第20話 遭難パーティの捜索④

 二人分の遺品を回収し油をかけて火をつけると同時にばらばらと天井から何かが降ってくる。

 無数の氷紋蛇ひょうもんへびだった。

「噛まれたっ」

「俺も」

 前衛組は悲鳴をあげると元来た通路に向かって走りだす。

 パニックになっていた。

 俺はショートソードとナイフで蛇の雨をしのぎながら出口へと向かう。

 小さな悲鳴があがりジーナが立ちすくんでいた。

 放ってもおけず、ナイフを肩のさやに納めるとジーナの手を引いて通路へと逃れる。

 安全な場所まで移動したのを確認したところで、立ち止まった。

 振り返るとフードが脱げたジーナは青白い顔で震えている。

 泣きそうな声で俺に訴えかけてきた。

「ろ、ローブの中に蛇が……」

「噛まれたのか?」

 ジーナはがくがくと首を縦に振る。

「まだ中でもぞもぞしてるの。取って……」

 先ほどまでの勝ち気な感じは影を潜めて、泣きそうな顔をしていた。

「ローブをめくりあげて取ればいいじゃねえか」

「む、無理よ。私、蛇は苦手なの」

 面倒くさいとは思ったが、腰ひもを解いてローブをまくり上げるように言う。

 意外とある胸の膨らみが薄物を押し上げているのが目に入った。

 ティアナもこれぐらいまで成長すりゃいいがな。場違いな思考が頭をよぎる。

 真っ白な薄物の下を青と緑の蛇がのたくっていた。

 薄物も大きくめくりあげると蛇の頭をぱっと捕まえて引きはがした。

 とれたぞ、と声をかけようとした俺のほおを強烈な平手打ちが襲う。

 思わず手が緩んで、抜け出した蛇は革手袋と鎧の隙間すきまに牙を立てた。

 チクリとした痛みに蛇を空中に放り投げ、肩に止めたナイフで抜き打ちざまに首をはねる。

「痛ってえな。何すんだよ」

 俺がジーナをにらむと青ざめた顔で謝った。

「ごめんなさい。反射的に……」

 俺たちはダンジョンの第二層で二人とも猛毒に侵された状態で前衛に置き去りにされてしまった。


「つい手が動いてしまったの……」

 ジーナはうつむいていた。

 まあ、確かにきつい顔に似合わない可愛かわいいレース付きの下着を見ちまったことは悪いとは思うが、不可抗力だろ。

「そうだよな。薬は一個しかねえんだ。ま、とりあえず、ダンジョンの外に出てから、その点は議論しようぜ」

 俺の言葉にジーナは顔を上げる。

「ここでぐだぐだ言ってる時間がもったいない。あの連中も大騒ぎしていったから、帰り道にモンスターを集めてるかもしれないしな。モンスターを見かけたら遠慮なく呪文をぶっ放してくれ。期待してるぜ」

「分かったわ」

 足の遅い前衛がいなくなったことで身軽になった俺たちは出口へと急ぐ。

 もうすぐ第一層への階段というところで、前衛三人組を追いかけている魔狼二体が見えた。

 さっき逃げた奴とその仲間か。

 金属鎧は速く走るのには向いていない。

 それでも必死になって逃げていた。

 ある意味賢明な判断かもしれない。あの腕前で下手に応戦すれば倒しきる前に他のモンスターがやってくる恐れがある。

 魔狼は跳躍して二体で一人にとびかかった。

 攻撃を受けている男はバランスを崩しながらも走り続けている。

 その間、俺たちはその距離を詰めていた。

 何度目かの体当たりで、三人組の誰かが転倒する。たぶんコンバだ。

 魔狼が少し離れて態勢を整えた。

 その足元を青く透明な光が包む。

 後ろを見ると走りながらジーナが杖を構えていた。

 対象物の表面を一時的に凍りつかせて、その上にいるものの身動きを封じる魔法チル。

 割と地味ではあるが魔狼を対象としないため、奴らの魔法抵抗は意味がない。

 とっさの判断力と走りながら呪文を唱えられる体力があるとは、ジーナはやっぱりそこそこ腕が立つのかもしれない。

 横を通り過ぎながらショートソードを引っこ抜き魔狼に一太刀ずつ浴びせていく。

 階段を上ったところでさらに一人、ダンジョンの出口に着く前にさらにもう一人を追い越した。

「ほら、あと少しだぞ。頑張れ」

 出口にたどり着いたところで、立ち止まろうとするジーナをき立てる。

「止まるな。あいつらから十分に離れるまでは」

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