第17話 遭難パーティの捜索①
受付の兄ちゃんであるジョナサンが俺の姿を見ると歓迎するように出迎える。
「ハリスさん。いいところへ」
「どうした?」
「駆け出しのパーティが潜ってから丸一日になるんです。それで捜索隊を出そうということになったんですが、あいにくと人が出払っていて」
ダンジョンは浅いところから深いところに行くに従って、人間は実力が発揮できなくなる。
池や湖に入るようなものだ。ひざ下ぐらいの浅いところならそれほど地上と変わらないが、胸まで水につかった状態では動くのすら困難だ。完全に水の中に入った状態だと握ったものを振り回すことにも一苦労する。
ダンジョン内はそこまで極端ではないが、下の層に行けば行くほど人には厳しい環境となり動きが鈍くなってしまうのだ。
そして、浅いところに
モンスターの強さも層の深さにだいたい比例していた。
もちろんモンスターにも変わりものはいるので、プラスマイナス二層ぐらいの誤差はある。
新人はしばらくは第一層で探索するのが常識だった。
だが、過信から初見で第二層に挑もうとする馬鹿は後を絶たない。
ノルン近くのダンジョンの場合は、入って百歩ぐらいで下層への階段があるというのもよくなかった。
気軽に階層を下り、この世に別れを告げることになる。
段違いに強いはぐれもののモンスターと遭遇してか、複雑な罠にかかってか、死のあぎとは簡単に冒険者をとらえるのだ。
単に道に迷っているという可能性もあるが、丸一日も出てこないとなると可能性はかなり低い。
そこそこの報酬につられて捜索隊に志願したが、一度家に帰って準備をした後に引き合わされた
新人に毛が生えた程度の三人の前衛と、魔法士に俺。
回復や治療を行えるメンバーがいない。
ないよりはまし程度の回復薬を持たされて俺たちはダンジョンに挑むことになった。
◇ ◇ ◇
ノルンの町から半日ほどドーラス山の
入った途端、久しぶりの冷気が俺を包む。
しかし、以前に比べればそれほど体にこたえなかった。
ティアナが不器用なりに、俺の防寒着の裏打ちを直したり、サイズを調整したりしてくれたお陰だ。
なぜか特に下着が暖かい。ちょっと縫い目が肌にチクチクするが。
ぶ厚く着込めば寒さはしのげるが、そのせいで
そのあたりのバランスを取る必要がある。
かさ張らない程度に保温できる服装にはまさに俺の命がかかっていた。
その服装に手を加えた人物がまぶたに浮かぶ。
ちゃんとティアナは留守番をしているだろうか。
出がけにはまるで今生の別れかのようにティアナは取り乱していた。
「そんなに心配するな」
「でも、ダンジョンは危ないところだと……」
「ああ。だから、無茶はしない」
両手を胸の前で組み合わせ心配そうに俺を見つめるティアナに我慢できなくなっておでこにキスをした。
本当は唇を重ねてもよかったのだが、そうなると、こんなあっさりしたキスで終わるはずもない。
舌を絡めたり、歯をなぞったりしているうちに、押し倒すことになっただろうことは賭けてもいい。
見る見るうちに真っ赤になって顔を隠したティアナに背を向けて、俺は渋々ギルドまで出かけたのだった。
あの態度からすると、この程度のスキンシップなら嫌ではないということなのだろうか。
それとも突然のことで嫌悪感よりも、驚きと羞恥心の方が
唇に残った感触を思い出して、そろそろいいかな……そんな能天気な想像にふける。
そこへ緊張した声が響いた。
「ゴブリンだ!」
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