第18話 遭難パーティの捜索②

 漂った緊迫感とは裏腹に勝負はあっさりついた。

 ガチガチによろいを着込んだテッド、ゾーイ、コンバの前衛たち。

 彼らの構えるラージシールドの堅陣を崩せず、六体いたゴブリンが一方的にやられていた。

 初心者パーティなら死人がでてもおかしくない相手だが、この程度なら苦もなく倒せる程度の腕はあるらしい。

 まあ、それなりに金のかかっていそうな装備に助けられている面もあるが、それも含めて実力だ。

 前衛の実力観察が終わったあとは、俺も二回ほど投げナイフでアシストする。

 早く戦闘を終わらせるためで、別に危険だったわけじゃない。

 赤毛の魔法士ジーナも魔法を使わずじまいだった。

 ジーナは前衛たち若造と俺の間ぐらいの年齢で、見るからに性格のきつそうな顔立ちをしている。

 鼻にそばかすの残る顔の中で、り上がり気味の両目はいつも油断なさそうに周囲を監視していた。

 冒険者としての経験もそこそこあり、中位の魔法も使えるという触れ込みだった。

 第一層をざっと見て回る。入り口から離れたところで鍵のかかったままの部屋や宝箱が見つかった。

 皆の要望もあり、大した手間ではないので、きっちり中身を回収する。

 銅貨が数枚と安物の指輪だ。

 さすがに二日間で誰かが宝箱の再利用をしたとも思えない。

 つまり、探しているパーティは第一層の探索をせずに第二層に下りたということだ。

 第二層への階段のところで一応協議する。

「ここで引き返すのもありだ。第二層に下りたのなら、探す相手はすでに全滅しているだろう。結構えぐいものを見ることになる。それに、普段は第四層にいるようなのが徘徊はいかいしている可能性もなくはない。俺は戦力としては期待できないからな」

「問題ねえよ」

 即答するゾーイ。

 俺のぼんやりとした不安は確信に変わる。

 こいつら、まだ第四層に下りたことはないな。

 第四層ともなればオーガやトロールなどの巨人もいるし、軍神バラスの偽物も出てくる。

 バラスを気取った偽物はフルプレートメイルにヒーターシールド装備で俺には傷つけるすべがない。剣の腕もゾーイの五人分ぐらいはあるはずだ。

「私はレベル四の魔法が使える」

 ぶっきらぼうにジーナが言った。

 余裕があるように装っていた三人組も驚いた表情をする。

 俺も口笛を吹いた。

「なら、問題はないな。いざとなりゃジーナさんの魔法でぶっ飛ばしてもらえばいい」

 階段を下りてしばらくすると、前方に魔狼まろうが三匹、何かに食らいついて食事中だった。

 第二層に巣くう奴らでは最上位のモンスターだ。

 鋭い爪と牙を持ち敏捷な動きで相手を翻弄ほんろうする。

 我らがパーティの動きのとろい前衛連中には荷が重いだろう。

「先制した方がいい。魔法を頼む」

 ジーナが木のつえをかざして呪文を唱え始める。

 魔狼がこちらに気づく前に詠唱が完了した。

 淡い光が集まりながら人の脚ほどの太さの氷柱の形をとる。

 青い光がはじけると物凄ものすごい勢いで飛んでいき魔狼の一体に突き刺さった。

 俺はうめき声をあげる。

「なんでアイスブレイクなんだよ」

 アイスブレイクはレベル四に分類される攻撃魔法だ。

 凶暴なトロールも一発で沈黙させることができる。

 単体しか標的にすることができないし、魔力の消費も割と多めだが、時と場合によっては非常に強力だ。

 第五層のモンスターにだって通用することもある。

 ただ、魔狼は冷属性の魔法に対しては強力な耐性を持っている。

 おおむね本来受けるダメージの九十%は軽減されてしまうはずだ。

 いくら強力な魔法といえども効果は期待できなかった。

「ファイアボルトでいいんだよ。あんたのレベルなら同時に複数狙えるだろ」

 俺の非難の声にジーナは唇をみしめる。そして、決定的な言葉を告げた。

「私が使える攻撃魔法は冷属性だけ。ファイアボルトは得意じゃないのよ」

 攻撃を受けた魔狼は次々と俺たちに向かって走ってくる。

 そのうちの一体の動きは鈍く、体表に赤いものが見えた。

 一応は効果があったようだ。

 前衛が迎撃態勢を取る。

 俺は力なくつぶやいた。

「なんてこった」

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