福島県南部の小名浜漁港から仙台への配送を終えたピンクのトレーラーは、内陸側の国道4号線を南下していた。彩香はノイズの多くなってきたFMラジオをスキャンさせて新しい放送局を探したが、退屈なNHKしか捉まらなくて、丁度、スイッチを切ったところだ。

 その時の大輔は助手席でウトウトし始めていて、ステアリングは彩香が握っている。早朝の運転を大輔に担当して貰ったので、そのまま彼を眠らせておこうと考えたのも、ラジオのスイッチを切った理由の一つだ。

 エアコンが欠かせないこの季節、彩香は冷たい風が大輔に当たり過ぎないようにと、少し風量を絞る。外はうだるような日差しでギラついているが、閉め切った車の中は快適だ。分厚いウィンドウが外部からのくぐもった雑音を伝え、早起きした大輔でなくとも睡魔に襲われる時間帯だろう。

 いつしか運転席から会話の声が途絶え、単調なエンジン音だけが響くようになって、暫くが経過していた。


 こんな風に二人で仕事をするようになって、その配送範囲は格段に広がっていた。一人の頃は、せいぜい関東地方に限定されていたエリアも、今では日本中どこへだって ──といっても、西日本への集配の仕事は、そう頻繁に有るものではなかったが── 行けるようになった。

 定常的な経路を定期的に運航するサラリーマンドライバーとは異なり、二人のようなフリーランスは、イレギュラーな配送先や、単発の案件に駆り出されることが多い。従って、その行き先も様々だ。そして今では、関東一円から東海、甲信越。北陸から東北あたりは、完全な守備範囲と言えよう。時には、大洗港や仙台港からフェリーに乗って、北海道へ足を延ばすことだってある程だ。


 二人の乗るようなトレーラーによる配送の場合、荷台部分だけをフェリーに乗せ、現地でそれを受け取った地元ドライバーが、そこから先を担当するというのが、船を使う時の通常の配送形態である。しかしそうなるとギャラは折半になってしまうため、儲けが半減してしまうのだ。

 だが大輔と彩香のように交代で運転することが前提であれば、全てを自分たちだけでやりくりできるので、他の運送業者の手を借りることなく何処へでも配送が可能である。

 特に北海道の場合、やたらと広いエリアが対象となるため、土地勘 ──それは場所に関する感覚と言うよりもむしろ、どれくらいの時間が掛かるかといった、内地の人間にはピンと来ない時間軸での感覚の方が重要だ── の有る大輔の存在は大きかった。

 真冬の北海道を知る大輔にとって春~秋の北の大地など、お気軽なドライブのようなものなのだから。


 彩香は男社会の運送業界で働く女として、ナメられないように気を張って生きてきた。しかしそれが、予想以上に疲れる苦行であったことが、今更ながら判ったのだった。これまでは父の後を継いで、ただ我武者羅に突き進むことに精一杯で、自分が疲れていることにすら気付けなかった。それが大輔と行動を共にするようになり、彩香は自分の肩に、如何に力が入っていたのかを実感した形だ。

 頼ればいいのだ。辛かったり苦しい時は、大輔に甘えることが許されるのだ。そう思っただけで彩香の身体からは力が抜け、今までよりずっと楽に呼吸が出来るような気がする。


 こういう関係を何というのだろう? 彩香は運転しながら、微かな寝息を立てる大輔の横顔をチラリと見た。


 恋人?


 いやいや違う。そんなんじゃない。確かに今では、二人は恋人同士と言える関係にある。茨城のあの小さな家で同棲を始めて、半年以上が経とうとしているのだから。小さなベッドで、お互いの身体を温め合いながら眠るようになって、随分と経つのだから。

 でもその言葉は、二人の関係を正確には表してはいない。だったら何と呼べばいい?


 パートナー?


