解釈と無知

「いや勿論、パーティ会場とかだったならわかるけどさ、俺らが最初に目覚めた場所思い出してみたら違和感に気づけると思うわ。あんな場所の近くにパーティ会場作らんやろ?」

 俺が閉じ込められていたのは、まるで牢獄のような場所。海外によくある地下の部屋よりも小さくて、それこそ捕虜が尋問という名の拷問を受ける時に連れてこられるような雰囲気があった。

 そんな場所の近くにパーティ会場を設けること自体がそもそもおかしい。それに、机と椅子を収納する場所が近くになさそうなのも違和感の一つだ。

「あー、たしかに。それに机も椅子もないしな」

「そうですね。それに、利便性を考えるならこの近くにそれ専用の部屋があってもいんですけど……」

 疎遠とエア君が口々に違和感を呟く。

「それに、パーティ会場とか集会の場所の壁紙が黒ってのもアレだな」

「というか、パーティ会場にテレビって。普通はスクリーンですよね?」

 ズリキチと辺獄君も各々に違和感を挙げていく。

「そんなこと言ったら、そもそも扉がないことがおかしいですね」

 極めつけにラット君が一番おかしなところを突いてくれた。

「だろ?すげえおかしいだろ?ここ」

 なんか気持ち悪いなあと思ってたんだ、と俺が続ける。

 そんな俺達に向けて――。

「てか、ワイらそもそもここから動いてないじゃん」

 きょうちゃんが鋭い一撃をかます。

 これでは台無しである。

「うん、きょうちゃん。それはもっともだけど、今は何とか説得して一緒に散策しようって提案する流れだったじゃん」

 少々空気が淀んだのを感じて何とか取り直そうとするが、生憎と俺はこういったことがとんでもなく苦手だった。結果、ある程度気心の知れた、ツイッター上で殴り合いを繰り広げている面々の判断に任せるしかなくなったのだが、そんなことを知ってか知らずか、彼はまたも続ける。

「それならさっさと行動した方が早いでしょ。変わんなくね?」

 正論しか言わんのかコイツは。正しさだけじゃ生きていけないこと一番理解してるくせに何を言っとんのやコイツは。

 そんな想いを目線に乗せてぶつけてみるが、何の反応も帰ってこない。

 そうだ、きょうちゃんってこういう強い子だった。

 俺、涙ちょちょぎれる。というのは内心だけにして、何とか場をとりなそうとする。

「まあ、変わらんのは事実だけども」

「んじゃ、さっさと動かん?」

「まあ、まずその前にどういう組で動くかをだな……」

 というような問答を繰り返していると、ズリキチが口を開いた。

「なら、きょうちゃんに行ってもらうのが良いんじゃね?」

「え、嫌だけど」

 思わず「はあ?」という声が漏れる。

「お前マジ?マジで言ってんの?」

「うん。だってワイ一人で行ったら何も対処できないでしょ」

 そして彼は、ワイは危ないところには盾を持ってく主義や、と付け加えた。

「あー……つまり、肉盾が欲しいと」

 当たり前の事だろと言わんばかりの目を向けてくるきょうちゃん。

「ええ……」

 たしかにとても正しいことを言っている。生存という面においては、集団でいることは有効だ。その数が多ければ多いほど敵に襲われる確率は低くなる。もしあの化け物に出くわしたとしても、一緒にいたヤツを背後から蹴とばしてやれば時間は稼げるだろう。

 だが、そういうことではない。重要なのは、疑心暗鬼に陥らない環境を整えることだ。例えば、片方が最初に先陣をきったなら、次はもう片方が先陣をきるというような、最低限そういう交渉が出来るような環境を整えることだ。

 もしそのような環境が整えられなかった場合、離反者が現れる可能性がある。もし現れなかったとしても、危機に直面した時の混乱と独善の横行は明らかだ。だからわざわざ全員の承諾を以てして行動に移ろうとしていたというのに。

 そんな苦労が水の泡に終わった俺を見かねてか、エア君とラット君が声を上げた。

「あの……それならみんなで行きませんか?」

「その方が臨機応変に対応できると思いますし」

 嗚呼、神はここにいたのかと宗教に無頓着な日本人らしさを存分に活かしながら感動していると、ズリキチも続く。

「まあ、それは確かだし、動くならさっさと動いた方がええやろ。なあ、疎遠」

「まあ、うん。なんか群馬くんにも申し訳ないし」

「そうですね、此処にいても始まらないですし、皆で行きましょうか」

 私は普段ツイッター上で殴り合いしていたことを強く感謝した。

 殴り合える関係というのは、即ち結束も自然にできるということで、殴られることを許容できるということは、人に対して優しい人間だということだ。こいつらはなんて優しいんだろうか。マジで感謝。

 と、世の中の真実らしき言説を何ともめでたい頭で考え、感に入りながら立ち上がる。

「ほんとすまねえ。そんじゃ、早速散策しにいくか」


 こうして、俺達はゆっくりながら着実に散策を始めた。

 それを嘲笑うかのように、誰もいなくなった部屋のテレビにはあの化け物が映っていた。

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