終末へ

甘味料

1-2

20××年×月××日、あなたと終末を待っていた。


明日の夕方頃、隕石が衝突して世界が終わるらしい。

ニュースはこれを誇張して広め、銀行やテーマパークに大量の人が押し寄せ世界は大混乱となった。

私は、あなたと終末を待っていた。

明日世界が終わるというのに風はずっと優しくて、あなたがお気に入りだと言っていたヘアミルクの香りが私の周りを取り囲んでいる。近くに干されている洗濯物の爽やかな香りが、あなたと混ざって飛んで行った。

「……ネ゛、ァエ゛…」

喉が焼けるようだった。ただあなたと少し話がしたいだけなのに、どうしてこんなにも時間がかかってしまうのか。あなたがこちらを向いた音が聞こえた。

「…………あ゛ッジだ、……z、ゼ…っゼガ、イ …が、」

ああ、もう。煩わしい。早く、早くあなたの声を聴きたいのに。ひゅーひゅーと鳴る喉に聞こえないフリをする。

「…オ、お゛ァる゛……d…ど、と…ジだ、っら゛」

私には欲しいものがたくさんある。目と、声と、あなたがほしい。

「な゛ッ、ニじ…だイ?」

やっと言い終わったころにはあなたはもうそこに居なくて、隣で優しく私の肩に手を添えていた。

「終わるんだよ。明日には。」

ずるいなぁ。私にとってはあんなに難しいことも、あなたは簡単にやってのけるんだ。

「…ナ゛に……じダッ、イ゛?」

もっと、もっと聴かせて。なんだっていい、あなたの声をもっと聴いていたい。

隣にあったぬくもりがゆっくりと、私の正面まで移動していく。ああ、きっと私は酷い顔をしているんだろうな。でも私が辞めてと言ったって、きっと君は目を逸らしてはくれないんだ。

「…君といたいよ。」

知ってる。そんなの、今までずっと一緒に生きてきた私が一番分かっている。どうしたって、あなたは私から離れられないんだ。明日には世界が終わるというのに最期まで私に縛られ続けるあなたが、酷く哀れで愛おしい。もう忘れてしまったあなたの顔が、目の前で綻んでいる。きっと綻んでいる。あなたが、私の手をそっと握ってくれた。私よりも温いあなたの体温を感じながら、まだ見えていた過去を思い出している。眉は少し並行ぎみで、つり目がチャームポイントだった。鼻はあまり高くなくて唇は薄め。身長は、どうだろう。いつも屈んでくれるから分からない。許せないなぁ。こんなにも素敵なあなたが、明日には跡形も無かったことにされてしまうなんて。

世界よどうか、私だけ連れて行って。

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終末へ 甘味料 @kama-boko3

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