 その言葉の意味を噛み締めた時、彩香はポッと顔が火照る想いがしたのだった。ついつい思い出してしまった夜ごとに重ねる肌と肌の感触が、その火照りに拍車をかけた。


 その時、彩香の視界の中で白い物体が異常な曲線を描き、本来在るべき状態から著しく逸脱した動きを見せた。その動きと連動するかのように、急ブレーキに伴う甲高いスリップ音が複数聞こえ、けたたましいクラクションが鳴り響く。

 その異常事態は、片側二車線の中央寄りを追い越していった車が、少々強引に左側の車線に割り込んだのを機に起こっていた。彼女の運転するトレーラーの、三台ほど前方に割り込んだその車が、突然、コントロールを失ったのだ。


 比較的車間を取っていたせいもあり、彩香は危険な状況に陥ることも無く、余裕でブレーキを踏んだ。と言ってもそれは、それなりの急制動に他ならなかったが。


 コントロールを失った白い乗用車は歩道と車道を隔てるカードレールに接触すると、「ガシャン」という耳障りな音を残して、ビリヤードの玉のように跳ね返されて車線に戻って来た。しかしパニックに陥ったドライバーの闇雲なステアリング操作のお陰で、完全に破綻した車体挙動が復活することは無く、半回転ほどのスピンを起こして停止した。

 そして、その車のテールが完全に反対車線にはみ出して、それを咄嗟に避けてしまった対向車線上の哀れなドライバーが、隣の車線を走る別の車と接触するという多重事故が発生した。


 自分の後ろを走る車が、止まり切れずに追突してくるのでは ──大型車両の後ろを走っていると前方の状況が見通せないため、咄嗟の対応が遅れるものなのだ── と身構えた彩香であったが、幸いにも後続車両のドライバーは、適切な車間を保つという自己防衛運転を身に付けていたようであった。

 当然ながら、安息な惰眠を貪っていた大輔が目を覚ました。

 「何何? 何が起こってるの?」

 プシュン・・・ とエアブレーキの音を鳴らして止まった背の高いトレーラーから見渡すと、どうやらあちこちで接触事故が発生したようだ。幸いにも、人命にかかわるような大事故は見当たらないが、それなりに大規模な交通事故現場と言って良いだろう。

 「あの白い車が無理に割り込んで、自爆したみたい。マナーが悪い奴が多くて嫌だなぁ、ったく・・・ 私の前で起きなくて良かった。自業自得だよ、あんなの」

 「あちゃ~。随分と派手にやったね、あのBMW。高い車なのに勿体ない・・・」

 「車の心配なんていいのっ! 私の心配をしなよ、バカ大輔っ!」

 そう言いながら飛んでくる彩香の闇雲なパンチを躱しつつ、大輔は続けた。

 「イテテテテ・・・ ごめんごめん。でも、こんな真っ直ぐな道で? いったい何キロだしてたんだ?」


 道の真ん中で立ち往生する事故車両を避けて、無事だった車たちがソロソロと動き出したのに併せ、彩香もトレーラーを発進させた。事故を起こした当人は既に車を離れ歩道に逃れているようで、スマホを耳に当てながら、何かをしきりに叫んでいる。

 確かに、高級車に乗って我が物顔でマナーの悪い運転をしそうな男だったが、人を見かけで判断してはいけないのだろう。それでもやはり、いかにもそういう事をやりそうなタイプに見えた。


 「うぅ~ん・・・ 言うほどスピード出してたわけじゃないけどね。スッと左車線に入った時に、失敗したみたい。スッと入った時に」

 自分の手を使って事故当時の模様を説明する彩香。それを見ながら事の顛末を想像してみるが、どうもピンと来ない。大輔はトレーラーが事故現場を通り過ぎる際、運転席側に身を乗り出し無残な姿を晒すBMWを覗き見た。


 外れかけているフェンダーが無様にひしゃげ、剥き出しになった車輪は明後日の方向を向いていた。ここまで足回りがやられていては、廃車は確実だろう。

 ホイール側面の惨たらしい傷はキラキラとしたアルミ素材特有の光沢を放ち、その傷が真新しいものであることを主張している。それは衝突の際の過大な入力に耐え切れず変形してしまったのだろう、エアーが抜けてタイヤはパンクしていた。

