それから二人は色んな話をした。芝生に寝っ転がり、星を見上げながら。時にシンミリして、時にケラケラと笑い転げて。そうやって最後の夜は過ぎていった。

 「ねぇ、レー姐さん。そもそも、どうして私が巫女として選ばれたの? 私が可愛いから?」

 「んなわけ無いでしょ。その根拠の無い自信は何処から来るの? まぁ自分に誇りを持つことは良いことだけど・・・」

 「えぇ~。じゃぁなんでよぉ? なんで私なのよぉ?」

 「あら。言ってなかったかしら? それは井戸が有るからよ」

 「井戸? ウチの裏の?」

 「そう。あなたの一族は、あの冥府に通じる井戸を代々守り続けてきたの。その一族の直系に当たるあなたが巫女になったのは、必然の流れとも言えるわね。まっ、直系だと言っても、必ず巫女になるわけではないんだけどね。やっぱり、ほら。人には向き不向きってのが有るから」

 「えぇっ、じゃぁお母さんも巫女だったの? なぁ~んだ。だったらそう言ってくれればいいのに」

 「あなたのお母さまは直系じゃないでしょ? 他所からお嫁に来たんだから」

 「あぁ、そうか。じゃぁ、お父さんが直系? あのオヤジが巫女だったとか? んなわけ無いか。オッサンが巫女ってのも妙な話だし・・・」

 「そうね。オッサンが巫女ってのはチョッとね・・・」

 「じゃぁ・・・」

 「そう。先代の巫女という意味では、あなたのお婆さまがそれに当たるわ。私と彼女は旧知の仲だったのよ」

 「えぇ~っ! レー姐さん、いったい何歳なのよ!? 実は『ものの怪』とか、そういったレベル?」

 「うるさいわね! 女神に年齢なんて概念は無いの!」



 「じゃぁ、私、そろそろ行くね。あなたも早くお家に帰りなさい」

 「う、うん・・・」

 楽しい時間の終焉を告げられた玲が、沈んだ声で聞き返す。

 「ねぇ、レー姐さん。本当にこれでお別れなの? どうしてもお別れしなきゃいけないの? もう逢っちゃいけないの?」

 「えぇ。どうしてもよ」

 「・・・・・・」

 凹んだ様子を隠そうともしない玲を見て、レーテーが笑いながら言う。

 「最後に、あなたにご褒美をあげるわ。今まで頑張ってくれたお礼よ」

 「そんなお礼なんて要らないからさぁ・・・」

 「さ、目を瞑って、玲」

 「目を? どうして?」

 「いいから言う通りにするの。最後くらい私の言うことを聞きなさいってば、この不良巫女」

 「そんな言い方しなくても・・・ 判ったわよ。瞑りゃぁいいんでしょ、瞑りゃぁ・・・ こう? これで良い?」

 玲は口の周りに付いたケチャップを拭き取って貰う子供の様に、顔を突き出した。レーテーは笑いを堪えながら言う。

 「そうよ、最初っから素直にそうしなさいよ、全く・・・ クスクス。んじゃぁ、これからあなたに素敵な未来を差し上げます。余計な記憶に煩わされない、素敵な未来よ」

 「えっ? それって・・・」

 目を瞑りながら玲が言ったが、それを無視してレーテーは彼女の頭に手をかざした。


 閉じていた目を開いた時、玲は公園に一人ポツンと座り込む自分を認めた。

 「都会でもこんなに星が見えたんだ・・・」

 玲はそんな風に思い、後ろ手をついて空を見上げたのだった。

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