激辛三番勝負
事の始まり
「激辛☆プリンセス」二章が完結しましたので、実際に激辛対決をした時の話でもしましょう。
当時、日本で最も辛い(と思われた)カレー店は「マジックスパイス」でした。現在もお店を出されている美味しいスープカレーのお店です。辛さは「覚醒」「瞑想」「悶絶」「涅槃」「極楽」「天空」「虚空」と仏教用語が用いられており、後に進むほどやばげな方向へ上がっていきます。(※注1)
このお店のウェブサイトを見つけた私たちは通販を頼むことにしました。
「そんなに辛くないですよ」
そんな物言いがあったため、迷わず「虚空」を選択。さらに「ホーリートリップ」なる辛さアップのスパイスを一袋(50g)ずつ追加しました。
しかし、この時にはあんな惨劇が待ち受けていようとは思っていませんでした。
なお、この時点での辛い物実績ですが、私はココイチを9辛で断念、対戦相手の喜川氏はココイチ10辛を常食、という感じです。
一回戦 スパイスピエロ―
マジックスパイスに注文したところ、「お気軽にお待ちください」とのお返事をいただきました。いつ届くか不明だったため、勝負の場所を別に求めました。
この時に向かったのは、今はなき(あるのかも)スープカレーの名店「スパイスピエロ」でした。
なんやかんやでギャラリーがついていましたが、勝負に名乗りを上げるものはおらず、結局、私と喜川氏とで一騎打ちの対戦となります。公平を期すため、二人とも同じメニュー「やわらか骨付きチキンのスープカレー」の10辛を頼みました。
自分の対応できる辛さを超えていたらどうしよう、そんな不安がよぎります。
やがて、カレーが到着。まずは一口味わいます。
「こ、これはっ……!」
「うまい!」
なんだかとても美味しいカレーでした。辛さがちょうどいい感じで、美味しく食べれます。ただ、カレーの量に対してご飯が少なかったことが少し不満でした。
「んー、これは甘いですよ」
喜川氏も激辛エリート発言をしています。(※注2)
今回あっさり引き分けでした。
二回戦 カシミールカレー
次なる勝負の場としてインド料理店(といってもやっぱりカレーです)のデリーに行きました。
スパイスピエロの10辛よりもデリーのカシミールカレーのほうが辛い。そんな提言があったためです。
今回から田中氏も参戦することとなり、三つ巴の戦いが繰り広げられることになりました。
カシミールカレーを辛さ最大で頼み、なんとなくライスをサフランライスに変更しました。
やがて、カレーが到着します。
それを一口。なんとなく予想はしていたものの、なんなく食べられる辛さでした。難を言えば、サフランライスよりも白米のほうが美味いんじゃないかということくらい。
初挑戦の田中氏もすぐに完食し、喜川氏も量に多少苦戦したもののこちらも完食しました。
三つ巴の戦いはまだ続きます。
三回戦 虚空+ホーリートリップ=悟り
マジックスパイスへの注文から二週間。ようやく、マジックスパイスのカレーが到着しました。これより本当の勝負が始まります。
近所の無印良品で鍋と皿とスプーンを購入。カレーをグツグツと煮込みます。
そして、一気にホーリートリップ50gを投入。その瞬間、異様な臭気が漂い、ギャラリーの悲鳴が響きました。
明らかに、前回、前々回とは勝負の質が違うことがわかります。
先行として、まずは私から食べ始めます。最初の一口。
「こ、これはっ……!」
「……………ッ!!?」
全身全霊が告げてきます。これは食べ物ではない。そして、今行っている行為もまた食事ではない。
これは食事ではなくて勝負です。これはカレーではなく敵です。ならば、負けるわけにはいかない!
戦闘モードに頭を切り替え、一口一口を食べ進めました。遠い、そしてつらい道のり。自然と涙が出てきます。
やがて、喜川氏のカレーも出来上がりました。一口食べるごとに、私と同じく声にならない悲鳴を上げています。
そして、ポツリと一言。
「これ、本当は(ホーリートリップを入れなければ)美味しいのになあ」
彼と私の気持ちが一つになっていました。我々はなんら深い考えもなく、ホーリートリップをクリックしたことをただただ後悔していたのです。
とはいえ、勝負は勝負。負けられない、食べ物を残さない。その一念で食べ進め、あと数口というところまで進みます。
しかし、この時、私は自分の身体の異変に気づいていました。お腹が痛いのです。正確にいえばお腹が辛い。辛さが辛いを通り越して痛いになっているのです。
これはまずい。美味しいか不味いかの「まずい」ではなく、大丈夫かまずいかの「まずい」でした。
これ以上食べ進めるのが危険なのはわかります。でも、それは勝負を放棄することになってしまう。これは、やらなくてはならないことでした。
気合のもとに完食しました。
お腹の痛みは姿勢を一定に保っていれば何とかなることに気づき、背中を反った姿勢で勝負の行方を眺めていると、喜川氏は私以上に苦しんでいる様子です。しばらくして、残りを田中氏に引き継いで、ダウンしました。
田中氏もすぐにリタイアしてしまいます。もう一皿は残されたままとなってしまいました。
こうして私は血戦を制覇しました。
勝利の余韻など微塵もなく、ただただお腹が痛いだけでしたが、勝ったのです。その後、家に帰るまでに何度もダウンしそうになり、家に着いたとたん死んだように眠りましたが勝ったのです。翌朝、やたらと熱いものが出てきたりもしたのですが、とにはともかく勝利したのでした。
これ以降、私はたびたびトイレで赤いものを目にすることがあります。
※注1:「アクエリアス」なるさらなる高みもある模様。
※注2:激辛愛好者はなりがち。「あそこのカレーは辛くない」「むしろ甘い」といった発言が多い。特典は痔になりやすい。
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