 そして大輔の目が、タイヤを見て固まった。


 (Eagle Pilot 2だ・・・)


 徐行するトレーラーは、飛散したランプカバーやガラスの破片を踏みつけながら、ガリガリと嫌な音を立てて通り過ぎたが、大輔の耳にその不快な音は虚ろに響くだけだった。その後も、話しかけてくる彩香の言葉に、上の空で受け応えをする大輔がいた。



 立川の技術開発研究所の敷地内にある、背の低い二階建てビルの一室に本山はいた。そこはコービータイヤの100%子会社である「神戸エンジニアリング」が拠点を置く本社、兼事務所という扱いである。

 と言っても、その顧客はコービータイヤ以外には無く、事業所内のあらゆる設備 ──試験設備や生産設備だけでなく、照明や空調、上下水道に至るまで── の維持管理を請け負う専門部署が、独立採算の形式をとっているに過ぎない。言ってみればコービータイヤお抱えの工務店のようなものだ。


 胸ポケットの中で震えるスマホを取り出すと、ディスプレイを見た彼の険しい顔に僅かな笑みが零れた。鳴ったのは会社支給のスマホではなく、個人携帯だ。仕事上の面倒な呼び出しの連絡ではない。

 彼は通話アプリの応答ボタンを押し、それを耳に当てた。

 「もしもし、今居っち? 珍しいね。どうした?」

 本山はそう言いながら席を立ち、他の従業員の邪魔にならないようにと廊下へ出た。

 「ってか、いつの間に会社辞めたんだよ? 人事広報で見てビックリしたよ。同期なんだからさぁ、何か一言くらい有っても良いんじゃない?」

 本山にチクりとやられた大輔は、スマホの向こう側で恐縮する。

 『ごめん、ごめん。謝るよ。色々あってさ。とても連絡取れる状況じゃなかったんだ』


 大輔の言う『色々』が何を指すのか、今の本山には痛いほど解かっている。


 「嘘、嘘。冗談だよ。んで、元気でやってんの? 今は何やってるの?」

 『あぁ、元気にしてるよ。色々有って、今はトラックドライバーやってるんだ。テストコースに配属になって色んな車を運転させられてたのが、結果的に救いになったね』

 「そう。そりゃ良かったじゃん」

 『まぁね。それより本山の方はどうなってんだよ? 材料研究部に電話したら、そんな奴はもう居ませんって対応でビックリしたよ。いつから神戸エンジに移ったの? ってか、化学屋さんの本山が、そもそもなんで?』

 その質問に本山は、一呼吸おいてから答えた。

 「今居っちと同じ理由だよ」


 ─────


 Eagle Pilot 2に搭載されたトレッドゴムの件は、厳重な緘口令の元、ごく一部の者しかその素性を知らされていなかった。多くの社員は、あのゴム材料が本当に革新的で素晴らしい物だと信じて疑わなかったのだ。

 だって市場での売れ行きは好調で、今期の決算にも大きなインパクトを与えることがほぼ確定していたし、「特別協力金」なる名目の元、全従業員の賞与に一定額のが付けられるほどだったのだから。そこに疑いを差し込む理由も根拠も、殆どの社員は持っていないし、自分たちの働く会社に誇りすら感じているのだから。


 しかしどんなに堅牢な城壁も、その瓦解はほんの小さなほころびから始まるものである。本山は、城壁から剥がれ落ちた、最初の一個の小石を拾い上げてしまったのだ。その小さな欠片が、城壁全体を崩壊させかねない、巨大なうねりの始まりと成り得ることも気付かずにだ。


 発端は光重の言葉だった。彼女は今度の新規材料に関し、を抱いていると漏らしたのだった。いや彼女の言葉を借りれば、それは懸念などではなく確信であると。そして、元来、好奇心の旺盛な本山は真紀から詳しい話を聞き出し、一人で独自に調査を開始したのだった。

