【EP3】26 ケース1【ゴーストライター】



ピーヒャララー ドンドン ガシャガシャ


笛の音 太鼓の音 揺れる神輿 ……


あの日から、半年が過ぎた。

あっ、あの日ってのは、毘沙ちゃんから依頼を受けて学校でのドタバタがあってからって意味ね。

暇を愛する僕だけれど、その半年間は暇とは無縁な忙しい日々で。

例えば──


↑↓




ケース1【ゴーストライター】


──不意に、部屋の窓から甘い香りが流れ込んで来た時があって。


その次の日、からだろうか。

俺が住む古いアパートで、毎晩『怪現象』が起き始めた。

部屋を暗くし、寝ている時に限って始まる『異音』。

ふすまの中から、

カリカリカリ……

最初、それはネズミが壁なり餌なりを齧ってる音かと思っていた。

が、よく耳を澄ませると、『ペンを走らせてる』音だと判明して……

翌朝、意を決しふすまの中(上の段)を調べると、失くしてたと思われたボールペンと、

『壁に文字』が書き込まれているのを発見して。

コレは……小説?

不気味だったが、妙に興味を唆られ、スマホのライトで照らして読む。


……、……、……、……


「こ、これはーー『名作』だ」

「ほんとぉ!?」

「うわっ!」


思わずのけぞってふすまから落ち、尻餅をつく俺。

い、今の声は……?


「わっ! びっくりさせちゃってごめんね! てか、私の声、聞こえてるっ?」


少女が居た。

白いワンピースの美少女。

しかし……彼女は『浮いていた』。

物理的に。


「ゆ、幽霊?」

「えへへ……まぁ、そんな存在です」


話を聞くに。

彼女はこのアパートに縛られた『地縛霊』というやつで。

今まで物理干渉は不可能だったらしいが、最近になって急に力? が上がったらしく……


「試しに、中にあったボールペンに触れたら持ててねっ。だからこーして文章を書いて見たのっ」

「……お前は、作家の幽霊、とかなのか?」

「んー、まぁそれはいいじゃない。でっ、それよりっ、この物語、どこが良かった!?」

「……まだちょっとしか読んでないから判断出来ない。意見が欲しけりゃ次の話でも書いててくれ」


そうして始まる奇妙な関係。


俺が机の上にルーズリーフを置いとくと、次の日には物語で埋まっていて。

やはりそれは、見た事も無いような名作。

感想を言ってやると、幽霊少女はえらく喜んでくれた。

そんな、創作の熱に影響されてしまったからか。

俺も、気付けば久しぶりに『描いて』いた。


「わっ! 何このイラスト! うまーい! もしかしてプロ!?」

「……別に。少し齧ってただけだよ」

「てかこれっ、私が書いた物語の子達!?」

「……まぁな」


もう筆は折ったはずなのに。

俺は、表現せずには居られなかった。

そして、一度始めてしまうと、終わり時を見失ってしまって……


──気付けば、二人で『漫画』を描く流れに。


出来た漫画を、最近流行の漫画投稿WEBサイトに載せると、すぐに大反響。

名前を隠していたが、俺の絵柄で気付き、『昔使っていたペンネーム』を口にする者もチラホラいて……

それでも、俺らは何も応えず淡々と漫画だけを上げていった。

そんなある日の事──


「すっごーい! 出版社からオファー来るなんて!」


コイツと出会ってからもう三ヶ月。

話はトントン拍子に進んでいった。

本当に現金な業界だ。

ウンザリしていた筈だったのに。


俺の中で、コイツの物語をもっと世に広めたい、そんな思いが湧いていた。


「あはは、なんだか、成し遂げた気分だよっ」

「……何言ってんだ。燃え尽き症候群ってやつか? これから、だろ?」


満足げな彼女の言葉に、何故か、焦った気分になる。


「そうだね。そう……」


──え?


「お、おい! お前! 身体が!」


「えっ? あ……透けてきて……、……ふふ。時間みたい、だね」


「おまっ、なにをっ……!」


落ち着いてるんだ。

なんで、そんなに納得した風なんだ。


「もしかしたら私は、この日の為に、貴方の前に現れたのかもね」


やめろ。

一人で結論付けないでくれ。


「ま、待てよ! これからだって言ったろ! 漫画、どうすんだよ!」


違う。

漫画なんて、どうでもいい。

こんな事を言いたいんじゃ無い。


「大丈夫。君はもう、一人でやっていける」


一人で? また、一人になるのか?

何も伝えてないのに。

これから、なのに。


「思い返せば、君は幽霊の私を見ても驚いたのは最初だけで、後は普通の人間として……作家として扱ってくれたね。作品の事で泣かされたり、ぶつかったりな喧嘩したりな日々は……本当に楽しかった」


思い出のように語るな。


「断言出来るよ。生きてた頃より、幽霊になってた時が一番楽しかった」


お前が生者だろうが死者だろうがどっちでもいいんだ。

「ッ!」

「あ。アハハ……中々消えなくてしぶとかったけど、もう殆どスケスケだ、色気なんて無いけど。……本当、奇跡のような毎日だった。そうだね。次の物語は、この日々を題材に描きなよ。十分、ネタになるよ。タイトルは──【ゴーストライター】とかさ」


お前が居なきゃ、俺は……


「ま、待ってくれ……」


手を伸ばす。

しかし、それはやはり、無情にも擦り抜ける。

なんでだ。

ペンとかは持てるくせに、肝心の部分だけ適当で。


「……最後なのに、心残りを思い出させないでよ。私も……貴方と、一度でいいから──」


俺の手を包む彼女。

感触は、やっぱり……。


「誰か」


神でも悪魔でもいい、代償は何でも払う、だから、もう一度奇跡を──


「誰か、助けてくれ」


「(ガチャ)失礼しまーす。えーっと──君達が元天才高校生漫画家と、早死に女子高生作家のコンビ、でいいかな?」


──は?


「ふむ。どっちが『能力者』だろうね? どっちもかな? 果たして、どんな力で現状へと至ったのか……」

「多分、男の方が『因果操作』的なの持ってんじゃ無いの。今一番自分に都合が良い展開を呼び寄せる、的な」

「な、なんと羨ましい……」

「なら幽霊少女も僕らも、まんまと引き寄せられたってこったな! --で、青年! 君は今、『何をして欲しい』?」


急に、ヒトんちに入って来た少女三人組。

まともじゃない。

何故か俺らの事情も知ってるっぽいし……

普通なら、不法侵入で警察案件だ。

しかし……その『まともとはかけ離れた空気』が、今、求めていた存在だった。


「た、助けてくれ……」

「オーケー。なら、カモン【ボブ】!」

「(ヌッ)前フリが長いゾ」


更に後ろから現れたのは褐色の外人。


「彼はシャーマンでね。能力もその職業に見合った『降霊(トランス)』となっている。全て、彼が上手くやってくれるよ。後はお願いね、ボブ」

「ッタク……人遣いが粗い坊ちゃんダゼ」


外人に託し、さっさと部屋を出て行く少女達。


「──サテ」


ボブと呼ばれた外人は、こちらを見て、


「オマエラは運がイイ。いや、悪いのカモしれないガ……兎にカク。『願いはカナウ』」


言って、男は笑った。

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