極辛カレーライス

「激辛☆プリンセス」にて登場する究辛きゅうからカレーですが、モデルは大沢食堂のカレーライス(極辛)です。かつて、東京で一番辛いカレーだといわれていました。

 残念なことに大沢食堂は2013年に閉店してしまい、もう食べることはできませんが、私がカレーライス(極辛)を食べた時の記録が当時の日記に残されていましたので、本稿にて再現したいと思います。


 大沢食堂は格闘家の大沢昇さんが引退後に開いていた料理店で、カレーだけでなく、ラーメンやチャーハンといった中華メニューもある町の食堂というべきお店です。ですが、やはり看板メニューは極辛カレーで、その辛さのために、東京の辛いもの好きにとっては登竜門というべき存在でした。

(格闘家としては、空手、ボクシング、キックボクシングで活躍していたようです)


 私が店を訪れた当日のことです。19時過ぎて店が開きました。この瞬間を待ち続けていたため、私が最初の客でした。

 早速、カレーライス(極辛)を頼むと、店のお兄ちゃんから「初めてですか?」との質問が。そして、2、3口味見ができると薦められるも、ここで芋を引く判断があるわけありません。どれだけ辛くとも食べきる以外の選択肢はないのです。


 注文をして僅か数分でカレーが出てきました。真っ赤なカレーライスです。味噌汁が付いていました。

 一口目、食べてみましょう。ざらっとした食感。唐辛子が多いのでしょうか。二口目、うん、うまい。うまいカレーです。紅ショウガもいいアクセントになっていて、食べやすい。このまま勢いに乗って三分の一まで食べ切りました。


 しかし、そこからがつらかった。なんというか、辛い、熱い、痛いがいっぺんに来る感じです。

「からい」という字が「つらい」と同じ字を書くことを、「言葉」ではなく「心」で理解するほどです。

 そしてあふれ出る涙。汗や鼻水は滝のように出るだろうと予想していたものの、決して鼻水やら汗が目から出ているわけではありませんでした。純粋に体が辛さに反応して涙が出ているのです。


 とはいえ、こんなところで諦めることはできません。気合いを入れ、無心になり、なんとか完食しました。

 ただ、残された味噌汁が曲者でした。すでに冷めてきているはずなのに、極辛カレーの辛さでズタボロになった舌が凄まじい刺激を持っているのです。このなんてことない味噌汁が最後の砦となり、私を苦しめます。


 それはそうと、極辛カレーライスは大変美味しいカレーでした。

 しかし、そう思いながら、二度と食べに行くことはありませんでした。ずっとまた食べたいという気持ちはありましたが、激痛の記憶も根強かったのでしょう。再戦にはいたらないまま、大沢食堂の閉店を見過ごしてしまいました。


 激辛に挑戦しても、得られるものは、舌の痺れ、腹痛……そして、翌日の熱辛いお尻の感覚のみです。下手をすれば、身体に取り入れた栄養素もすべて流れるばかりか、痔を患うかもしれません。

 それでも、我々は激辛にチャレンジし続けるのです。そこにこそ、人が生きる意味が隠されているからなのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る