ここは学園か

「モナ、ここは何という国だ?」

 モナの愛らしい姿に気を許し私はこんな質問をしてしまった。やはり驚いた様子の彼女はパチパチ瞬きをする。

「日本」

 ニホン?二本の何だ?全くもって短く意味をなさない。とりあえず私は目に入るもの全てが物珍しく見渡しながらもモナについて歩き、巨大な建物の前へと着いた。


 ピーーーーッ


 まただ、またここでも機械音が。しかし此度は私の行く手を阻むバリケードが飛び出てきたではないか。用心しなければ、おそらくここは軍事国家、最新の兵器を持つ国だ。


「ヒロ 定期は?ちょっとっ」


 モナは呆れた様子で私の鞄から何やら小さなものを取り出し、バリケードにかざしたのだった。

 もしや、モナは魔力を持つのだろうか……。


 さらに馬よりも速い鉄の塊の中へ詰め込まれた我々はまた、バリケードを超えさらに巨大な建物、これは城?ではないようだ。殺風景な壁のような佇まいである。


 同じ服を着た者が同じ方へと進む。

「モナ、ここが学園か?」

「ねえ、その貴族みたいなごっこまだやるのぉ?めんどくさっ」

「私は紛れもなく貴族だが、いや貴族どころか一国を担うであろう……」

「はあ。おはようございます。先生」

 先生?このペラペラの服を着た男が先生?つまり教師か。

「おはようございます」


 さらに靴を履き替えるよう言われ、階段を上がる。

 2-3

 と書かれた部屋へモナについて入った。

 ここはモナの隣に居よう。


「ちょっと!ヒロの席前だよ」

「ああ そうか」

 私はモナを背後にし彼女の前のちっぽけな机を確保した。


「うぃーっす」

 うぃーっ?!

 なんだ次から次へと入ってくる者は私におかしな掛け声をかけたり、頭を叩いてくる者まで。ここは荒くれ者の学園か。

 そういえば、なぜ私はモナとここへ来たのだろうか。まさか彼女は私の特別な存在?

 特別な存在といえば、ああセレナ……私は幼馴染であり婚約者のお前を他国に奪われ、何かの濡れ衣で処刑されたと……。あの国に絶対復讐しようとしていたのに。


「モナ、君と私はどういった関係かな?」

「ぶっ」

「……!?」

 私の質問に笑う彼女、しかし答えが聞きたい私は振り向いたまま真顔でじっと待つ。


「もう、ほんと頭大丈夫ですかー?ヒロんちとうちは隣でしょ?小さい時から一緒でしょ。」


 小さい時から一緒……幼馴染ということか?ならば婚約者か?!いや、許嫁か。


「そうか。ならば君は許嫁だ」

「……何言ってんの?」

 モナは白い頬を少し赤らめ笑いをこらえるような素振りを見せた。そんなに許嫁と呼ばれて恥ずかしいのか。


「またヒロ、アニメかなんかの真似かよ?マジで朝から面倒くさいやつ」


 私の前に仁王立ちした赤茶色の髪をした青年がそう笑った。やはり私の話し方はおかしいようだ。

 少し静かに様子をうかがうとしよう。



 先生と呼ばれる男性が来ると、皆が静まり返る。彼はこの部屋で現在最高権力を持つと思われる。

 見様見真似で皆と同じ本を机から出し、聞いていたが訳のわからない話を永遠に語る先生に斜め前に座る男はついにゆらゆら揺れだしたではないか。

 なんと無礼な。


「起きたまえ!先生が壇上で教えを説いているのだぞ。」

 私は思わず大きな声を出していた。


「え?!ああ ありがとな。安達」

「ん?私の名はヒロです」

「ああ ヒロ。もう大丈夫だから座りなさい」

「はい」


 どうやら私は平民なのだろうか……誰も私を敬う様子は無いに等しい。


 私の緊張と不安もピークに達した頃、お昼休みと呼ばれる食事の時間がやって来たのだ。

 今朝メイドに持たされたハンカチーフに包まれた物を開けようとしたが赤茶髪の男とモナが私の机を勝手に移動し合わせる。


「おーお前んとこのオカンはやっぱいいなあ。色がちゃんとある。うちのはほら、茶色いぜ」

「オカン?とはなんの事だ。食事を作るメイドか」

「まーだ言ってるのぉヒロ」

「まあそんな感じだな」

「お母さん お母様」


 お母様?!な あの短い頭をクルクルしたあの女性が母上!


「ああ」

「どうしたの?ヒロ」

「モナ、マジで相手しなくていいって」

 私の様子をモナだけは気にかけてくれているようだ。


「ちょっとヒロ!フォロワー何人なったのよ?」

「……?」

 人の食事中に前に立ち腕を腰に当てたまま話してくる女性。髪はゆるく巻かれた茶色。瞳は ん?!碧眼!


「君は、何故瞳が青い?」

「は?カラコンだよ。それよりさっフォロワーは?1000超えたらエッチさせろってあんたが言ったんだからね!」

 フォロワーとは何だ支援者?えっちとは何だろうか。

 どうした?!モナがまた顔を赤らめ少し俯いている。まさか、この女は性悪の令嬢か!ならば相手にしないことだ。


「なに?無視ー?いいわよ。あの約束断るから!じゃっ」


「お前いいのかよっ卒業させてやるって言われたんだろ?」と赤茶髪の男がいう。この男はなんだ、朝から一番馴れ馴れしい。

 卒業?

「そうだな。卒業はしなければ困る」

「ゴホッゴホッ」

 ん?!モナがむせ返っている。

「水をー!誰か水だ!!」

「はあ お茶っあるから」

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