僕の憧れの人【酒豪篇】
その学識は幅広く、気遣いに優れた人だったといいます。
彼は常々こう語っていました。
「船を杯に見立てて、美味しいお酒をプールのようにいっぱいにしたいなあ。その両脇に季節の食べ物を置こう。
その中でバチャバチャしたり潜ったりしながらお酒を飲むんだ。疲れたらご馳走を食べてもいい。少しでもお酒が減ったら、すぐさまつぎ足そう。
こんな風にできたらなあ」
そんな鄭泉は主君である
ある時、孫権はこんなことを尋ねます。
「お前は大衆の面前で主君を
鄭泉は答えました。
「明君を前にした臣下は真っ直ぐであるべきです。現在の朝廷に不信感などありません。私はただ
この後、宴会が開かれました。
その席で、孫権はわざと鄭泉を怖がらせようと悪戯を仕掛けます。役人たちをけしかけて鄭泉を引き摺り、罪状を問わせました。
その間中、鄭泉はチラチラと孫権の方を見ています。
その様子に孫権は笑いを堪えられなくなり、鄭泉を呼び戻しました。
「お前は畏れないと言っていたのに、どうして私の方をチラチラと見ていたんだ?」
「保護していただけると信じておりましたので、心配はしておりませんでした。ただ、陛下のご威光を感じてなりませんでしたので、ついつい視線を送ってしまったのです」
この返しの上手さに、孫権は膝を打って感心しました。
時は
劉備は反省を表し、以前の交流を再開したいと言ってきています。それに対し、孫権は鄭泉を呼んで言いました。
「これまで西の勢力を蜀と呼んで来たのは、漢の皇室がおいでになったからだ。しかし、漢室は廃止となった。ならば、これからは漢中王と呼ぼうではないか」
この時点で、
そんな状況の中、鄭泉を劉備への使者に送りました。鄭泉なら機微を理解し、難しい役目をこなせると見たのでしょう。
劉備は言います。
「呉王(孫権)はどうして返事を書かれぬのであろう。私が皇帝を名乗ったことをまだ許してくださらぬのか」
鄭泉が返します。
「
この言葉には劉備も恥じ入るばかりでした。
やがて、鄭泉は自らの死に臨み、こんな遺言を託しました。
「私を陶器作りの家のそばに埋めてほしい。百年も経てば私の身体は土となり、上手くいけばその土が使われて酒壺になれるかもしれない。そうすれば私の願いは叶うのだ」
剛毅にして柔和で、人間味もたっぷり。二千年も前にいた酒飲みですが、とても憧れる人です。
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