第21話 遭難パーティの捜索⑤

 朝日が昇る中、坂道をたったかと下っていく。

 野鳥が朝の挨拶を交わしていたが不意に現れた俺たちに驚いて飛び立った。

 ダンジョンの入り口が見えなくなったところまで行って初めて立ち止まる。

 まだ、荒い息をしていたジーナが言った。

「ど、どうして、こんなところまで」

「それは簡単なことさ。解毒薬は一個しかない。あいつらがいると面倒だろ」

 ジーナは顔を上げる。

 俺が背負い袋からフラスコを取り出すとそれをじっと見ていた。

 走ったせいか、かなり泡立っている。

 魔法士相手ならこの距離で俺がフラスコを力ずくで奪われる心配はない。

「さてと。あの三人組は任務放棄をしたので、こいつに対する権利は主張できない。で、この傷はあんたのせいってことでいいよな?」

 俺が手首の噛み傷を見せると、ジーナは首を縦に振った。

「じゃあ、俺がこれを飲むことに異論はなし。だろ?」

 俺がフラスコの栓を抜くと切羽詰まった声でジーナが呼びかけてくる。

「お願い。その薬を譲って。代金は払う」

「悪いが払えるとは思えないね。今この薬を飲めば助かるが、これを譲ればノルンまでたどり着かなきゃならない。その間に毒が全身に回るだろうし、間に合ったとしても瀕死ひんしの状態だ。当然、その状態での喜捨の額は銀貨じゃ済まない。まあ、金貨二枚は取られるだろうな。あんた持ってるのかい?」

 そこそこの魔法が使えるとはいえ、単一属性の攻撃魔法しか使えないともなれば、ふところ事情は俺と変わらないだろう。

 この地方で冷属性のみしか使えないとなれば俺より条件は悪いかもしれない。

 こんな実入りの悪い行方不明者の捜索に参加している時点でお察しだ。

 つまり、金貨二枚なんて持っているはずがないのだ。

「シー、じゃなかったスカウトの基礎訓練受けてるんだから、私より毒への耐性はあるはずよね。お願い。借用晶も出すから。先日見かけたんだけど、あなたはあんな可愛らしい奴隷も持ってるくらいなんだから、金貨二枚ぐらい払えるでしょう?」

 ジーナは腰に下げていた袋から小さな水晶を取り出した。


『ニワトリの年六月三日生まれの魔法士ジーナ。ここに約定する。利息年一割で金貨二枚の借用があるものなり』


 誓言すると唇を水晶に押し当てた。

 俺の手に半ば強引に、借金があることを証明する水晶を押しつける。

 仕方ないふうを装ってフラスコを渡してやった。

 ジーナは顔をしかめながら緑色の液体を飲み干す。

 前に経験があるが、あれは飲んだ翌日まで、青臭いげっぷが上がってくるひどい味の薬だ。

 俺は水晶をしまうと道をスタスタと歩き始める。

 ジーナは横にやってくると頭を下げた。

「恩に着るわ」

「やめとけ。その分の対価は払ってるだろ。それよりこれ持ってくれ」

 俺は矢筒やほかの遺品を投げて渡す。

 ふらふらになりながらもなんとかノルンの町にたどり着く。脂汗がつうっと頬を伝った。

「そんなに足元が弱っていて大丈夫なの? 顔色も悪い。私もついていこうか?」

「いや大丈夫だ。それよりも報告を頼む。ギルドも早く結果を知りたいだろう」

 断固としてジーナに遺品を持ってギルドに行かせ、俺は一人で神殿に直行した。


  ◇  ◇  ◇


 受付で友の会のあかしを見せると効果は抜群だった。

 そのまま奥まで連れていかれ、今までは見たこともない神官が対応してくれる。

 助手が俺のレザーアーマーを脱がせると、すぐに解毒の呪文を唱え始めた。

 いい気持ちになって俺は浅い眠りに落ちる。

「ご気分は?」

 その声で目が覚めた。

「ああ。悪くない。助かったよ」

「そうですか。お役に立てたようで何より」

 礼を言って神殿の出口に向かう。

 本当にタダだったよ。すげえな会員証。

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