第16話 変化する生活⑧

 ティアナとの生活がひと月に及んだ。

 相変わらず細いままだが、神官のエイリアが言っていたように肌の色つやはすっかり良くなった。

 頬の傷もかなり薄くなっている。

 ティアナは寝つきが良く、眠ると少々触ったぐらいでは目を覚まさない。

 こっそりとふくらはぎを撫でると、しっとりと吸いつくような感触でゾクゾクした。

 ただ、相変わらず胸はぺったんこだし、お尻も未熟なリンゴのように硬い。

 十四という年齢の割には体の成熟が遅かった。

 世間的には早ければもう子供を産むぐらいの年齢なので、抱けなくはないとは思う。

 ただ、あまり好ましくない結果になるのも明らかだった。

 俺には女を傷つけて喜ぶ趣味はない。

 今無理強いしたら、ひどい裂傷を負わせることになるかもしれなかった。

 ひと月我慢をしたのにここで焦っては無駄になる。

 最終的には体を重ねることになるのだとしても、急ぐ必要はない。

 それに我ながらこんな風に感じるようになるとは意外だったが、ティアナから寄せられる信頼も失いたくないと思う自分がいた。

 このひと月の間で、この町における俺の立場は以前とは比べ物にならないほど良くなっている。

 ティアナが俺がいかに素晴らしい主人であるか、あちこちで吹聴しまくっているせいだ。

 他の家の奴隷たちからひそかに嫉妬しっとをかっているという話も聞こえている。

 先日、店で出会った他家の奴隷とこんな会話をしていたのも立ち聞きしていた。

「本当は家の中ではひどい目にあってるんでしょ。誰にも言わないから正直に言っちゃいなさいよ」

「そんなことはないです」

「どうせ、実は服で隠れた場所を殴られたり、むちで打たれたり、体をべたべた触られたりしてるんでしょう?」

「そうですね。針仕事を終えるとよく手を撫でてくださります。針を刺して血がにじんでる手を見て、気遣ってくださるんですよ」

 微妙に会話がみ合ってない。

 よその奴隷たちがどのような扱いを受けているかを聞いて、ますます俺への信頼を確かなものにしているようだ。

 あまりよその乱行を吹き込まれてもと危惧したが、将来の楽しみのために、俺がまだ手を出していないだけだということを全く気がついていない様子だった。

 シーフという職業はせっかちだとやっていけない。

 ダンジョンで慎重さを欠いたらすぐ死が牙をむく。

 だから、確実に罠を解除できたと確信が持てないときはどんなに非難されても俺は鍵開けを拒否した。

 臆病者のぐずだと同業者の中で言われているのも知っている。

 だから、気長に待つことには慣れているし、ティアナとの関係は破綻せずに良好なままで続けられていた。

 ティアナはよく働くし、家での生活は格段に快適になってもいて、その点はまったく不満はない。

 だが、いつまでも家でぶらぶらはしていられなくなった。

 そのことに今まで気づかなかったのは不覚の極みだが、ティアナがいることで生活費が余計にかかるようになっていたのだ。

 栄養をつけさせようと食材に金をかけすぎていたのかもしれない。

 ティアナは言いつけ通りによく働き、よく食べる。

 以前、肌にいいという果物をもらったが、同じものを時々買ってやったことも一因だろう。

 そのポンムという果物は厚めの皮をむくと白い綿毛のような繊維の中に小さな赤いつぶつぶの塊が入っていた。

 つぶつぶの中には果肉に比べて大きめの種が入っている。あまり甘みはなくて酸味が強い。

 食いでのない果物で俺の趣味には合わないものだったが、ティアナは喜んで食べていた。

 あまり期待をせずにギルドに仕事がないか聞くために顔を出す。

 なければ、一人でダンジョンに潜るつもりだった。

 安全なところをさっと巡るだけでも二、三日食いつなぐくらいの小銭は稼げるはずだ。

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