第一章:渡部 葵
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LEDの温かみの無い光が瞳孔を締め付けた。必要以上に白い光が、かえって嘘くさく思えてしまうのは何故だろう。天井も壁も、何処もかしこも白、または淡いベージュに統一された部屋は、いつか読んだ少年少女向けのSF小説に登場する空想上の一室を思わせた。
首を回してみる。誰も居ない。ただ沢山のスイッチやツマミの類が並ぶ目慣れぬ機器が、そのディスプレイ上に意味不明な文字やら数字やら図形を羅列しなら、「ピッ・・・ ピッ・・・」と微かな音を鳴らし続けている。そう言えばここのところ、この音がずっと聞こえていたような気もした。
よく見れば、自分の手や腕から延びるコードや管が、それらの機器に導かれているようだ。人体の神経組織のように複雑に絡み合う線を通じて、どうやら自分は機械に接続されているのだった。その血の通わぬ機械が自分の一部なのか、それとも自分が機械の一部なのかは良く判らないが、ひょっとしたら、この背中や腰の酷い痛みを機械たちは感じ取っているのかもしれない。もしくは、機械たちが被っている痛みを自分が感じているのだろうか? どちらが主で、どちらが従なのだろう?
(それにしても腰が痛い)
そこに見慣れぬ女の人が現れた。全身に白の衣装を纏ったその女性は、部屋のドアを開けて足早に近づいて来たかと思うと、例の機器類に目を通す。そして、手に持っていたバインダー上の書類に何かを書き込むと、次に縦横に走る管やコードのチェックを慣れた手付きで手際よく行った。
一通りの確認作業に満足したのか、ベッドに置いたバインダーを拾い上げた彼女が立ち去りかけた時だ。まるで誰かの視線に気付いたかのように、白衣の女性は動きを止めたのだった。
ゆっくりと頭を巡らせ、視線の主を捜す看護師。勿論、誰も居ない。だってここは相部屋ではないのだから。この患者以外には人など居る筈は無いのだから。窓の外か? いや、表通りに面した五階のこの部屋からは、春の訪れを告げる柔らかな街並みが見通せるだけだ。人が踏み出せるベランダすらも無い。
でも確かに、誰かがこちらを凝視している気がする。いったい何処から? そして彼女が最後の可能性として確認したのは ──当然、真っ先に確認すべきだったのは── 今、目の前のベッドで眠るこの・・・。
「!!!」
看護師は手にしていたバインダーを落とし、驚愕の表情を顔に張り付けた。その大きく見開かれた両目は、ベッドで眠る患者の顔に注がれたまま、そこから引き剥がすことが出来ないかのようだ。わなわなと震える口許を両手で押さえ、言葉にならない声を漏らしている。そして彼女は突然踵を返すと、脚をもつれさせながら部屋から飛び出していった。
「先生っ! 大変ですっ! 先生ーーーっ!」
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