第3話 無力な彼女

 麗は体力が全くなかった。

 前の世界では移動は全て魔法で体を浮かせていたし、荷物も浮かせて運ぶだけ。料理だってイメージすれば肉も野菜も切ることができた。

 だから筋力はほぼ無かったし、それで問題が起きることもなかった。


 この世界では、近距離の移動は徒歩が多いし、家庭の食糧などは基本的に自分で運ばなくてはならない。それだけで経験したことがないほど筋肉が痛み、動けないほどの疲れが溜まっていく。


 魔法さえ使えれば──

 ほぼ全ての家事を和臣が行い、麗は着いて歩くのが精一杯だった。


「今まで一人でやっていたことだ。何かが変わった訳じゃない」


 この世界で暮らして気が付いたことがあった。

 あらゆる仕事が精緻に出来ているのだ。


 魔法はイメージの世界だ。物事を想像して魔力を集中させ事象を発現させる。

 想像力というのはかなりいい加減なので、例えば薄さ二ミリで肉は切れないし、魚を捌くのも難しい。それを易々とこなし、味付けもできてしまう和臣は麗にとっては奇跡のような存在であり、同時に無力を痛感させるものでもあった。


 それから五年の月日が過ぎた。

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