第9話 変化する生活①

 俺は一体目が大きく剣を振りかぶったところにショートソードをさっと引きぬく。

 同時に踏み込んで肘から先を斬り飛ばした。

 俺の剣は、見た目はぼろいがかなりの強化済み、しかも『俊敏』の加護つきだ。

 二体目が一体目の体が邪魔でまごついているところに、半身で突きを繰り出して、喉を貫く。熱い血潮をぶちまけながら絶命するそいつは無視して、一体目の肩から斬り下げてとどめを刺した。

 三体目は俺の腕に恐れをなしたのか腰が引けていた。すっかりしぼんでいる。

 構えた剣をはじき、返す動きで首をはねとばす。

 まだ、ぴくぴくしている死体から金目のものをあさった。

 ダンジョン第一層に生息するモンスターなので期待はしてなかったが、小ぶりのサファイアをつけた金のイヤリングが出てくる。買えば銀貨五枚はしそうだ。

 数枚の銅貨と小銅貨とは別にふところにしまう。

 腰が抜けて座り込んでいるティアナを助け起こしてやった。

「あ、あの。戦いは得意じゃないって……」

「さすがにあの程度のモンスターを相手にできないと冒険者やってられないぞ」

「そうなんですね。私、もうだめかと思いました」

「心配させて悪かったな」

 いえ、私がおっちょこちょいで、と恥ずかしがりながらティアナはまぶしそうに俺の顔を見上げた。


  ◇  ◇  ◇


 翌日の早朝、高くそびえるドーラス山に抱かれるようにたたずむノルンの町に着く。

 川から水を引き入れた堀が巡らせてあり、石積みの壁が町を囲んでいた。

 門を抜け、斜面に沿った通りを上っていく。

 長いあいだ留守にしていた家はほこりっぽい。

 換気のために窓や裏の戸を開け放つと、俺はティアナに家で大人しくしているよう言いつけギルドに出かけていった。

 マルク商会発行の証明書を見せて、ダンジョンの第五層レベルの品を持ち込んだことを記録してもらう。俺にとってみれば、第五層レベルの宝箱の開錠はそれほど難しいことではない。

 それでも実績は実績。

 腕がびつきやすいと見られている開錠の技術が直近まで使い物になったという証明は大切だ。

 ついでに、昨日切り取ったオークの耳もカウンターに出す。

 カウンターの兄ちゃんは驚いていた。

 町の周辺の掃除はごくわずかな報償金が出るだけなので、基本的に戦闘職ではないということもあり、俺は今までそういうあまり金にならないことはやってこなかった。

 その後、ボックおやじの店に寄って、昨日のイヤリングを見せる。

 留め金の修理代が銅貨三枚と言われた。

 ほぼ俺の見立て通り、銀貨六枚の価値があるというので直すように頼むと、他の仕事があるので引き渡しは明日以降になるという。

 それから、行きつけの飲み屋のツケを払って家に戻った。


 たいして時間がかかったわけじゃないはずだが、帰宅してみると家はすっかり様変わりをしていた。

 テーブルにはクロスがかけられて、どこから引っ張り出したのか分からない花瓶には花が活けてある。

 埃だらけだった戸棚もピカピカになっていた。

 台所からはいい匂いが漂ってきている。

 裏手に回ると井戸のところでたらいに水を張ってティアナがじゃぶじゃぶと洗い物をしていた。

 着たあとに部屋の隅に放り投げてあったチュニックやズボンが物干しで風にそよいでいる。

 俺の姿に気がつくと、ティアナが勢いよく立ち上がった。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 俺の様子を不安そうに見ていたが、おずおずと切り出す。

「何か、ご不満なことでもありますか?」

「いや、びっくりしただけだ」

「よかった」

 安心して胸をでおろしていたティアナはハッという顔をした。

「そうだ。すいません。お腹空いてますよね。お帰りまでに食事の支度をしておこうと思ったのに」

 ぱたぱたと裏口から台所に入っていく。

「ご主人様。ありあわせのものですが、食事の支度ができましたのでお席にどうぞ」

 ティアナはまめまめしく俺の世話を焼く。

 椅子を引いて俺を座らせると木のボウルに何かをよそって持ってきた。

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