認めたくないものだな、自分自身の、過食ゆえの過ちというものを

URABE

私は太っていない!


(これはどういうことだろうか)


数日前からおかしな現象が起きている。写真に写るわたしがやけにデカいのだ。遠近感や端に写りすぎた場合など、太って見えたりやたらデカく写ったりすることはある。そんなことは当たり前だし承知の上での話だ。そうではなく、自分自身でもなんとなくデカくなった自覚があるから恐ろしい。



今は冬なので厚手のジャケットを羽織る。よって、なんとなくモコモコした風貌になる。その状態で誰かと写真撮影する時、他のメンバーが薄着だったりすると、厚着のわたしがデカく見えるのは仕方ない。


だが同じ服装で並んで写ったにもかかわらず、わたしが一人だけデカく写っている場合、これは明らかに逃げ場がない。わたしは太ったのだ――。



体重計には乗っていないが、体感で64キロほどある。つまり9キロ増量している。アメリカから帰国して自宅待機を強いられた期間、することといえば食べることのみ。そもそも試合直後から食べていたため、そこから数えて2週間はずっと食べ続けているのだ。そして運動できないにもかかわらず、食べる量もスピードも落とさないとなれば、待っているのはデブの二文字。


さらに自宅待機終了後は、友人らが試合のお疲れさん会を開いてくれたり、食事に誘われる機会が多かったため、人間とのフィジカル環境に浸れる喜びも後押しする形となり、わたしの食欲はさらに増進した。





お気に入りのオシャレスウェットパンツがある。そこそこの金額で買った自慢の一品で、スウェットとはいえ「ここぞ!」というときに履く一張羅のパンツ。


ちょっと変わったデザインで、ヒザに切り返しがありパンツを広げるとヒザ部分から30度ほど折れ曲がっている。いわゆる、バイク乗りが履く「ライディングパンツ」の形をしているのだ。さらにテーパード加工のため、ヒザから足首にかけて徐々に細くなっている。



そんな一張羅に久々に足を通した結果、わたしの巨木がパンツのヒザを通過することはなかった。生地が破れんばかりに食い込み、それでもグイグイ足を突っ込むがこれ以上はどうしたって無理。とりあえずは諦めることにした。


時間を置いて再びスウェットへ足を突っ込む。先ほど布を伸ばしておいたせいか、ヒザ部分になんとかふくらはぎを押し込むことに成功。そのままパンツを上に引き上げようとするが、言うまでもなく立派なご神木がそれを阻止した。



(あぁこれはもうまったく無理だ。物理的にわたしの太もものほうが、パンツの内径よりも太い)



こうしてこのスウェットは、細身の友人の元へと嫁いで行った。お気に入りの一張羅、いったい何回履いたのだろうか――。





事件は続いた。わたしは普段、布面積の少ないブラジリアンショーツを履いている。ヒップの厚みがすごいため、通常のショーツでは尻を覆えないからだ。


しかし、ツルツルした肌触りと伸び伸びの伸縮素材でできている、ユニクロのエアリズムショーツだけは別だ。あれはよく伸びるので、なんとか履くことができる。



そんな、最後の砦ともいえるユニクロのショーツに異変が起きた。柔術の最中、なんだか太ももに違和感を覚える。しかし道着やスパッツを履いているため、すぐにはその違和感が何なのかを知ることはできなかった。


練習後、シャワーを浴びようと服を脱ぐと、なんとユニクロのショーツがすでに脱げていたのだ!それが太ももで止まっていたことにより、なんか変な感じがしたのだ。その日は「たまたまそうなったのだろう」とさほど気にも留めなかったが、その翌日の練習でも同じ現象が起きた。これまで、こんなこと一度もなかったのに――。



帰宅後、ユニクロのショーツを履いて過ごしてみた。するとトイレへ移動する数歩の動作でショーツは脱げた。これは明らかにおかしい。いや、おかしくない。わたしの尻がデカくなったという動かぬ証拠だろう。



認めたくはないが、結論として、わたしは太ったのだ。

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