第3話 3日目 三十路男、料理をする。

 タマネギは芽が出始めで、豆腐は賞味期限ギリギリ。

 冷凍庫にはカチンコチンになってしばらくたったらしい豚ロースがいくつかあった。

 ステーキかカツにするか悩むような極厚の豚ロースを、あえてハンバーグにする。

 フードプロセッサーなんて無くて、挽肉は用意がなかった。

 ハンバーグが作れる状況ではないのに、どうして私はハンバーグを作ろうとしたのだろうか?

『挽肉を自分で作る』なんて、今までしたことが無い事をやってみたかったのだろうと思う。

 お腹はペコペコで、もう一分だって余計な時間は使いたくなかった。

 だから後悔する前にパックされたカチンコチンの豚ロースにお湯をかけ、無理矢理解凍。

 その間にタマネギを刻んで、バターで火を通しておく。

 ステーキ並みの豚ロースをできるだけ細かく切って、包丁でたたく。

 包丁の刃が潰れるのではないかと心配になるけれども、砥石さえあれば包丁くらいは研げるから、刃が潰れても仕方あるまいと諦めて、ドンドコ肉を潰す。

 包丁は脂が乗ると途端になまくらになる。日本刀が何人も人を斬れないと言われるのはこういうことかと、おかしなことを納得した。

 まあまあ。包丁も日本刀も、メンテナンスあっての切れ味ですよ。と、誰にするでもないフォローを内心で呟いて、脂を落としながら肉を叩き続けた。

 豚ロースがすっかりミンチになったのは私が、何でこんな無駄なことをしているんだ?と二十回は考えた後のことだった。

 タマネギなど、とっくに粗方火が通ってすっかり冷えた頃合で、ボウルに収まっている。

 無駄に苦労して作り上げた荒い豚ミンチをボウルに入れて、賞味期限ギリギリの豆腐もいれて、さあこねようか。

 という時に、パン粉がないことに気が付いて絶望する。

 ミンチは荒い。

 水をキッチンペーパーに吸わせたとはいえ豆腐など混ぜてしまったなら、よもやタネは纏まらないのではあるまいか。

 ええい、仕方あるまい。ならば小麦粉だと小麦粉を探すけれど、小麦粉も切らしていた。

 てんぷら粉って繋ぎになる?卵を混ぜれば、くっつきますか?

 料理に対する根気はちょうど、豚ロースをミンチにするので使い切ってしまっていたので、三十路男の料理なんていうものは、行き当たりばったりこそ当然である。と居直って、ええいままよとネチネチネチネチ、タネを練る。

 荒いミンチは案外まとまりが良くて、どうにかハンバーグのタネらしい物が出来上がった。

 いい加減な大きさにタネをまとめて、フライパンで焼き始める。

 荒いミンチがあだとなり、火が通るほどにトゲトゲしい外見のハンバーグに変じて行く。

 こんなモノはハンバーグとは呼べない。

 いいや、これこそがハンバーグである。

 私の心中には全く相反する感情が湧いて出た。

 ソースとケチャップをフライパンに叩き込み、でたらめに煮込む。

 盛り付けも何も、気にするような出来栄えでは無かった。

 ご飯と、適当にぱぱっと作った野菜スープと、ハンバーグもどきを食べてみる。

 うん、まあ、食える。決して美味いとは言えないけれど、不味くはない。

 挽肉を買ってきたらまた作ってみようかと思うくらいには、料理という奴は案外新しい発見があって面白いものである。


 ハンバーグを作るなら挽肉は作るな、買え。

 パン粉も買っておこう。

 豆腐は多分、無くても大丈夫。

 挽肉、パン粉、豆腐は無くて問題ない。

 そう思っていると今度はきっと、タマネギを買い忘れるのだろう。

 けれど多分、それも面白いハンバーグになるに違いない。

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