋滞に遭うなど初めてのことだ。
大倉も人が多かった。人が多いのでケバブ屋やコーヒー屋のカーショップが来ていた。ケバブ屋でビールを飲みたかったが、諦めて帰った。
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