第22話 遭難パーティの捜索⑥

 道々、本日の損得勘定をした。

 ジーナの借金は空手形になる可能性が高い。

 見捨てて、高級解毒薬を売っぱらった方がよかったか。売値の半額で銀貨四枚。まあ、その程度は回収できるはずなので俺の行動は正解かな。

 そんなことを考えつつ、神殿を出たところで、門の陰からティアナが顔を出し、いきなり俺に抱きついてきた。

「お帰りなさいませ」


 つやつやとした髪に光の加減でできた輪を見下ろす。

「ご主人様。大丈夫なのですか?」

 ぎゅうっと俺を抱きしめながらティアナは俺に問いかける。

「ちょっと毒にやられただけだ。もう治療してもらってなんともない」

「よかったです……」

「オーバーだな」

「でも、でも、買い物に出たら、ご主人様が猛毒にかかって重体だってうわさでした。神殿に行ったと聞いて、待っていたのですけどなかなか出てこられないので心配したんですよ」

「遅くなったのは俺が少し寝たせいだ。傷を受けてすぐに手前側を縛ったから、毒の回りも遅かったし、実際は命の危険はなかったんだよ」

「意識がなくなるほどひどかったんじゃないですか」

「夜通し働いて疲れてただけだ。ほら、人が見てるぞ」

 慌ててティアナは顔を上げ周囲を見渡す。

 離れるかと思ったが、またぎゅっとしがみついてきた。

「別にそんなの関係ありません」

 世間体もあるので、俺は奥の手を出すことにする。

「そういや、すごく腹減ったな」

 ティアナはぱっと離れると頭を下げる。

「そうですよね。すいません。夜通し仕事されていたのに、私ったら……」

「ギルドで報酬もらって、買い物して帰ろう」

「はい」

 神殿を背に歩いていくとティアナより年下の子供たちが蝋板ろうばんと鉄筆を手に三々五々歩いてくる。

 神殿付属の学校で文字を習う子供たちだ。

 気づけばティアナが立ち止まって子供たちに熱っぽい視線を送っている。

「どうかしたか?」

「なんでもありません」

 ギルドの表玄関は愁嘆場となっていた。

 先に入ったパーティが全滅したという話が伝わったらしい。

 ギルド長補佐がなだめようと必死だ。

 俺たちは脇の裏口から入る。

 ジョナサンが奥から出てくると、カウンターの上に銀貨を並べた。

 全部で八枚。もともと四枚の約束だったはずと手を出しかねていると、全員分の遺品を持ち帰ったボーナスと、三人組の報酬の一部ということだった。

「ところで、前衛なのに逃げ出すなんてとんでもない食わせ者でしたね」

 俺は思わず眉を上げる。

「その挙句に毒をくらって泡吹いて倒れてるなんて、いい恥さらしですよ」

「うん。まあ、そうだな」

 適当に返事をする。

 前衛たちがここにいないからというところか。

 通常は花形の前衛が逃げ出したなんて話をしたところで信用されない。

 盗賊風情のたわごととして片付けられるのが関の山で、下手をすればぎぬをおっかぶせられかねなかった。

 訴えたのが俺ではなくて、ジーナだというのも効果的だったのだろう。

 実際にはあまり使い物にならなくてもレベル四の魔法を使えるというのは聞こえはいい。

 ジョナサンは身を乗り出した。

「解毒薬を譲ったんだそうですね」

 俺は迂闊うかつなことは言えずに黙っている。

「私だったら、大金積まれても解毒薬を売るなんてしませんよ。自分の治療費が必要になるわけですし。まあ、女性に懇願されたっていうのもあるんでしょうけど、ハリスさんって本当に見かけによらず人がいいんですねえ」

 見かけによらずって、そんなにひどいか俺?

 俺は後ろからの圧力を強く感じる。

「じゃあ、俺はこの辺で。銀貨六枚はそちらに預けておくよ」

「はい。お預かりします。今回はベテランのハリスさんに頼んで助かりましたよ。またお願いしますね」

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