第24話 遭難パーティの捜索⑧

 ゼークトが俺を捕まえると部屋の隅に引っ張っていく。

「あれはなんだ?」

「あれとは失礼だな。俺の雇人やといにんだよ。聞いただろ?」

うそをつくな」

「ひどいな。なんでそんなつまらない嘘をつく必要がある」

「それはそうだが……」

 てきぱきと料理を運んでいるティアナを見てゼークトは首をかしげている。

「俺も詳しくはないが、あの娘、そう簡単に手が出ないはずだぞ。お前、まさかと思うが後ろめたい金を使ったんじゃないだろうな。そういえば、こっち方面に偽金貨が流れてるという話だが……」

 俺はゼークトの肩に腕を回す。

「そんなものに手を出すわけないだろ。あの娘はまっとうな稼ぎで買った。招かれざる客だが仕方ない。話は飯を食いながらだ。来いよ」

 俺はテーブルの手前側に座って、ゼークトに向かいを指さす。

 向かって右の台所に近いところの椅子のわきにティアナが立った。

「いいから座れ。こいつには遠慮は不要だ。いつも通りでいい」

 ようやくティアナが遠慮がちに席に着く。

 俺は両手をこすり合わせた。

「腹ペコなんだ。食おうぜ」

 俺は湯気を上げている魚と野菜のスープをすくって飲んだ。

 ゼークトも料理を口にして目を見開く。

 驚け驚け。

 根菜を揚げたものや羊肉を庭の葉っぱで包み焼きにしたものも、いつも通りの味だ。

 がつがつとスープを食べ終わるとティアナがお代わりを運んでくれる。

 一息ついたのでゼークトに話しかけた。

「で、急に訪ねてきたのはどういう風の吹きまわしなんだ? 聖騎士ってのは忙しいんだろ?」

 羊肉を食べていたゼークトは飲み込むと言った。

「うむ。まあ、ちょっとこの先に使いにな。帰り道にお前のことを思い出して久しぶりに食事を一緒にどうかと寄ってみた」

「そいつはどうも。しかし国王ってのは豪勢だな。聖騎士に使い走りをさせるなんて」

「詳細は言えんが事情があるんだよ」

 すまなそうにしながらもゼークトは肝心なことは言わない。さすがは聖騎士様だ。

 まあ、ほいほい機密を話す騎士というのも困るけどな。

 俺はちょっとからかってやることにした。

「一触即発の神龍王相手じゃ、使い走りも聖騎士さまじゃないと務まらんだろうさ」

「!」

 こいつは性根がまっすぐすぎる。

 想像通りの反応が返ってきて俺はげらげら笑いだす。

「なんで、こんな田舎暮らしの盗賊風情がそんなことを、と驚いたか?」

「いや。別にそんなことはないが」

「まあ、俺のあてずっぽうだ。忘れてくれ。頼むから秘密を知られた以上は……なんて考えてくれるなよ」

 そうは言いながらも俺は全く心配はしていない。

 ゼークトは、俺のような弱い相手にやいばを向けるぐらいなら自分の首をはねるような人間だ。

 クソがつくほど正直で、曲がったことが大嫌い。

 昔、まだ駆け出しだった頃、しばらくパーティを組んでいた頃からそうだった。

 そんなこいつと俺が妙に気が合ったというのが面白い。

 俺に剣の稽古をつけてある程度は身を守れるようにしたのも、俺の愛用しているショートソードをくれたのもゼークトだ。

 腕を見込まれてゼークトが引き抜かれてパーティを抜けたのが十年前か。

 それからも細々とひそかな交流は続いていた。

 三年前には、王国の正規兵にならないかとも誘われ、俺が断っている。

 まあ、一点だけ、俺もゼークトに関して気に入らない点があるにはある。

 俺と違ってやたらと女にもてることだ。

 ゼークトを見てうっとりとしている女性を何度も見たことがある。

 俺は横目でティアナの様子を観察する。

 食事をしながら、俺やゼークトの皿が空かないか気を配っていた。

 気まずい話題を続けるのはやめて、一別以来のお互いの近況報告をしているうちに食事が終わる。

 ティアナは例の清涼感のある飲み物を出すと台所で洗い物を始めた。

 その後ろ姿を目で追っていたゼークトにくぎを刺す。

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