 当初は彼女に協力を依頼した本山だったが、真紀は事の重大さを確信していたが故に協力を拒んだのだった。そんなことに首を突っ込んだら、決して無傷では済まないと判っていたからだ。

 逆に言うとその時点の本山は、この案件の影響度を過小評価していたと言っていい。虫の好かない課長や部長に、チクリと言ってやれるくらいのネタにはなるのではないか。そんなお気軽な気持ちから ──真紀が止めるのにも耳を貸さず── のめり込んでいったのだ。


 先ずは真紀が行った摩擦係数計測試験の追試を行った。彼女の言う「20分を超えた辺りからの、急激な物性変化」が再現されるか否か。当然ながら、テストピースの温度も記録されるよう、万全を整えた。

 真紀と同様に、本山もプログラミングには疎い。従って、後付けの温度センサーのデータを他のデータと同期させて集録するには、試験機を制御しているプログラムを変更しなければならず、その改良をかつての同僚である神谷に依頼したところ、二つ返事で引き受けてくれたのだった。


 二人はかつて同じ部署で働いていたことが有り ──それは畑の異なる者たちが掻き集められた、プロジェクト的な部署だった── その後、本山は材料研究部に。神谷はテストコースに転属になっている。しかし最近、神谷が茨城から立川に戻って来たと聞いていた本山は過去の伝手を使い、プログラミングに長けた彼にコンタクトを取った形だ。

 その際、神谷の口から「実車試験部の連中が、今度のEagle Pilot 2は大丈夫か? と心配している」という話を聞き、同時に今居から来たメールの件を思い出したのだった。

 そう言えば今居は、突然、会社を辞めている。そもそも、テストコースがEagle Pilot 2の市場性にお墨付きを与えたという話ではなかったか? 聞いている話と違うじゃないか。

 そのことに思い当たった本山は、何やらきな匂い物を感じ、慎重に調査を進めたのだった。


 「神谷さん。こんなデータが採れました」

 コピー用紙に印刷されたデータを持って、室内試験場の事務所に本山が顔を見せた。プログラムの改良を手伝って貰ったのだから、どんな結果が得られたのかフォローするのは、技術者同士の最低限の礼儀である。

 そのグラフ化されたデータを読み解きながら神谷が言う。

 「えぇっとぉ・・・・ えっ!? 何これ? こんなゴム使ってるの?」

 「Eagle Pilot 2のトレッドゴムです。どう思います?」

 「ちょ・・・ ちょっと待った。あっちで話そうか」

 少し顔色を変えた神谷はそう言うと、そのコピー用紙を持って席を立った。本山は黙ってその後に続く。

 そして事務所に隣接する会議室に誰も居ないことを確認すると、照明を灯してガランとした会議テーブルに神谷が就いた。本山はその向かい側に座った。

 「いやいやいや、マズいだろ、こんなの使っちゃぁ。全然、力が出てないじゃん。何何? トレッドゴムだって?」

 堰を切ったように話し出す神谷に、本山は落ち着いた様子で応える。

 「はい」

 「そういやテストドライバーが言ってたぞ。突然グリップが消失するタイヤが有るって。それって、正にこの現象じゃないのか」

 「グリップ消失? そうだったんですか。実はこの材料の開発が完了した頃、テストコースの今居っちから・・・ あぁ、俺と今居って同期入社なんですよ。彼から『大丈夫なのか?』みたいなメールが来たんです。でもその時の俺、何にも判ってなかったから頓珍漢な返信しちゃって」


