第23話 遭難パーティの捜索⑦

 ギルドの建物を出たとたんにティアナが俺の前に回り込んでくる。

 じいーっと俺の顔を見ていた。

「な、なんだよ。買い物して帰ろうぜ。腹減ったなあ」

「ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」

 今までにない迫力でティアナが俺に迫る。

「自分も体に毒を受けているのが分かっているのに、他の方に解毒薬を譲ったのって本当ですか?」

「いや、まあ、うん。仕方なくてな」

「無茶はしないって言ったのに」

「無事だったからいいだろ」

「よくないです。もし、ご主人様に何かあったら私は、私は……」

 ああ。失敗したな。

 確かに俺がくたばった後のことを考えたら心配だろう。そのどさくさで、誰かに売られるなんてよく聞く話だ。

「心配するな。今度出かける前には、ちゃんと俺に何かあったらティアナの生活が成り立つように書類を作っておくから。それでいいだろ?」

「よくないです」

 恨めしそうな顔で睨んでくる。普段はにこにこしているだけにちょっと怖い。

 なんとか宥め、買い物をして家に帰ったら、ティアナはエプロンをして食事の準備を始めた。

 お湯をもらってさっと全身を拭く。

 血のにおいが落ちたのでソファでくつろいだ。

 落ち着いたら少しは冷静になる。

 まあ、あの年齢で見知らぬ町で一人おっぽりだされても大変かもしれない。もうちょっと考えてやる必要があるかもしれないな。

 今まではあまり気にしてこなかったが、俺の商売は死と隣り合わせだ。

 ティアナも俺に依存しているというのは分かってるのだろう。

 しかし、俺もそれほど経済的に余裕があるわけじゃないし、下手に金だけを残しても悪い奴らに狙われるだけだろうしな。

 金と女、両方が手に入るとなれば悪い気を起こす奴もいるだろう。ましてやなかなかの可愛い子ちゃんだ。

 となると、誰か信頼できる相手にティアナを託さなけりゃならないが、そんな相手がいりゃ苦労はしねえよな。

 隣のオーディばばあはやたらとティアナを気に入ってるようだから、他にあてがなければ頼んでみるか。ただ人柄は信用できるかもしれんがティアナを守れるかどうかは怪しい。

 まてよ。

 俺の死んだ後のことよりもその前のことだ。

 やっぱり未練を残して死ぬのは嫌だし、さっさとティアナ抱いちまうか。

 本人も泣き叫んで抵抗するということはないだろう。

 よそでもご主人様はこうしてるんだ、と言えば諦めて大人しくなるかもしれない。

 俺は台所の方に首をじ曲げて、食事の支度をしている細っこい体を見る。

 まだ早いかと思いつつ、声をかけるとすっとんでやってきた。

 ソファの横に腰掛けるように言い、素早くティアナの腰の後ろに左手を潜らせる。

 右手を太ももに置こうとしたところに玄関の扉を力強くたたく音がした。

「おい。ハリス。いるんだろ? 俺だ。ゼークトだ」

 ちぇ。いいところだったのに。

 よりによって、一番会うのを避けている相手が訪ねてきやがった。


 ティアナが俺の顔をうかがう。

 今まで俺を訪ねる客なんていなかったので、どうすべきか判断ができないようだ。

 俺はため息をつくと体をひねって腕を引き抜く。

 抜きながらさりげなく尻をでてみたがやっぱりまだ硬い。

 勢いをつけて立ち上がると表に怒鳴る。

「ちょっと待ってろ」

 ティアナを振り返る。

「客の分も食事を用意できるか?」

「はい。たぶん大丈夫です」

「それじゃあ、支度をしてくれ。三人分な」

 俺は玄関の仕掛けを解除するとドアを開けた。

 目の前には真っ白な鎧を着た超絶ハンサムな男が立っている。背中に巨大な剣を背負っていた。

 亜麻色の髪に貴公子然とした風貌の男はにこりと笑う。

「久しぶりだな。ハリス」

「ああ。まあ、なんだ。中に入れよ」

「お邪魔する」

 中に入った鎧の男ゼークトは目を見張った。

「三年ぶりか。随分ときれいになったな。どういう心境の変化だ? それにいい匂いをさせてるじゃないか」

 そこへ台所から出てきたティアナがテーブルに料理を置くと一礼する。

「いらっしゃいませ」

 ゼークトはますます驚きの表情になった。

 並大抵のことじゃ驚かないゼークトが口を開けたままなことに満足する。

 ようやく衝撃から立ち直ったゼークトが名乗った。

「聖騎士のゼークトと申します。お見知りおきを」

 まるで貴婦人に対するかのように優雅な礼をしやがる。

 そうじゃなくても顔がいいのに、腕が立ち、そしてこの物腰だ。女に苦労したことがないというのもうなずける。

「ハリス様にお仕えしてますティアナです」

 ぴょこんと頭を下げると台所に引っ込んでいった。

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