第13話 変化する生活⑤

「まあ、その話は明日だな。とりあえず、色々と働いてそのままでは気持ちが悪いだろう。そうだ。今夜は俺の服を着て寝るといい。少々大きいが、そのままの格好で寝るよりは不愉快じゃないはずだ。お前がきれいに洗ってくれたしな」

 なんだかんだ言っていたが、やはり汚れたままの服は嫌だったのだろう。

 洗濯をして畳んである俺の服から一枚とっていった。


 俺がもう一杯ゆっくりとやって戸締まりをしている間に、台所でごそごそやっていたティアナがこざっぱりとした姿で戻ってくる。

 俺が貸した貫頭衣かんとういは大きすぎて浮き出た鎖骨があらわになってしまっていた。

 突き出た手足の細さも目につく。

 酒のせいで燃え上がりかけた欲望が冷水を浴びせられたように消えていった。

 俺はティアナを寝室に誘導する。

 遠慮していたティアナがベッドの端に横になるので、毛布をかけてやってランプを消した。

「夜は結構冷え込むからかけておいた方がいい」

「それではご主人様の分が」

 慌てて自分から毛布をぎ取ろうとするのを押しとどめる。

「俺は鍛えてるから大丈夫だ。この町の近くのダンジョンは常に冷気が漂っているんだよ。家の中にいて寒がっているようじゃ探索なんてできないのさ。それにお前は痩せてガリガリだろ」

「でも……それでは申し訳ありません」

「いいから気にするな」

 ティアナは薄闇の中でしばらくじっとしていたが、上半身を起こす。

「それでは一緒に毛布をかけてください」

「は?」

不躾ぶしつけなお願いですが、ご主人様に甘えさせてもらえますか。やっぱりちょっと寒いのでそばにいてほしいです」

 俺がティアナの表情を確かめようと目を凝らすと、遠慮がちに聞いてくる。

「だめですか?」

「……分かった」

 俺は毛布の中に体を滑り込ませる。

「端にいないでこっちに体を寄せろ」

 もぞもぞと動いてきたティアナが体をくっつけた。

 想像以上に冷たい体に声が出そうになる。

「お前、なんでお湯で体を拭かなかった?」

「かまどの火を落とした後でしたので」

「いいか。明日からはちゃんとお湯を使え。こんなに冷たくなって病気になったらどうするんだ」

「すいません」

 俺はティアナを抱き寄せる。

 筋張って、骨と皮だけの体は細かく震えていた。

 俺の熱を移すようにそっと抱きしめてやる。

「あの、その……」

「なんだ?」

「骨ばっててすいません」

「謝ることはないだろう」

「私の体、ごつごつしていて痛くありませんか?」

「まあな。スケルトンを抱きしめてる気分だ」

 俺の出来の悪い駄口にティアナはくすっと笑う。

「ご主人様はそんなことをしたことがあるのですか?」

「ものの例えだ」

「はい。笑ったりしてすいません。でも、やっぱりそうですよね。私は骨と皮ばかりですから……」

「気にしているなら、ちゃんと食事をして肉をつければいい」

 少しずつ、ティアナの体が温まっていき、同時にこわばりがほどけていく。

 小さくあくびをした気配がした。

「それとよく寝ることだ。しゃべってないで寝ろ」

「はい」

 しばらく大人しくしていたティアナだったが、そっと俺の手を両手で握る。

「私はご主人様に会えて幸せです。言いつけを守って体を丈夫にしますから」

 だから、なんだというんだ?

 その続きを待っていると、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 俺は失笑を漏らすと目を閉じる。

 なかなか寝つけないかと思ったがあっさりと眠りに落ちた。

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