本物のヒロから

 何とか怪しまれずに切り抜けたようだ。

 だが、帰るのではなくモナはあの淫らな短いスカートからズボンに替え庭園ではなく、競技場のような場所を走り続けている。

 美しい……。風を切り一つに束ねた髪をなびかせまるで馬で駆けるセレナを思い出す。

 セレナ……。


「わっモナちゃん見すぎだろ?キモ。幼馴染だからって付きまとって許されるなんていいよなぁ」

「誰だ?」

「は?」

 その男は白い衣に身を包み木の剣を二本持っている。まさか私を殺めに来たのか。


「一本かしたまえ」

「は?」

 不機嫌そうに一本の剣を差し出した。ははあなんと間抜けだ。この私に剣を渡すとは。

 覚悟!


 バンバンバンバーン


 瞬く間にそいつは私の剣に平伏した。まいったか。国の危機に備え私も最前線にたとうと鍛錬を怠った日はない。


「……痛い」

「わあ お前何したんだよ!!」

「僕達見てました!先輩 是非剣道部に入ってください」


 いつの間にか人が集まる。私はひとまず退散しよう。来た道を戻れば良いんだ。大丈夫道は……覚えていない。

 学園を出たあたりでモナを待つとしよう。

 とにかく今日は屋敷へ戻りオカン様という母上に謝罪と感謝を伝えなければ。


「じゃあね〜また明日」「バイバイ」

「モナ」

「ぎゃっ」

「ああ すまないね。驚かしたかな」

「待ってたの?」

「道にやはり自信が無くて」

「……ね 本気?本気で言ってるの?本気なら病院行きだよヒロ いいかげんに 普通に戻ってよ!朝からもう十時間近くやってるよ……それ」


 モナは真剣な目を私に向ける。そんなに見つめて言われると照れくさいが、私は何も嘘などついていない。


「まずは来た道を戻りたいのだが」

「……はいはいっ分かりましたよ 王子様」


 王子?!モナはやはり私を王子だと……やはりモナは分かっていないだけでセレナなのでは無いか?


 そうだ本来のこの人物、ヒロという青年はどうなったのだろうか。私がこうなった事により彼はどこへ?消えたのだろうか……肉体だけを残して?


「何考えてるの?」

 ああまたそうやって愛らしい顔で私を覗くのだな。

「何でも無い。君があまりにも可愛く、君が私の愛した人に似ている気がしたのだ」

「…………?」



 モナを見送り、私はあの小さな屋敷へ戻った。

「只今帰りました」

「ああ おかえりなさい」

 厨房で背を向けた母上に勇気を持って声をかける。謝罪と感謝は絶対だ。

「オカン様 今朝は大変失礼をいたしました。お昼の食事も感謝しております。」

「……?」

「……?!」

「どうしたの お兄ちゃん」

「まさか、私の妹……?妹だというのか」

「……まじだわ。まじでやべぇ。母さん ねっ母さん」

「知ってる。後3日続いたら病院連れていきましょ」

「だね」


 自室へと戻り、この部屋に置かれたありとあらゆる書物に目を通す。しかし、ここにある本は大半が絵であった。四角い小さな枠組みが繋がりその中に絵が……なんだこの乳房の大きな少女達は……。


 その時、黒い線に繋げられた四角い小さな物体が光り音を奏でる。今朝鳴り響いていたあれだ。

 緑のボタンと赤いボタン。どちらかを押せということか……私は情熱の赤を選んだ。


 ん?何も起こらない。やはり赤は正解であったようだ。


 まただ!また鳴り響く。

 今度は緑……いや私は情熱の……仕方がない緑を。


『もしもし!誰ですか?もしかしてイアン王太子さんすか?!』


「なに!声がするのはここか!声の者どうしてこの中に入ったのだ?!」


『あ、繋がった。時間がない!俺は魔術師のク クあーわなんちゃらに監禁されてる。イアン王太子のフリをさせられて復讐させるなとかさせろとかー!とりあえず戻ってきてー!』


「どうやって戻る?どうやって戻れるのだ、おい」


『俺はヒロ と とりあえず絶対に正体をそっちで明かすなとここの人がいってま あーっ』


「おい!大丈夫か ヒロ!ヒロ!聞こえるか 私の声が!ヒローーー」

 プープープー


「お兄ちゃん……な 何してるの?」

 私の大きな声に驚いた妹が立っていた。


 静かになった機械にもう一度触れてみた。

 そこからはもうヒロの声はしないが、一枚の肖像画が浮かび上がった。かなり高精度な絵だ。

 それは笑うモナの絵であった。

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