解釈と講釈
「まあ、まずは一人ずつどんな感じだったかってのを話してくれ」
そう促して話を聞けば、俺達には2つの共通点があった。
1つが全員が同様の悪夢を見て、同様に玄関で襲われたこと。
もう1つが夢の中であの化け物以外と出会わなかったこと。
そう、話をした全員が同じような経験をしているのに、夢の中では誰一人として同じ経験をした相方がいなかったのだ。この時点で自分たちが予想をはるかに超えた面倒な事象に巻き込まれていることを再認識させられた。
「なるほどな……。ありがちといえばありがちだけども」
そう零す俺に、エア君は尋ねる。
「あ、そういえば群馬さんは何時に起きましたか?」
「ん?たしか9時前だったけど。ほら、遅刻しそうな時間帯」
「え?おかしいですね。私は8時前でした」
明らかな時間のズレ。
「それじゃあ、俺達が襲われた時間にはズレがあるってことか」
ズリキチがそう言葉にする。
「でもあんなの現実だと思えないし、気にすることでもないと思う」
疎遠が続く。
「まあ、俺は疎遠と同じ考え方だな。時間のズレを此処で目覚めてからの経過時間と照らし合わせたいのかもしれないけど、そもそも何分意識がなかったかも定かじゃないし、外と此処の時間のズレは大して意味もないと思うわ」
「……そうですか」エア君の声色から明らかな落胆が見て取れる。
暫しの沈黙。それを破ったのは、きょうちゃんだった。
「じゃあさ、そもそもこれは夢なんか?」
「どうなんでしょう。普通に考えれば夢だと思いますけど」
辺獄君もその点で悩んでいたようだ。
先ほどまで黙って話を聞いていたラット君も混ざる。
「んーでも夢にしては妙にリアルなんですよね。そもそも僕たちこうやって会話できてるわけですし、意思疎通できることってそんなないじゃないですか。それに、僕の意識では、これをリアルタイムに感じてます」
そう、ラット君の言うことにすべてが詰まっている。
本来、夢というものは朧げなもので、夢の中での意思疎通も殆ど省略されている。仮にそれらすべてを満たす明晰夢という可能性は捨てきれないが、そもそも夢を夢として感じられないものを明晰夢とは呼ばない。夢の中で夢を見ていると自覚できる場合にのみ明晰夢は成立すべきもので、このようなリアルタイムに会話をしている感覚に陥っている時点で真っ当な夢ではないのだ。
「そうだよな。俺もリアルタイムに感じてるし、何ていうか、夢独特のあの”何でも許せる感”がないんだよな。伝わる?なんかうまく言葉にできないんだけどさ」
「あー、なんかちょっとわかる気がする」
俺の言葉に疎遠が続く。
「なんていうか、あのふわふわした感じやろ?群馬君言いたいのって」
「そう、そんな感じの奴」
少し砕けてきて普段通りになってきた疎遠と俺の間での共感を他の面々も少し理解できるようで、各々頷いたりもしている。
「まあでも、今直ぐに結論出すのは危ない気がするんで、とりあえずは保留ってことで良い?」
個人的に決め打ちほど危険な行為はないと思い提案すると、こちらも全員が頷く。
「オッケー、サンクス。んじゃ、その上で一つ質問なんだけどさ」
一つ咳払いをする。
「この部屋って何のためにあるのか全く分からなくね?」
恐怖心を煽ってしまうことを考慮したうえで、この部屋を見て最初に感じた疑問をそのままにぶつけた。
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