あちらへ戻る術

 あの無法者事件後、皆が私を少し敬うようになったとは言え相変わらずおかしいと変人扱いを受けてもいる。


(スマホの音)


 あれが鳴り出した。私は迷わず緑を押した。やはり光る肖像画はモナの笑顔である。

『もしもし!イアンさん?』

「ああ 私だ。」

『良かった。戻れる条件を聞きました、時間ないんで一方的に言いますっ。モナを守って、』

「それは先日」

『黙って聞いてーっ』

『モナから口づけをしてもらうこと。あ!!条件だからと言ってはだめです!分かりますか?条件だとは明かしては駄目だと……えーっと。で 出来ますか……?』

「ん……モナから?こちらから奪ってはだめか?」

『駄目です。あ 駄目だとクアンセ術師が言ってます。あの……』


 プープープー


 切れてしまった……。口づけをして貰えればもとに戻る。と言う事はあちらの目標は達成したのか?まさか、国を乗っ取られたりしてはいないか?!急がなければ。

 それにしてもヒロの声は酷く不安げであった。やはりあちらで何かあったのだろうか……。



 朝の道で私は直ぐにモナに懇願する他無い。


「おはよう ヒロ」

 あの事件依頼すっかり溝は無くなり朝のエスコートに駅までは手を躊躇わず組むようになった。

 その美しいモナを見つめて私は足を止めた。


「モナ」

「どうしたの?」

「私に口づけをして欲しい」

「……え」

 頬に紅を差したように色づけたモナは私から視線を逸らす。恥ずかしさからだろうか、しかし条件であると言ってはならない。

 言えば無効なら言ってはならない。


「いや、無理にとは言わない。モナがしたくなったらして欲しい」

「……な なんで?」

「理由……それは君が愛しいからだ」

「…………」


 言葉を発しなくなったモナと静かに私は学園へと向かった。そうか、愛の言葉を囁いても、ならば今して差し上げますわとはならないらしい……やはり奥ゆかしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る