激震! 雨山峠

 登山をする、だとなんか普通だ。気取った感じもなく、そういう趣味なんだなと思う。そういう普通さが欲しい時はこの言葉を使う。


 山野を駆ける、という言葉もある。気取った感じが鼻につくかもしれない。思い浮かぶのは野伏せりだ。

 野伏せりといっても、「七人の侍」に出てくるような野武士のイメージではない。「指輪物語」の馳夫さん(ストライダー)ことアラゴルンや彼に率いられるドゥネダインの者たちが思い浮かぶ。物語の序盤で旅慣れないホビットたちの仲間となり、彼らを先導し、山道を見つけ、恐ろしい敵の追跡をかわしていく姿は頼もしく思えたものだ。

 山行には長いことストライダーパンツを愛用しているが、使い勝手がいいのはもちろん、アラゴルンに由来する名称が気に入ってるということもある。

 そんなことを考えつつ今年最初の冒険に行ってきた。


 最初に登るのはやはり丹沢だ。去年末も少し登ったが、ジダンゴ山方向から雨山峠あめやまとうげを通り、鍋割山なべわりやま塔ノ岳とうのたけを目指すつもりでいる。


 今回はまだ通ってない道がある宮地山みやじやま方向を登る。

 途中からは知っている道。ジダンゴ山との別れ道からまた知らない道。急に道が細くなり、本格的な山道になる。やがて、一年半前に歩いた高松山たかまつやまと合流する。

 以前は、日影山ひかげやまへと続く超マイナーな道を選んだが、今回は雨山峠というややマイナーな道を行く。


 丹沢というものはとにかく階段が多い。山歩きの基本は小股に歩くことだというが、階段が多いとどうしても大股にならざるを得ない。自然、疲れが蓄積していく。

 そんな時、とあるゲームで必死にレベル上げをしていた時に上級者のプレイヤーに言われた言葉を思い出す。

「このレベル帯を抜ければ天国が……待ってません! (このゲームは)永久地獄です」

 丹沢は階段を抜けてもまた階段。永久地獄だ。

 人はなぜ困難な道を楽しいと思ってしまうのか。


 檜岳ひのきだけ雨山あめやまを抜け、雨山峠にたどり着く。細い道が多く、断崖のようになってる尾根も少なくない。高所恐怖症なのでビクビクしながら進む。

 雨山峠には例によって「経験者向きのコースです」とある。早く初心者向けのコースに戻りたいと切に願うが、経験者にはどうしたらなれるのだろう。

 ちゃんとした指導者の元で登山をしていれば経験者になれるのだろうか。私が人について登山していたのは、幼少期に父と登っていた時と、丹沢山岳部に入っていた時くらいだ。どちらもまともに指導されていたとはいえまい。

 登山の本も少しは読んではいるが、そろそろ「経験者になろう!」シリーズかなんかを読んだ方がいいかもしれない。


 雨山峠からは歩きづらい道が多い。例によって道は細く、小粒の砂利、砂が多く滑りやすい。そして、鎖場も多い。ここさえ抜ければあとは楽だ、何度もそう思いながらも道を進んでいく。

 最後の鎖場は特に長く、思い返せば目も眩むような高さを登っていた。

 だが、それを越えれば本当に楽になる。細い道はなくなり、危険な場所はない。振り返ると富士山が見えた。

 ただ階段は多い。疲れが足に蓄積しており、何度も休憩を取る。


 鍋割山ではラーメンを作る。今日は熊本マー油とんこつラーメン。ローソンで買ったチャーシューメンマセットを用意している。

 だが、ガス欠で上手く湯が湧かなかった。その状態で無理やり麺を茹でる。いまいち熱が上がらず麺の茹で方が中途半端になってしまう。さらに、ローソンのチャーシューメンマセットなんてものが美味しいはずもないのが合わさって、……美味い!(と無理やり自分に思いこませた)。


 失敗ラーメンを食べたのち、どう進むか考える。すでに15時を回っている。やどろぎに戻るよりも大倉の方が帰りやすい。塔ノ岳は諦め、大丸、金冷やしを経由して、そのまま下山するのがいいだろう。

 以前、鍋割山に行った時に小丸は通ったが、大丸は通らなかった。足が残っていないとそこで下りたのだ。今回も塔ノ岳には行かず大丸からそのまま下山。まるで成長していない。


 そして大丸についたところで問題発生。スマホのバッテリーが突如なくなり、電源が落ちた。

 充電しながら歩いていたので、スマホ自体かバッテリーかどちらかが壊れたのだ。もう長いこと使っているので、寿命が来たのだと考えるべきだろう。

 とりあえず別の充電器に挿し直してみる。いつまで経っても十分に充電されない。起動できないままだ。記録がここで途切れるのは残念だが、放っておいて下山を続ける。

 しかし帰りはどうなるだろう。大倉からバスが出ていれば問題ないが、ない場合はタクシーを呼ばなければならない。今どき電話ボックスなんてあるのか。

 不安はあるが道を急ぐ。


 さらに、もう一つ壊れたものがあった。右膝だ。

 登りもキツいにはキツいが降りで痛みが発生する。膝を曲げると痛みが強い。階段を降りる時、右足からしか降りないことに徹すると、痛みはあまり感じなかった。だが、この歩き方は少し遅い。なんとか誤魔化しながらも下山を急ぐ。

 やがて日が落ち始めたのでヘッドランプをつける。この頃になると膝の痛みはあまりなくなっていた。治ってきたと思っていたが、実際には痛みに慣れて感覚が麻痺していただけだろう。

 また、それまで人と出会わなかったのが、ヘッドランプをつけた頃からちょくちょく遭遇するようになる。


 下山して大倉までの道すがらスマホを見る。いつの間にか電源が付いていた。下山時の記録は取れなかったが、完全に消えたわけでなくてよかった。

 バスも休日ダイヤで走っていたのでそのまま帰る。


 今回の登山の反省点としては、

 ①経験者になるにはシリーズの本を読む

 ②スマホを買い換える

 ③膝サポーターを買う

 の3点です。

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