第4話

   

 前を歩く二人が言葉を交わす間、後ろの玲子は、だんだん表情が険しくなっていく。

 正直なところ、寒さ自体は外よりもマシだと思った。忠代の「霊気かな?」を否定したのは、本心ではなく一種のポーズ。トンネル内部に足を踏み入れた途端、玲子は霊の存在を感じていたのだ。

 ただし悪霊ではなく、学校にもいるような良い霊たちばかり。

 暗いトンネルの中、懐中電灯の光を向けても、黒い影のような彼らはわかりにくいが、かろうじて玲子の目には見えていた。

 怯えたように壁際に身を寄せている。おそらく、人間が入ってきたのを嫌がっているのだろう。

 そう判断すると同時に、玲子は小さな違和感も覚えていた。

 何かが少し違う。具体的には説明できないけれど、どうも怯え方が妙なのだ。

 霊感のある自分にもわからない以上、見えない友人たちに話しても怖がらせるだけ。この件は自分の胸にしまっておこう、と玲子は決心するのだった。


 そんな玲子の気持ちも知らず、廃トンネル探検の発案者である忠代は、楽しそうに話をしている。

「このトンネルが心霊スポットなのは、ちょっとした逸話があるからなの」

「ただちゃん、それ、怖い話じゃないよね?」

「トンネル工事中に、関係者がたくさん事故で死んで……」

「やっぱり怖い話じゃないの!」

 心霊スポットの逸話ならば、人が死ぬ話くらいは当然であり、絹恵の反応は大袈裟だ。後ろで聞いていて、玲子はそう思う。

「でもトンネル事故といっても、生き埋めじゃなくてね。部分的に崩れて閉じ込められたけど、死因は窒息じゃなくて凍死だって。昔から寒かったのね、ここのトンネル」

「最終的な死因はどうあれ、トンネルが崩れて死んだなら、生き埋めってことになるんじゃない?」

「いやいや、この話のポイントは『凍死』ってところなのよ。なにしろ、その後そいつらの霊が出るのは、寒い冬ばかり。冬になる度にトンネル利用者が亡くなって、だからこのトンネルは閉鎖された、って話なんだから」

「ちょっと、ただちゃん! よりによって、そんな場所に冬に来たの!?」

「そうそう。この逸話があるからこそ、夏じゃ意味ないわけで……」

   

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