 神谷は本山の顔を見ながらも、頭の中では何か別のことを考えているような表情だ。


 「えぇっと・・・ 待てよぉ・・・ 今居君って、ちょっと前に会社辞めちゃったよね? 何か理由、聞いてる?」

 「いいえ。突然だったんで・・・」

 「なるほどねぇ・・・ そういうことねぇ・・・」

 合点がいった風の神谷に、本山が問い質す。

 「そういうことって、どういうことですか?」

 「多分、今の本山君と同じように、この材料の問題点に気付いたんだよ、今居君も。そしてそのことを問題にしようとしたら・・・」

 「したら?」

 「排除された」

 「!!!?」

 目を見開いた本山に神谷が続ける。

 「まぁ、はっきりとクビになったわけじゃないだろうけど。何処かに左遷させられそうになって、自ら辞表を提出したって線が濃厚なんじゃないのかなぁ」

 「そんなこと許されるんですかっ!?」

 つい声が大きくなる。本山は、その柔和な外見とは異なり、意外にカッとなり易いタイプなのだ。それを知っている神谷は、あえて冷静なトーンで付け加えた。

 「いやいや、あくまでも俺の想像だから。本当の所は本人に聞かなきゃ判んないよ」

 「じゃぁ、俺聞きます! 上司に聞きますよっ!」


 まだ若い本山には、不正を見過ごすことなど出来ないのだろう。世間ではそういった渡世術を覚えることを成長と言い、それをわきまえている者を大人と言うのだが、それに抗うのは若さの特権でもある。

 その特権を頭ごなしに潰してしまう程、神谷は無粋な男ではないが、その抵抗がもたらす破滅的な結末を知る程には世の中を見て来た。


 「本山君さぁ、君がこの会社にどういった理想像を重ね合わせているのかは知らないけれど、それはこの会社の真の姿なんだろうか? それほどまでに、コービータイヤは君の理想に近いものなんだろうか?」

 「・・・・・・」

 「もし今居君の一件が、俺の推察通りだったとしたら、会社は君の思うようなものではないってことなんだよ」

 「今居っちみたく、俺も排除されるってことですか?」腹立たし気に聞き返す本山。

 「6:4・・・ いや、7:3でそうなる公算が高いと思うな」

 突然、本山は立上り、会議テーブルをバンッと手で打った。

 「そんなこと! 俺は気にしませんよっ! 問題は今居っちの話だけじゃないでしょ!? このタイヤを買った、全ての消費者にも関わる問題じゃないですかっ!?」


 彼がこんな反応を示すことは判っていた。神谷は本山に冷静さを取り戻してもらうために、あえて質問をぶつけることにする。思考を感情のおもむくままに任せていては、質問の答えを考えることは出来ないのだ。従って興奮した人間を落ち着かせるのに、質問を投げかけるのは最も効果的な手法である。


 「そうだね。もしこの件が明るみに出たら、会社はどうするだろうか?」

 「ど、どうするって・・・ リコールでも何でもして、責任を取るしかないでしょう? 他に何が有るんですか?」

 「会社は・・・ 素直に責任を取るだろうか?」

 本山は両手を会議テーブルにつき、身を乗り出すような姿勢のまま固まった。問い質すような神谷の視線を正面から受け、彼は言葉を失った。


 ─────


 「ごめん。今更だけど、今居っちが抱えていたものが、やっと判ったよ」

 そんな言葉で、大輔が辞職した後に本山の身に降りかかった、事の顛末が締めくくられた。

 『そっか・・・ で、上司に言っちゃったんだ? 何かを。だから今は、神戸エンジの所属になってるんだね?』

 「あぁ。別に不正を追及するみたいなモードじゃなくって、単に『こんなデータが出てるんですけど、マズくないですか?』ってトボケて聞いただけだったんだけどね、課長に」

 『馬鹿だなぁ。神谷さんの忠告を聞いておけばよかったのに』

 呆れた風の大輔に、本山はあっけらかんとした様子で応える。

 「しょうがないだろ、俺って単純なんだから。知ってるくせに」

 『あははは。本山らしいっちゃぁ、本山らしいけどね』

 「がはははは。やっちまったよ」


 一瞬の沈黙を経てから大輔が切り出した。


 『でさ。話を戻して悪いんだけど・・・ 昨日、栃木の方を走ってる時に見たんだよ。交通事故をね』

 「・・・」

 『BMWだった。例のタイヤを履いてた』

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