第19話 遭難パーティの捜索③

 魔狼との戦闘は熾烈しれつなものになったが、からくも勝利する。

 素早い動きに翻弄された前衛三人も三対一で戦えばなんとかなったようだ。

 俺が狼狽ろうばいして逃げるふりをして一体を引き受けた甲斐かいがあったというもの。

 素早さが武器の魔狼にとっては、俺は相性の悪い相手だった。

 魔法で傷ついた一体が途中で逃げ出したのも大きい。

 俺は元は人間だった肉塊から指輪を回収する。

 肉塊にまとわりつく服装から神官と思われた。

 もう一体はすでに両手が無かったので魔狼の腹を裂いて指輪を回収する。

 多分、魔法士だろう。

 前衛連中は自分たちの仕事じゃないとそっぽを向いていたし、ジーナは壁に手をついてげえげえ吐いていたので、俺が一人で片付けた。

 持ってきた特製の油をかけて火をつける。

 短い間だが両手を合わせた。

 こんな姿は遺族には見せられないし、このままモンスターの餌になるのも気の毒だ。

 ネクロマンサーによって眷属けんぞくとして復活させられても困る。

 ダンジョン内での犠牲者は、遺品を回収して火葬する。そういう決まりだった。

 その炎に誘われたのかウッドゴーレムが現れる。

 一体なので俺は後ろに下がった。

 俺のショートソードじゃ堅い木の体にろくなダメージは与えられない。

 三人組の誰かは戦斧せんぷを使っていたのでそいつに任せた。

 ファイアボルトで火をつけりゃすぐに決着がつくのにと思いながら、前衛たちが時間をかけて倒すのを見学するしかない。

 役立たずという意味では俺も他人のことは言えなかった。

 その後、しばらく行ったところで喉をかき切られた弓手アーチャーを発見する。

 指は切り取られていたので、空の矢筒を回収した。

 さらに進んでいくと、左手に横道のある三叉路さんさろの壁のくぼみに焦げた宝箱と黒い血痕を見つける。

 不用意に開けて爆発したようだ。

 慌てていたのか中身の回収もしていない。

 箱としての形態をなんとか保っていたが俺が触れるとバラバラに崩れる。

 中には緑色の液体の入ったフラスコが一つだけ。

 強力解毒薬だった。

 どんな毒でも消せる便利な道具。店で買えば最低でも銀貨で八枚ぐらいはするだろう。

 第二層で手に入るものとしてはそこそこ高価なものだが、命の代償としては安い。

 これ見よがしなトラップに引っかかったところを横道から出てきたモンスターに襲われたと思われる。

 まとまって行動することもできず二手に分かれたというところか。

 その場所から血の点々と続く先を追っていくと、血痕は十字路で二つに分かれていた。

 先に右に曲がる通路に向かい、その先で床の上で動く何かを発見する。


 体つきのいいホブゴブリンがせっせと体を上下に動かしていた。

 その下に褐色の脚のようなものが見える。

 テッド、ゾーイ、コンバが駆け寄るとホブゴブリンは慌てて起き上がったが武器も手放した状態だったのであっさりと倒される。

 しかし、手遅れだった。汚れと異臭の中に横たわる女闘士のうつろな目は何も映してはいない。

 後始末をしようとする俺をジーナが押しとどめる。

 あごのラインが硬い。

「私がやる」

 死人は気にしないとは思ったが、俺は肩をすくめて、油壷あぶらつぼをジーナに渡した。

 前衛組と通路の両側で二人ずつ遺体を背にして警戒をする。


 十字路まで戻って、右に曲がった。

 最初の通路からすればまっすぐの道だ。

 通路を行くと広めの場所に出る。

 左手の方に金属鎧が光を反射するのが見えた。

 近づくと折り重なるように倒れている。

 鎧はゆがんでおりかぶとは見当たらない。二人とも赤紫色の皮膚をしており息はなかった。

「毒にやられたんだ!」

 三人組の誰かが言う。

 皆で周囲を見渡した。

 犠牲者は見た感じからすると何らかの毒にやられたようだ。

 もし猛毒なら面倒だな。猛毒は厄介なことに駆け出しの神官の低位の魔法では消せないものだ。

 すぐにどうこうということはないが、だいたい半日以内に治療しないと死ぬ。

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